第6話 大剣とタクナ
目が覚めた。知らない天井ならぬ、知らない惑星が目に入る。空は青くて綺麗だな。
街中なら頭のおかしい朝の気象変動も関係ない。ヴェルナはそう言っていたが、その通りだった。
結局、公園で暮らしてる。公園生活一日目だよ。
タクナの奴どこだ?
「あっち」
シマが歩脚で指し示す。
公園のシンボルとも言える噴水で水浴びしてる。リザードマンって水に強いのだろうか。
「おはよー。こんな事して良いの?」
「おう、遅いぞ。こんな事ってなによ」
怪訝そうな顔で聞き返してくる。と言う事は噴水で水浴びはありなのか。異世界やっぱ凄いな。日本でこんな事したら通報される。
「お前もちゃんと水浴びくらいしとけ、これから探査会社行くんだぞ。身綺麗にしとかないと、採用に関わる」
「わかったー。でも、この水って」
言いかけて驚いた。冷たくてとても綺麗だ。まるで上水が噴き出しているかのよう。噴水内は清浄な水で満たされている。
「あー心配するな。池や沼とは違う。非常時に、この水が生活水になる事もある。だから噴き出してる水は飲めるぞ」
この世界の常識がない事を、昨夜話したからか丁寧に教えてくれた。
「そっか、魔法文明凄いな」
そう言って服を脱いでタクナに倣う。冷たく綺麗な水がとても気持ち良い。空に浮かぶ巨大な惑星見ながら、身を清める心地良さ。羞恥心など感じなかった。
普通に怒られた。
役場の人が出勤してきたのだろう。噴水で水浴びしてる俺らを見つけすっ飛んで来た。
超怒られてる。二人で自然に正座してた。
「いや、だから。水は地下水を噴き上げていて、常に新しく綺麗なんだよ。貯まった水は浄化魔法が掛かる。循環してないの。俺たちが水浴びした所で汚れたりしないわけよ。溢れた水は魔法〜」
しこたま怒られた俺たちは、怒り疲れた役場の人から探査会社の場所を教えてもらった。今は会社に向かっている。
タクナが何か言い訳しているが、噴水のシステムよりわかった事がある。コイツはデリカシーがない。男二人が水浴びした水など利用する奴など居ない。ヒモ計画なんか無理ゲーすぎ。
「あーもういい。わかったよ。それよりアレじゃね」
「ん?おー多分アレだな」
こじんまりした二階建の住居の屋根に看板がある。
【白峰探査(有)】
有限会社なのか……なんかこう異世界らしくない。
ガラッと引き戸を開ける
「失礼します!」
受付カウンターの奥に二人いる。猫背の豹頭と、見るからに強そうな人間の爺さんだ。二人揃ってこちらを見た。
豹頭がゆっくり腰を上げて、こちらにやってくる。猫背で豹頭って、もうデカい猫にしか見えない。
「はい、なんですか。街道に魔獣でも出ましたか?」
「こちらで雇って下さい!」
二人揃って溌剌と声を上げた。
追い返された。
俺たちの要求を聞いた豹頭、もとい豹人は困った猫のような表情で鬼爺いに振り返る。
鬼爺いは苦笑しながらこちらへ来ると、裏に来い雇うか見てやる。そう言った。
裏庭で鬼爺いは、俺たちを上から下まで眺める。俺の刀に目をやり一瞬表情を歪め、次にタクナを見る。
「お前武器は?」
「持ってないでありますっ!」
新兵とはこうあるべき。お手本の様に応答するタクナ。
「舐めてるのかお前」
「舐めてないでありますっ!」
「ざけんな!出直して来い!」
文字通り、襟首を掴まれ放り出された。
その後、鬼軍曹!せめてコイツだけでも、タクナは食い下がっていた。お前らみたいな半人前二人揃ってしか雇わん!と聞く耳持たない。
というか、鬼軍曹なんだあの鬼爺い。
で、現在振り出しに戻され公園だ。
「あーまいったなぁ。俺ついて行かなきゃ良かった」
「したらお前どうするんだよ、餓死待ちとか洒落にならん。なんか方法考えようぜ」
「あ、俺ならどっかの酒場の女の子に養ってもらうから心配いらないぜ」
「お前どうするんだよ、餓死待ちとか洒落にならん。なんか方法考えようぜ」
大切な事なので2回言ってやった。
「お前、どっちか使う?俺同時には使えないし」
刀と長剣を手に取りタクナに差し出す。
「ん?それ多分俺には使えないぞ」
「なにそれ、剣とか刀とか装備できない系?」
「なんだそれ、こっち試させて」
白炎に手を伸ばすので、渡してやる。
「うぉっと!」
受け取った白炎を慌てて両手で支える。落とさないように抱える感じ。
「え?なにそれ、ふざけてんの」
「お前こそふざけてんのか。これ何で出来てんだよ。すげぇ長剣持ってると思ってたけど、ヤバすぎるだろ」
タクナは腕をプルプルさせながら白炎を返してきた。
「んじゃ、こっち使えよ。軽いから」
月白を差し出す。
「そっちは手に取るのすら怖いから嫌だ」
マジかよ、妖刀なのかな。
「とりあえず武器屋行こうぜ!何か良いアイディア浮かぶかもしれないし、やっぱ異世界と言えば武器屋だからな。高まるなー」
「お前が武器屋でワクワクする事なんか、この先ずっとないと思うぜ」
何言ってんだこいつ。
二人が帰り、静寂を取り戻した白峰探査。
さっきまで、元気のいい若者二人を叱り飛ばして追い返していたオニゾウが、今は目の前で茶をすすっている。その姿がおかしくて口元に笑みが浮かぶ。
「武器なんて倉庫に幾らでもあるのに厳しいねー」
「初めて使う武器だ。手にする覚悟は必要でしょ」
不機嫌そうに言うオニゾウ。
「それはそう。でも叩き出す事はなかったんじゃないの」
「食い詰めた感が凄かったな。二人でどうやって武器手に入れるか。その程度出来なきゃ探査員なんか務まりませんよ」
観念したのか、笑いながらオニゾウは答えた。
【白峰金物店】
店頭には鍋やフライパン。その他の調理器具が積まれたワゴンがあり、セール品!全て500円と貼られている。
武器屋に行こうと、タクナを誘いたどり着いた先がこの金物屋である。
「どうした?武器見に来たかったんだろ」
「お、おぅ、そうだな。入ろうぜ」
気を取り直し店に入る。
雑然としてはいるが、きちんと掃除されているらしく綺麗な店だ。鋤や鍬などの農耕具に混ざり、剣や槍など武器もある。
「おーすげーな。こんな風に武器売ってるの異世界って感じで盛り上がるわ」
良く見ると、そこかしこに武器や防具がある。何に使うのかわからない物も含めるとかなりの品揃えだ。
「これこれ。求めていたのはこういうのなんだよ」
タクナに話しかけるが姿がない。アイツどこ行った?探してみると奥まった場所にいる。微動だにしない。
「おいタクナ」
声を掛けるが、ジッと何かを見つめている。刃先を除いて全て黒色、刀身だけで150cm近くある。刃幅は20cmほどか。鉄板のような厚みの大剣。タクナはその剣に見惚れていた。
ヒモになるなどふざけたことを抜かすタクナが、憧憬を灯し大剣を見つめている。
「それ、買おうぜ。お前に合ってる」
愉快な気分になり声を掛けた。
「いや買おうぜって、金なんかねぇよ」
「まぁ任せろ。俺に考えがある。すいませーん!これいくらですかー」
店の奥に向かって大声を上げた。
本日2度目の振り出しに戻った。また公園だ。もう拠点になってきた。
品の良い狼人の金物屋の婆さんは言った。
御主人が気に入って仕入れた大剣は、店の不良在庫として随分長いこと経つらしい。本来150万円の値札が付いていたそれだが、売れる物なら半額以下の60万円にしてくれると言う。
勝ったな、確実に。そう思った。金物屋さんに、取り置きを頼んで店を出た。
確実な勝ち筋がある俺の後を、不安そうについてくるタクナ。
「マサト〜諦めようぜー。強盗とかやめておいた方が良いって。お前のナイフで俺頑張るよ」
お前は少し黙れ。あとお前が果物ナイフとか、笑ってしまって戦えないからやめろ。
「どこいくんだよー」
情けない声を出してついてくる。
「俺に良い考えがあるって言ったろ。卵屋だよ卵屋!」
「卵屋って何よ?」
「知らんの?卵を売ってる店よ」
「魔獣商な」
呆れ顔で訂正された。へぇー魔獣商ね。
「その卵屋にコイツを売るんだよ!」
腰袋に入ったシマからもらった、お宝卵を取り出して掲げる。
「魔獣の卵じゃん。すげぇなどうしたの?」
説明しようとした時、シマが大騒ぎし始める。
「だめーーー!」
「たまごおたから」
「すごいれあ」
「えすあーる」
大騒ぎだな。それとSRは凄いレアの略称じゃないからな。
あまりに騒ぐので一旦公園に戻ってきたのである。
いつしか陽が傾き遊具の長い影が出来ていた。
シマを説得する。
タクナが大剣を欲しがってる、その為にはこの卵を売るしかない。お前にもらったお宝を売るのは、忍びないがわかってくれ。
そう伝えるが、頑として売るのはダメと言う。
シマは言う、それを売るなんてとんでもない。
どっかで聞いた事ある台詞。こいつホントどこでそんな言葉覚えてくるんだろう。
「マサト、シマもダメって言うし、ホント諦めようぜ。それに、俺もその卵を売るのは反対だ。それはお前が持っていないとダメな気がする」
「黙っとけ。もう少しでシマを納得させるから」
そもそもシマはこの卵にまったく興味がない。じゃあお前に返すか?と聞くと、いらない全然興味ない。とハッキリ答える。あと少しなんだと思う。
「マサト!」
急にタクナが声を上げる。
「シマが嫌がるのもそうだけど、その卵はお前が持っているべきだと俺も思う。だから売ったりしたらダメだ」
ダメダメ男なのに真剣な表情だ。
ヴェルナから貰った月白を抜いた。鈴が鳴るような音がして刀身が現れる。
夕陽を浴びてなお青白く輝くその刀身、タクナは目を奪われる。
「お前にはあの大剣が似合う。だから買う」
大剣に見惚れていたタクナの姿。それがヴェルナから白炎を授かった時の自分と被った。
「あなた達、そこで何をやっているの!」
女性の咎める声が飛んだ。
「喧嘩してるんじゃないわよね! カナン様に顔向けできる!?」
「だ、大丈夫です! 喧嘩じゃありません!」
タクナは弾かれたように答えた。
カナン様……ハルモニアの神だ。
へぇ〜ヴェルナが言ってたっけ。
カナン様の御心に背くのは、そんなに怖いものなのか。
「あなた達、昨夜もこの公園に居たわよね。行く当てないの?」
声を上げたのは役場の美人エルフさんだった。喧嘩などしてないと理解してくれた後、一転して心配してくれた。
「それに噴水で水浴びしてたって聞いたわよ」
くすくすと笑う。
「あなた達外から来たのよね。住む所は決まってるの?お金なくて困ってるなら保護費の申請も受けるわよ。もう暗くなるから、役場までいらっしゃい話を聞くわ」
優しく微笑みながら、そう言ってくれた。
小さな事務室、皆んな退勤したのか。
応接コーナーに座らされ、お茶を頂いている。二人で小さくなっていると、笑いながら美人エルフさんが言う。
「私の名前はシルフィーナ、二人の名前を教えて」
シルフィーナと話した後はあっという間だった。生活保護のようなものの申請をし、住居まで案内された。現金10万円を渡され、二人分だから無駄遣いしたらダメよと釘を刺された。中心部からは離れた戸建ては、白峰に着いた時に圧倒されたあの美しい住宅地だ。
色々世話をしてもらい、今はでかい月が昇っている。
「ありがとうございました」
二人揃って頭を下げる。
「もう喧嘩したらダメよ」
「あの、送っていきます」
申し訳なくて言ってみた。
「あら嬉しい。でも大丈夫よ、この街にはあなた達みたいな、聞かん坊は他に居ないから」
笑いながら帰っていった。
二人で家に入る。このデカい戸建てをまるっとタダで借りられるとか、やっぱ異世界半端ねぇな。そんな事を考え家中を散策した。シマは庭に放り投げておいた。拠点の安全確保が急務らしい。
「なぁマサト」
タクナが尻尾の先を揺らしている。
「なんだよ、大剣の件は譲らないからな」
「……いや、別になんでもないわ」
「なら寝ろ!明日になれば良い考えも浮かぶよ」
「そうかもな、じゃあ寝るわ」
「おう!」
そう言うとタクナは寝室へ入っていった。尻尾の揺れはなかった。あと、その部屋この家で1番良い部屋な。クソが。
翌朝、閃いた。
卵屋で卵を質に入れよう。シマを呼びつけタクナを蹴り起こし話すと、渋々ではあるが二人とも納得してくれた。
朝一で卵屋に行った。シマが謎の緊張をしていたが、卵屋に事情を話し、卵を質草に金を貸してくれとお願いした。卵屋は見たこともない卵だと不思議そうにしていたが、驚きの200万円を積み上げた。
「ごめんなさい、用意できるのはコレが限界」
マジかよお宝半端ないな……タクナも絶句している。シマは安い!倍プッシュだ!とか騒いでいたが。70万円だけ受け取り残りは返した。
金物屋に着くと、タクナは唾を飲み込んでいた。尻尾がゆらゆらとしている。コイツの事、少しわかった気がして笑ってしまう。
「んだよ?」
「なんでもねぇよ。さて、あの大剣だ」
「おばちゃん!大剣買いにきたよ」
元気よく声を上げる。70万円支払い釣りはいらねぇと格好つけた。
凄い大剣だ。柄も含めると俺の身長よりも高い。分厚い鉄の塊。格好よく渡そうと手にした。
「マジかよ。動かねぇんだけど」
タクナを見ると苦笑している。
「貸してみ、こうやるんだよ」
そう言って片手で軽々と持ち上げ肩に背負う。そのまま店外へ、歩く後ろ姿がもう格好良い。
右肩に担いだ大剣、片手で空気を切り裂く。振り下ろし正眼に構えている。タクナの口元が形を変えているのがわかる。
「よしマサト、探査会社行こうぜ」
このダメなリザードマンが英雄のように見えた。




