第63話 先輩方のおもちゃにされる
「という訳なんですよ」
朱路に向かうヘリのキャビン。向かいに座るミルディさんが、二人ともなにか良いことあったの?と訊ねてきたのだ。どうやら、俺とタクナはニッコニコだったらしい。
「へぇー。やるなぁ〜タクナ。そのレオスくんだっけ。きっと宝物みたいに大剣見てるはずだぞ」
ラルクさんは、割と真面目な表情で茶化しているみたいなことを言う。
「わかる。俺も育成校時代にKTSの探査員から武器とか授けてもらいたかったわー」
コラナスさんまで。どこまで本気なのかわからない真剣さだ。
「いや、ほんとそんなんじゃないんですよ。結局、原因は俺が武器屋で不用意に大剣を振らせたことだったから」
タクナが言い訳している。
「にしても、買ったばかりの大剣をくれてやるなんて、気前良すぎだろ」
俺もみんなに乗っかりタクナを冷やかす。
「他の誰に茶化されても良いが、おまえだけには言われたくねぇよ!誰のせいで大剣一本無くなったと思ってるんだよ!」
む。それを言われると辛いものが。
「それは、タクナくんのせいなのでは?武器屋でレオスくんに大剣振らせちゃったんでしょ」
笑いながら、擁護してくれたのはエリニナさんだ。今回の先遣部隊の神官。胸の階級章は10等級だ。
「まぁそうだよな。街で偶然出会った探査員はKTS徽章を付けていた。その探査員から武器の扱いを手解きされた。多感な時期にそんな経験したら、それまでの自分なんか簡単に壊れる」
ラルクさんが言う。
「まぁでも向いてたんだろ。あのKTS印の馬鹿げた大剣を振り回すとか大した学生だと思う。入社試験でタクナ見た時は、こいつ頭おかしいんだろうなって思ったもんな」
ザイロウさんまで参戦してきた。撤退試験で音もなくタクナの首を刈り取った人だ。
「ザイロウさん酷いっすよ……俺、そんなふうに見られてたんですか?」
ふふふ、やはりタクナは筋肉馬鹿だと思われていたんだな。先輩方は見る目がある。
「ラグナの奴と俺とザイロウ。三人でタクナの首を刈り取る権利を賭けてジャンケンしたんだ。勝ったのがザイロウだ。次点を取ってマサトを狩ったのがラグナ。俺は負けたから、他の受験者を片っ端から蹴散らした」
普段、寡黙なドルヴァンさんが、とんでもない試験の裏側を暴露してきた。
「え?俺もですか!?タクナはわかりますけど、俺までタゲられていたんですか」
「マサトくん学科試験酷かったからね。四課と五課が採点したんだけど、マサトくんの答案用紙をみんなで回し見して大笑いしてた。ウケ狙い派と、天然派に分かれて激論になったのよ。私とルナちゃんは天然派の急先鋒。結果、私たちが勝利したわ」
エリニナさん。
「私はウケ狙い派だったから、残念だったわぁ」
ミルディさんのそれはフォローのつもりなんでしょうか。
なんか、泣きそうになってきた。知らない方が良かった裏話だ。
「おまえら、面白すぎる話の最中だけど、そろそろ朱路と繋がるぞ。準備しろ。フロラ、制御リングがブレてる。通信にノイズが入る。集中しろ」
「了解」
短く答えたフロラ。蛍光ピンクに輝く、制御リングは高速回転しているはず。なのに静止しているようにしか見えない。どこにブレがあるのだろう。操縦士の仕事って……。
「繋がった。映像出すわね」
ミルディさんが端末操作をしている。お仕事の時間だ。気を引き締めろ。腰の月白を軽く叩いておいた。
「震源は南南東かしら、乙種が少し混ざっているわね」
エリニナさんがホログラムを睨んでいる。
「予定通りだ。東から侵入して南周り。コラナス、俺、ザイロウの順番に降りる」
「ラルク、マサト、タクナは念のため北側を経由してくれ。問題なければエリニナたちと着陸。簡易結界と管制室作ってくれ」
ドルヴァンさんの言葉に頷く。
「朱路の災害は大抵このパターンだよね。なにか想定外の魔獣いるかな?」
「いないわね。灰牙犬の数がちょっと多いかな。誤差の範囲だと思う」
コラナスさんにミルディさんが答える。
「甲殻熊、何匹くらいいる」
「アケロのモニターからは6頭ね。南と西側ね」
「りょーかい。頑張りまーす」
ザイロウさん、軽いなぁ。
「朱路探査の人たちはどうですか?俺らよくお世話になってたんですよ」
「元気そうよ」
そう言ってホログラムを最大化してこちらに見せてくれた。
「おおー。ゼクさんだ!なんかすげぇ久しぶりな気がするぞ」
教会内でゼクさんが街防隊の人たちに、何かを指示している様子が映されていた。
「へー、ゼクさんと知り合いなんだ。親しいのか?」
「むかし、俺らがペーペーの頃に大怪我して白峰まで送ってもらったことあるんですよ」
懐かしそうにタクナが言う。
「甲殻熊と鋼糸蜘蛛に挟み撃ちにされちゃって大変でした。タクナなんか真っ赤なリザードマンになってて笑えたんですよ」
「おまえは顔面が半分なくなってたけどな」
ゼクさんがドン引きしていた。思い出して二人で笑う。あの時と比べたら成長したものだ。
「都市外で育つってこういうことなのね。逞ましいわけだわ……」
エリニナさんに呆れられてしまった。
朱路が見えてきた。そういえば、白峰との交流が盛んだったけど、行ったことはなかったな。今さら気がついて街を眺める。
「白峰とあまり変わらないですね。特徴のない街並みに見えます」
「朱路はこれからが見所よ。夕陽が真っ赤に街を染めるの。朱色になってとても綺麗よ。私は大好きね」
ミルディさんが教えてくれる。
「よし、降下準備しろ。ルガント、予定より気持ち大回りしてくれ。外から内に締めていきたい」
「了解。聞こえたなフロラ。旋回半径を2mあげろ」
「了解」
フロラ、緊張してんのかな。もしかしたらKTS-97じゃないから機嫌が悪かったりして。
ドルヴァンさんたちを各避難路に降下させた後は、予定通り北から街へ侵入した。北側は魔獣の気配がなかった。
「久しぶりだね、マサトくんタクナくん!見違えたなぁ。いまやKTSの探査員かぁ」
着陸後、出迎えてくれたゼクさんに捕まっている。
「いや、ゼクさん。俺ら忙しいんですよ。積もる話は後で。相変わらず下っ端なんで、手を動かさないと怒られます」
タクナとヘリから荷物を教会へと運ぶ。
ラルクさんは、そんな俺らを見て笑っていた。
「ラルクくんも立派になったねぇ〜。初めてきた頃は初々しかったのに、今は9等級か。もうベテランだ〜」
「ゼクさん頼みますよ。後輩いるんですから」
都市外の探査員に頭が上がらないのは、こういうことなのか。
「インカム使えるわよ」
簡易結界を張って、ひとまずは安心だ。これで時間制限がなくなった。乙種が来ても公園内に入ってこれない。
「ゼクさん、使いますか?指示があればお願いします」
ラルクさんが、インカムの箱を乱暴に開けている。
「ん、もらっておこうかな。指示はむしろしておくれよ」
笑いながらゼクさんはインカムを受け取っていた。
「これで終わりだ」
タクナが大きめのダンボールを運んできた。教会内にダンボールが積み上がっている。
「なんかこじんまりした管制室になるんですね」
他の街とは異なり、長テーブルが二つにモニターが何台か。いつもと違う。
「朱路の災害はいつもこうなんだよ〜。三日くらいで落ち着いちゃうからね。乙種が出るからclass3だけど、規模だけならclass1扱いでも良いくらいだ」
「そうなんですか。頻度が高いって聞きました。大変なんですね」
言っても住民はシェルターに入っている。街防隊の人は残っているけど。
「そんなこと言って毎回アクシデントがあるじゃないですか。油断大敵ですよ。前回だって」
ラルクさんとゼクさんが談笑していた。こんな感じの魔獣災害もあるのか。
「マサトさん、どうでしたか?わたしの操縦。ルガントさんからダメ出し何回かされちゃいましたけど」
背後からフロラの笑い声がした。正直、どうでしたかと言われても、なんの問題もないとしか。しかし、それは流石にフロラに失礼だ。
「乗り心地最高だったかな、この分ならリーヴァーに乗らせてもらえるのも近いんじゃないの」
問題なかったのだから、褒めておこう。操縦士が求める技量の差なんて理解できない。
「ここだけの話ですけどね、ルガントさんが私のリーヴァー騎乗を後押ししてくれる有力者なんです。なので今日は緊張しちゃいました」
笑いながらフロラが言う。なるほどね。とりあえず俺はラド課長派だ。ラドさん負けないで下さいね。
「マサト〜、飽きたから代わってくれよ〜」
インカムからコラナスさんの間延びした声がした。
「あ、はいっ!いま行きます!」
「ダメだ。マサトとタクナはそこにいろ。コラナス、ふざけんな働け。ガレルさんに報告するぞ」
即ドルヴァンさんが割り込んできた。
「え、いや俺大丈夫ですよ。経験も積みたいです」
遠慮がちに代わりたいことを告げてみた。
「ほら。これだよ。コラナス、おまえは知らないだろうけど、マサトとタクナはこの四ヶ月で3回も災害派遣に参加してんだよ。部長が怒られてるんだ。今回も戦わせるなって圧をかけてた」
ザイロウさんが、説明している。関係ないと思うんだけどな。黙ってればわからない。
「え?なんで、そんなに参加してんの?」
「知らんけど、1番手のヘリに毎回乗ってるんだよ。格納庫で待機してる説まである」
そんな説あるんだ……
「そのくせ、北の浄水場のパトロールは辛いから外して欲しいですとか言う」
あれは辛いだろ。精神をガリガリ削ってくる。
「なるほど、わかった。マサト、タクナ。俺が悪かった。ゆっくり休め。おまえら実にウチ向きな性格だ。長生きするよ」
ドルヴァンさんが声を殺して笑っている。我慢しなくて良いんでよ。大笑いされても今さら傷つきませんから。
先輩たちの肴にされていた。魔獣と戦闘しながら大した人たちだ。思ったところに鋭い声が入った。
「全員聞いて。北から魔獣が近づいてきてるって。1分くらいで領域に入るみたい」
「種別も頭数も不明。乙種なのは間違いないわ。待って……」
エリニナさんの言葉は緊張を含んでいた。
「一種がいるかもって……」
マジかよ。
「マサト、タクナ。迎撃に向かえ。ラルクは教会に残れ。俺たちもすぐに北に向かう」
ドルヴァンさんだ。
「了解しました」
ダンボールの山と格闘していたタクナに視線をやる。
「タクナ行くぞ」
「おう」
タクナは大剣を引っ掴み、もう教会の外へ走っている。
「マサト、何が来るかわからん。無理はするな。二人で余裕を持って当たれ」
タクナに続こうとした背中にラルクさんの声がかかった。
「わかりました」
そう言って北へと向かった。
すぐにタクナへ追いつき声をかける。
「何が来ると思う?」
「さあな、あの感じからすると熊じゃなさそうだ。夜爪豹かもしれんぞ」
げんなりすることを言う。あいつ嫌い。今でも夢に見るわ。
「マサトくん、タクナくん!確認できたわ、蒼鱗蜥よ。三頭いるわ。一頭は一種よ。無理しないで、時間稼ぎして。ドルヴァンたちが戻ってくるわ」
最悪だな。蒼鱗蜥かよ。限りなく甲種だと呼ばれる強烈な乙種だ。竜に最も近いと言われている。




