第62話 朱路魔獣災害Class3
「おまえさー、マジでふざけんのやめろよな」
タクナがぼやいている。
「おまえこそふざけんな。散々、昨日話し合ったろ。今さら話を蒸し返すな」
昨日は大変だった。暴れるタクナを説得するのに一時間もかかった。育成校に向かっている今、そんなことを言い出すなって話だ。
「大丈夫だよ。おまえがわからなかったら、ガレルさんに丸投げしようぜ。このままレオスくんの悩みを解決しなかったらKTSが舐められます。とか言えばなんとかしてくれるはずだ」
「んなわけねぇだろ。仮にガレルさんが解決してくれたとしても、俺らは死ぬまで扱かれる羽目になるんだ」
「そういうな。レオスくんたちは本気で悩んでいるんだ。なんとかしてやろう」
それに、袖振り合うも多生の縁っていうしな。異世界で袖が触れたか疑問が残るが。
そうこうしている内に、学校についた。昼休みはまだなのに、校庭の片隅は人だかりができている。
えぇ〜。なんでこんなに人いるんだろう。回れ右しそうなタクナを抑える。逃すわけにはいかん。
「いくぞタクナ。敵に背中を見せるなど俺らに許されない」
「育成校で敵作ってくんなよな……」
タクナも諦めて会場に向かってくれた。二人で集団に近づいて行く。
「お疲れ様ですっ!」
全員がビシッと揃って頭を下げる。屈強な若者のそれを見るとヤンキーのOBになった気分。もしくは反社の幹部かな……。
「お、おはよう。君たち授業は?」
「マサトさんが時間を割いてくださると先生に言ったら、お待たせするなんてとんでもないと」
タクナに視線を送る。な、これだぜ。タクナも流石に、これは酷いと思ったらしい。少し憐れみの籠った視線を返してきた。
ほれ。レオスくんにビシッと言えよ。黙ってレオスくんを見るタクナを肘で突く。
「あーー。レオスだったな。俺はタクナという。話は聞かせてもらった。急に弱くなったということで間違いないか?」
下手くそだなぁ。もう少し上手くやれよ。なんにもわかってないのがバレるだろ。尻尾を踏んづけてやりたかったが我慢する。タクナがダメなら、ガレルさんにズタボロにされる未来しかないからだ。
「はい……自分でも何故かわかりません」
「うむ。そういうものだ」
タクナは重々しく頷いている。良いぞ。その調子だ。で、ここからどうするんだ?
タクナが俺を見る。いや、そんな顔しても俺は知らんぞ。小さく首を振ってやる。
生徒たちは固唾を飲んでいる。
「レオス、マサトと試合をしろ」
タクナっ!おまえ何を言い出すんだ!
「マサト、頼んだぞ」
そう言って一歩引く。こいつ、土壇場で俺に押し付けやがった。
「おまえ、何考えてるんだ。どうすんだよ」
「知らねぇよ。とりあえず時間稼ぎしろ。怪我させんじゃねぇぞ」
小声でやり取りする。
「よ、よろしくお願いします!」
レオスくんはクレイモアを構えた。ああ、なんでこんなことに……。
背中の白炎を抜いてレオスくんに言った。
「かかってきなさい。君が積み上げた研鑽を見せてもらおうか」
生徒たちがどよめく。入社試験の合否発表のアルダ部長を真似しておいた。
レオスくんは学年一の実力というだけのことはあった。美しく洗練された剣技は、受けていてとても心地良いものだった。時折見せる隙を突いても、予期していたかのようにギリギリで躱して見せる。
ほー。これで高学年になったばかりか、育成校って凄いんだなぁ。そんなことを考えていた。
レオスくんの額に汗が浮かんできた。どう攻めて良いのかわからなくなっているんだろうな。タクナどうすんだよ。このままじゃ自信喪失させちゃうぞ。
視線をやると、タクナはなにか考え込んでいる。
「よし、そこまでだ」
タクナが止めた。
「あ、ありがとうございました」
肩で息をしながら、レオスくんが言う。なんて声を掛けようか。そう思ったところで、タクナが口を開いた。
「レオス、これ使え」
そう言って大剣を差し出す。
「え?い、いや、俺、そんな剣使えません」
「いいから、使え。なぜ弱くなったのか知りたいんだろ?マサト、こっち来い!」
そう言ってレオスくんに大剣を押し付け、顎をしゃくって俺を呼ぶ。
「マサト、次は少し本気だせ。でないとおまえでも怪我するぞ」
小声で俺に言ってきた。へぇー。なにが見えたんだ?面白いことになってきた。
タクナは振り返ってレオスくんに言う。
「レオス、殺す気で戦え。でないとマサトがおまえを殺すぞ」
いや、殺さないよ?そんなことしたらどうなるか考えたくもない。タクナを見ると、いいからやれって顔している。おまえ本当に大丈夫なんだろうな。
レオスくんは、握った大剣を見つめている。
「よし、レオス。第二ラウンドだ。かかってきな」
とりあえず、そう口にしてみた。
圧巻のひと言。大剣を振り回すレオスは暴風みたいな攻撃を見せた。タクナとは違う、攻撃に全振りしたかのような立ち振る舞い。
周囲の生徒たちは、驚きのあまり声を失って見続けている。
それもそうだ。俺は防戦一方になっているのだから。隙はある。いくらでも倒せる。けれど、この若いリザードマンの荒削りな大剣捌きを見たくて、ずっと受け続けた。
10分程度だったか、タクナの大剣を縦横無尽に振るっていたレオスの動きに陰りが見えてきた。タクナへ視線をやると頷く。
終わりにして良いらしい。少し大きく引く。レオスは引いた距離を詰めてくる。飛び込むと同時に、大剣を振り下ろしてきた。
躱して首筋に白炎を当ててやる。
「それまでだ」
息をするのも忘れていたかのような生徒たち。タクナの言葉に、歓声が上がった。
「レオスすげぇ!」
「マジかよ!おまえ本当に強すぎんだろ!」
膝をついて息を整えるレオスに生徒たちが群がる。
ホントだよ。大したもんだ。こいつ卒業までまだ三年もあるのか。おっかねぇ奴だ。
「レオス、その大剣おまえに貸してやる。卒業までに使いこなせるようになっておけ」
「え、いや。こんな高価な剣お借りできませんよ!万が一壊したりしたら、それに貴重な剣だって武器屋の親父さんが」
レオスくんが焦りまくってる。実に面白い。あんな攻撃を見せてくれた子とは思えない。
「言ったろ、おまえごときが使って壊れるなら、不良品だって。それに卒業まで使って、気に入ったら俺から買い取れよ。ちっとは安くしてやる」
タクナー。おまえ格好つけすぎだろ〜。チキショウ。なんか嬉しくなってきたぞ。
「いや、でもこの剣がなくてタクナさんはどうするんですか?武器屋でやっと見つけた大剣じゃないですか!」
「心配すんな。予備は手に入れてある」
蒼霧探査の倉庫にあった奴があるんだよな。ベルセンさんに感謝だ。
「いや、そうだとしても、俺こんなすごい大剣は」
なおも言葉を続けるレオスだったが、俺とタクナの端末がタグをポップアップさせる。同時にオペレーターの声がした。
「災害派遣要請。朱路にて魔獣災害が発生、規模はclass3と推定されます。乙種が数個体と丙種が群れになっているとの報告です。5等級以上の探査員は出動準備をして格納庫へ向かって下さい」
「レオス、俺らは仕事が入った。おまえに付き合ってる余裕はない。帰ったら話は聞いてやる」
「そういうことだ、レオス。ちゃんと使いこなせるようになっておけよ。まぁまぁだったが、まだまだ隙だらけだ。ひと月くらいは帰って来ないから頑張れよ」
そう言ってタクナとふたりで駆け出した。学生の悩みになんか付き合っている暇はない。けれど、楽しくて仕方ない気分だった。
真っ赤に染まる部屋。アラートが鳴り響いている。このところ災害派遣要請が多いな。机の端の端末に手をやる。監査庁へ問い合わせだ。言ったところで、変わるものではないが、確認しておく必要がある。
「KTSのアルダだ。うちの主力は緋原に行っているが、なんでうちに要請を?」
「しょ、少々お待ち下さい。上の者と代わります」
上って誰だよ。おまえの上には支局長しか居ないはずだが……。
テルク支局長にひとしきり文句を言ってやった。相変わらず、のらりくらりと躱された。古い付き合いだが、口で勝てたためしがない。まぁ事情はわかった。仕方ない。
格納庫へ急ぐ。誰が行くのか選別しておかないとだ。
「おまえら何してんだ?」
目の前には真新しい大剣を背負ったタクナと、今日も育成校に行っているはずのマサトがいる。
「災害派遣要請で朱路に向かう予定です!」
元気よくマサトが答えてきた。
「いや、おまえら休めって指示されているだろ?お願いしたわけじゃないんだ。命令なんだぞ」
「はい!ミルナスさんから一回休みって言われました。緋原の災害派遣はお休みしました。なので、今回は参戦します」
こいつ、やっぱり馬鹿なんじゃないかなと思った。なにをニコニコしているんだか。そういう意味ではない。そう口にしようとした。
「朱路探査には知人もいます。白峰探査の時にお世話になった人です。参戦の許可を頂きたいです」
タクナがもっともらしいことを言う。う〜ん……どうしたものか。人手が足りないのも事実。そして、こいつらが肩書き以上に役に立つのも本当だ。
まぁ、いっか。俺が総務部長に嫌味を言われれば済む話だ。
「わかった。行ってこい。無理はするなよ。ちゃんと無事に帰ってくるんだ。それが出来ないなら、行かせん」
割と真剣に言っておく。こいつら、まだまだ伸びる。ラグナはもちろんガレルとエイナルも言っていた。ミルナスなんか、気に入って稽古をつけているくらいだ。
「はい!ありがとうございます!気をつけて生きて帰ることにします」
なんか心配するのも馬鹿馬鹿しくなる。あのガルバンさんの弟子たちだ。弟弟子みたいなものなのかな。そんな者が現れるとは思いもしてなかったが。
「ああ、行ってこい」
ふたりの肩を叩いて、ヘリに合図した。こいつらを乗せて行けと。




