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第54話 蒼霧魔獣災害Class2

金属を切り裂くような音を立てる二重反転ローター。悲鳴のような高周波音。にも関わらず、機内は驚くほど静かだった。ローターか魔素駆動機のものなのか、重低音の振動が出撃前の心音のようにリズムを刻んでいる。


「そんなことあるわけないでしょ」


「意外とつまらないこと気にするんですね」


なぜかラナさんと、ルナさんに責められていた。5等級どころか1等級の俺が参加しても良いのか聞いた結果である。


「等級は事故を防ぐための大切な指標だが、マサトは違う。戦闘に常識なんかむしろ邪魔にさえなる。本来タクナと同等なんだ。これからも緊急時はそのつもりで行動しろ」


三課全員に一課長のガレルさんが乗っている。


「……すぐ等級なんか関係なくなる」


ラグナさんが言葉を続けた。


「もうすぐ蒼霧と繋がるぞ」


操縦士が伝えてくる。ルナさんが大型端末を操作する。ノイズ混じりのホログラムが浮かんだ。精霊アオギリからの映像。避難は完了しているようだ。


「十分間に合いそうですね。良かった」


いくつかの映像を操作しながら、ホッと息を吐くルナさん。


俺らの乗った高速型のヘリは、後続する輸送型を大きく引き離し蒼霧へ向かっている。通信が繋がるということは残り100kmほどだ。


「なんでお前ら緊張しとるんだ?まさか初めての災害派遣だからとかやめろよ。今さら」


知らずに拳を握りしめていた。ガレルさんがそれに気がつき声をかけてきた。


「え、いや。そのまさかです」


正直に緊張していると口にする。


「なんでclass6を4人、いや協力者含め7人か。7人で乗り切ったお前らがclass2程度で緊張するんだよ。しかもずっと最前線だったお前ら二人が」


「ガレルさん、コイツらは初めて救援する側なんです。無理もありません」


ラグナさんが口を挟む。


「なるほど、それはそうか。ルナっ、データどうだ。想定外の事態に発展しそうか?」


大型端末を睨みつけているルナさんへ問う。


「想定外なのはベルセンさんたちですね〜。結界張った後は教会でお茶してますね。モニター眺めてあれこれ言ってます。必要ならアオギリにテキスト化してもらいますか?」


「いや、いい。どうせ碌でもないことしか言ってない」


嫌そうな顔をするガレルさん。


「魔獣の種類、規模ともに想定範囲内です。作戦通りで良いと思います」


ホログラムを操作しながらラナさんも答える。


「マサト、タクナ、聞いた通りだ。住人の避難も終わっている。結界も張られたばかりだ。現場の探査員はのんびり救援待ちだ。そして何よりベルセンさんたちは超がつくベテランだ。安心してお前らの役割を果たせ」


白峰に来てくれたサリアたちもこんな感じだったのだろうか。俺ら二人と違い課長たちは落ち着いたものだ。


「なんだ、タクナ。お前はまだなんか不安なことあるのか?」


ガレルさんの言葉にタクナを見ると、呆けたようにキャビンの天井を見つめていた。


「ああ、コイツは俺と違う不安を抱えているんですよ。降下が嫌なんです」


タクナに代わり答えておく。


「いや、普通だろ。あれ降下って言うのか?あの高さから飛び降りるとか正気じゃない」


訓練の時と同じだ。こんな高さから飛び降りるとか正気ですかって毎回言ってた。


「ははは、初出動だ。サービスで少し高度落として侵入してやるよ!」


タクナのぼやきを拾った操縦士が笑う。


「わかるぞタクナ。俺も最初は同じだった。頭おかしいと思ったもんよ。安心しろ、降下予定地点に降りられるタイミングで、俺が突き落としてやる」


ガレルさんが、なにも安心できないセリフで励まして?いた。


「マサト〜。まともな先輩がいないぞ、この会社」


タクナが愚痴る。なにがあっても動じないタクナがヘリからの降下が嫌とかなんか安心する。


「ねぇ、タクナくん。どういうことかな?ラナさん愛されキャラが売りなんだけど」


「わたしは癒し系キャラですよ。失礼です」


「ラナ、ルナ。そういうところだぞ。だからお前らは三課なんだよ」


だから三課ってなんだろう。俺もタクナも三課だよ。ダメな子達の集まりなんだろうか……。ありえる。


「ガレルさんだって三課だったでしょ!しかも課長だったじゃないですか」


「そうですそうです。一課に行ったらガレルさんは変わってしまいました。悲しいです」


タクナの軽口の代償はガレルさんが肩代わりしてくれた。ラナさんたちにギャンギャンと責められている。うんざりした様子のガレルさんを見て緊張がほぐれる。気になってタクナを見た。


「……おいタクナ。大丈夫か?」


声をかけてみた。


「大丈夫だ。降下後のことは心配するな。戦える。落下死してなければな」


ラグナさんが笑いながらタクナの肩を叩く。


「とりあえず、その大剣を降下地点にいる魔獣に思い切り振り下ろしてやれ。それだけ考えろ」


ラグナさん、本当に頼り甲斐がある素晴らしい上司だよな。なんで会社にいると小型犬みたいにビクビクしているのだろう。


「見えてきたよ〜蒼霧。久しぶりに来るな〜。リエラさん元気かなぁ」


ラナさんの言葉に窓の外を見た。蒼霧が見えている。名前の通り水の豊かな街。街のすぐ側に大きな湖。それを囲むようにいくつもの湖沼と川が流れていた。


「全員、降下準備しろ」


ラグナさんの言葉に、ラナさんとルナさんを除く俺らは降下準備する。


すぐ横のハッチを開く、轟音が入るかわりに吸い出されそうになる。インカムを起動して反対に座るタクナへ言う。


「おい、開けろよ」


「チッ、わかってるよ。あぁ嫌だ」


急激に高度が下がる。魔獣が目視できてきた。開口部から身を乗り出す。強烈なダウンウォッシュは身体を地面に叩きつけようとする。スキッドに足をかけハッチを掴む、大気が壁になって襲い掛かるがどちらも無視する。


予定通りヘリは街を周回する。最初に降りるのは南避難通路周りの駆除を担当する俺だ。


避難扉に食らいついている砕顎鰐に狙いを定める。背中の白炎に手をかけ飛び降りた。着地と同時にお仕事開始だ。



南から飛来するヘリが見えてきた。高速型か。慌てて駆け付けるほどではないがありがたい。


「ベルセン。ルナと通信繋がった。指示が欲しいって」


教会から顔を出したリエラが声を張る。


指示なんかないぞ。


アオギリは三課が来ると言った。それがわかった段階で俺らの仕事は終わったも同然だ。今もお茶を片手に見物してる最中だ。


俺の現在の関心事は新人が二人いるって話だけだ。入社して配属が三課とか、きっと楽しい奴に違いない。


住宅地に差し掛かる前に大きく右に旋回するヘリ。旋回した直後に探査員が降下するのが見えた。ハイヒューマン?いや、抜き放った長剣がやばい雰囲気なのか。どうやらヒューマンみたいだ。南避難路に取り付いてる魔獣を狙って降りている。


とりあえずこっちに来て、お茶でも飲んでから手伝ってくれれば良いんだけどな。相変わらずウチの連中は気が短い。


旋回するヘリが西の避難路に差し掛かるタイミングでリザードマンが落ちてくる。あれ、蹴り落とされただろ。もう少し新人に優しくしろ。リザードマンは降下が苦手な奴が多いんだ。


北に降りてるのはラグナだな。あいつ喋りの方はどうなったのだろう。あれさえなければ、支社で最高にまともな探査員なのに残念でならない。


「あー、俺はラナたち迎えにいくわ。とりあえずラナとルナはゆっくり着陸してから来いって言っといて」


リエラに答えておく。


ラナもルナも降下とかさせたら怪我しそうだ。メンタルの強さに反比例してフィジカルよわよわだ。なんとかならんのかあの二人は。


東の避難路上にガレルが落ちてくるのが見えた。あいつだな、新人リザードマンを蹴り落としたのは。可哀想なことしやがって。説教してやろう。


説教も楽しみだが、新人二人の戦いぶりも楽しみだ。降下してくるヘリ。ラナたちを迎えに着陸地点へと足を運んだ。


教会内ではリエラがラナたちを嬉しそうに抱きしめている。


「二人とも久しぶりね。ラナは可愛さに磨きがかかってる。ルナは癒しオーラが輝いて見える。本当に成長してて、見違えてるわ」


俺にはまったくわからん。ラナもルナも尻尾を千切れんばかりに振ってるだけだ。昔と何も変わってない。本当に磨くのがそれで良いのかお前らは。


モニターに映し出される新人二人の戦闘を眺めた。なるほど、面白い二人だ。タイプが真逆なんだな。


ヒューマンの方は、回避と手数がすごい。粘舌蛙に囲まれて舌の集中砲火を浴びているが、触れるギリギリで躱すか、切り落としている。ついでとばかりに砕顎鰐の開いた顎に長剣を差し込んでとどめを刺す。


リザードマンは絡水蛇に絡みつかれても物ともしてない。嵐のように大剣を振り回している。暇ができると、絡水蛇の首を面倒くさそうにナイフで切り落とす。噛みつきなどものともしていない。


二人とも新人らしからぬ肝の座り具合だ。実に頼もしい。うちの新人教育に何か革新的なカリキュラムが組み込まれたのだろうか。


「ラナ、この二人すごいな。お前らとは違った意味で新人離れしてる。名前なんて言うんだ?」


「ヒューマンの子がマサトくんです。リザードマンの子はタクナくん。二人とも私に懐いて大変なんですよ〜」


真偽の怪しい情報もあるが、マサトとタクナか。三課の新人らしくてとても良い。


「二人とも白峰探査を退職してウチに来たんです。マサトくんとタクナくん、入社試験でガレルさんと一騎打ちまでもっていったんです。優秀すぎる後輩です」


ルナの言葉に驚いた。白峰探査だと。


「アオギリ、マサトとタクナをメインモニターに映せ。最大望遠で見せてくれ」


翠風探査から聞いていた。白峰に新人が入ったと。あの白峰に若いのが二人。


なるほど納得だ。これが、KTSの産んだレジェンドの弟子たちか……襲い掛かる魔獣たちを危なげなく華麗に捌くマサト。暴風のように大剣を振るい肉片へ変えるタクナ。


二本の光の柱が丙種の海を渡っていた。

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