第49話 BZ-Ⅳとは
「なんですか、これ?」
目の前にはアルマが乗っていたような可愛らしい大きさの二輪車がある。
「これは我らKTSの誇る開発部と整備部の血と汗と涙の結晶。【爆速操縦習得支援型魔素駆動軽量訓練機バスターゼロ4号改】よ」
セレナ特等操縦士が答えてくれた。内気なフロラも誇らしげに胸を張っている。
「えっと……なんて?」
「爆速操縦習得支援型魔素駆動軽量訓練機バスターゼロ4号改だよ。ちゃんと憶えないとダメですよ、マサトさん」
優しいフロラが眉間に皺を寄せている。馬鹿丸出しで、魔素駆動二輪車に乗せろ言った時は困惑するだけだったのに、いまは怒っている。
「まぁまぁフロラ。マサトくんに知識がないことを責めてはダメよ」
いや、すいません。操縦士のみなさまを軽んじたような、乗せろ発言のほうが問題だと思います。なんですって、爆速馬鹿4号改?
「確かに長いわよね。そこで私たちはBZ-Ⅳと略して呼ぶことが許可されているわ」
「びぃずぃーふぉーですか」
うんなかなか良い略称だ。可愛いこいつがカッコよく思えてきた。
「マサトさん、勘違いしたらダメだよ。あくまでも略称は私たち現場への配慮で生まれたものだからね。開発と整備の人たちの前で、略称なんか使ったら失礼になるからね。ちゃんと正式名称を憶えて下さいね」
「そうそう。フロラの言う通りよ。これを作り上げた先達に敬意を払わないと。それと大切なことがもうひとつあるわ。BZはバスターゼロの略じゃないわ。爆速・ゼロの頭文字よ。昔、これを勘違いしていたベテラン探査員が更迭されたという話があるわ。気をつけなさい」
…………。
「あの正式名称なんでしたっけ?」
「爆速操縦習得支援型魔素駆動軽量訓練機バスターゼロ4号改よ。ささ、リピートアフターミー。ばくそく〜」
「いや、セレナさん。俺はもしかするとコレは向いてないかもしれません。他に、初心者向きの練習機ないですかね?」
俺は魔術士ではない。呪文詠唱練習は違うと思う。
「あら、これマサトくん向きかなと思ったんだけど……他にもあるわよ。フロラ、整備部に行ってMN-Ⅴの使用許可を」
「待って下さい!そのMN-Ⅴの正式名称はなんと言いますか」
危険だ。危機察知能力が全力で警鐘を鳴らす。
「魔素駆動操縦適性開発型軽量訓練マッシーンナイト5号くんだよ。素敵な名前ですよね」
フロラが少しうっとりして答える。
「そうそう。とっても素敵よね。この名前はね、開発部と整備部が協力して作り上げた歴史が込められていてね。特に訓練マッシーンの訓練とマッシーンの間に当初、騎の一文字が」
セレナ特等操縦士の話が遠く聞こえた。なるほどうちの会社が馬鹿ばっか言われるのがよくわかる。誰か止める奴はいなかったのか?馬鹿しかいねぇ。
「あの、BZ-Ⅳのほうでお願いします。まずは正式名称を憶えるコツとかあったら」
言い終わる前に目の前にパーソナルタグが浮かぶ。
発信者:ラナ・キリアス
所属:KTS[9等級探査員]
発信地:KTS社内
対象者:KTS探査部三課員
ステータス:良好
「みんなーお仕事ですよー。ラナさん営業部から三課みんなで出来るお仕事もらってきちゃいました!すぐにミーティングルームに集合ー」
タグに触れてないのに、勝手に通信が入る。そんな使い方もできるのか。すげぇな……
「すいません。任務が入ったみたいです。続きは今度お願いできますか」
「もちろん。行ってらっしゃい。気をつけてね」
セレナさんもフロラもにこやかに送り出してくれた。ここから離れられるのが、少しだけ嬉しかった。
「フロラ、次回のためにHR-ⅢとTRX-Mk.Ⅴの正式名称もプリントアウトしておきましょう」
「ああそれも、いいわね。主要諸元表か!あれを丸暗記してもらえばいっか。マサトくんに、早く魔素駆動機取扱免許あげたいものね。どうすれば正式名称を簡単に憶えられると思う?私はやはり開発秘話から」
セレナさんの言葉を背に、全力で事務所棟へ走った。
事務所棟三階、第四ミーティングルーム内。テンションが高いラナさんが、壇上ではしゃいでいた。
案件番号:ARC-D-026-0047
発令:監査庁アルカディア支局
対象区域:アルカディア南部丘陵地一帯
対象魔獣:乙種Ⅰ類三種 黒牙狼 推定数頭(詳細不明)
備考:調査および殲滅を求める神意確認済み。
同種一種個体を含む。
参加資格:探査会社登録法人に限る 指名競争入札
必要等級:探将級探査員 1名以上
探佐級探査員 1名以上
編成の詳細は受注会社の裁量に委ねる
ELC契約者同行
または 監査庁監査官随行必要
提出書類:法人登録証明 履行能力証明 実績要件証明 探将探査員在籍証明
「はーい、質問ある人〜挙手っ!」
案件内容が配布されている。俺とタクナはジッと見つめていた。少し間をおきタクナが小さく手をあげる。
「D案件ですよね。これって。殲滅とかあるんですか?」
そう、俺も真っ先に思った。D案件って調査だけしか知らない。白峰で受けたときは、泣き言を言いたくなるほどキツかった。アルドヴァーンに遭遇したことで遂行途中で完了となったけど。
「ん?どういうこと?普通にあるよ。都市に危険が及びそうな魔獣をカナン様が知ってて放置するわけないでしょ」
なんだ、それ……。都市外街は違うのか。
「はい!監査官同行案件ですけど、誰が同行しますか」
ルナさんがピシッと手を挙げて質問。たいへん可愛らしいけど、この人も9等級だと聞いている。神官なのになんか普通というか、ぶっちゃけ神官に見えない。
「監査官は同行しません!うちの常駐監査官に確認したら、行かないって言われました!KTS内でも特に信頼あつい我々三課ですから当然かと思います」
いや、案件書に思い切りELC契約者か監査官同行が条件に書かれているんだけど。ひと言も発しないラグナ課長を見る。
腕を組み少々俯いて、ゆっくりと首を振っていた。タイトルは【諦観】で決まり。そんな雰囲気だ。
「黒牙狼ですが頭数がまったく不明。推定もされてません。どこまで事態を想定して作戦行動を決めたらよいでしょうか」
「はい!タクナくん花丸です。さすがは入社と同時に6等級になった異例の新人さんです。ラナさん感動しました」
テンション高いなーラナさん。尻尾がぶんぶんと揺れっぱなしだ。
「たぶんワラワラと居るわよ。緑の丘陵地を真っ黒な絨毯が滑るように襲いかかってくるかもよ」
ルナさんが楽しそうに答えてくれた。タクナは顔を引き攣らせている。たぶん俺も同じ顔になってる。乙種だぞ?丙種みたいに出現するとか笑顔で言わないで欲しい。
「す、すいません。その最悪な想定の根拠的なものはなんですか?案件からは読み取れません」
遠慮がちに手を挙げて発言したのは、ラナさんとルナさんがとても楽しそうだったからだ。だが、とても笑える話じゃない。
「ん?根拠はあれよ。なんと言っても、うちの営業が取ってこれた案件だし、ELC契約者がいないうちが取れたということはソラと組合は手を出さなかったってこと。おのずと楽なお仕事ではないと私の経験が告げているわ!」
ルナさんはうんうんと頷いている。タクナと二人で縋る思いで課長を見た。
目を細めにっこりと俺たちを見つめ返す課長。ラナさんの言うことを完全に肯定している。尻尾も楽しげに揺れている。
この人喋らないけど、ほんと表情豊かだな。地獄みたいな案件だということはわかった。
「ほかに何か質問ある人いますかー。なければ作戦会議しますよ〜」
ラナさんが、まとめに入る。いや、最後にひとつだけ聞いておきたい。
「あ、あの!単なる疑問なんですけど、なぜこの案件を営業から?」
「マサトくん!とても良い質問です。マサトくんにも花丸をあげましょう」
とても嬉しそうだ。尻尾千切れちゃいますよ。
「それはですね!可愛い後輩ふたりの歓迎会としてこの素敵案件を選んだのです」
パチパチとルナさんが拍手をしている。
か、課長!タクナと合わせたかのように、ラグナ課長へ振り返った。
腕を組みながら大変満足そうだ。お前ら二人が来てくれたことを全員が喜んでいるんだ。恐縮しなくていい、一緒に楽しもう。そう言っていた。
ダメだこの課。まともな人がいない。オニゾウさん、KTSヤバいです。




