第48話 魔素駆動機とは
タイトルにサブタイトルを追加してみました。作品の雰囲気が伝わりやすくなればいいなと思っています。
朝の周回路ジョギングもだいぶ慣れてきた。
そして今朝の俺は最高に機嫌が良い。なぜならあの魔素駆動二輪車に乗る!予定だからだ。
昨日見たフロラの扱いは見事なものだった。言っちゃ悪いがあの小柄な女子があんな風に扱えるんだ。俺も練習次第で……顔がにやけてしまう。
もう少しで周回を終え、寮へと向かう道へ入る。そんなタイミングで後方から何かが近づいてくる。シュイーンという駆動音。おそらく小型のバイク。少し考えた。ちょうどいい、最後のダッシュの相手になってもらおう。
前傾姿勢をとり、一気に加速する。バイクの駆動音を置き去りにした。
「あーーーーっ!待ってよー!」
ん?なんだ。アルマの声がするぞ。後ろを振り返ると、可愛らしいバイクに乗ったアルマが追いかけてきている。
なんだ、アルマか。視線を戻し一気に引き離してやった。
寮までの道で息を整える。最後のダッシュはさすがにキツかった。ゆっくりと走る。肺で取り込んだ酸素が血液に溶け込み、心臓のポンプで身体の隅々へ押し出されていく。それをイメージして息を整える。
後ろからアルマがようやく追いついてきた。
「ねー。ひどくなーい?なんで逃げるのよ〜」
「おお、アルマじゃないか。おはよう。どうした?いきなりプンスカして」
すっとぼけておく。
「絶対に気がついてたよね。目あったもん」
「なんのことかわからん」
アルマはすぐに諦めた。さすがに付き合い長いだけのことはある。
クールダウンに合わせ横に並んでくる。白いカウリングに包まれた小さなバイクだ。
「これ、見せにきたのにー。昨日、取りに行ってきたんだよ。可愛いでしょ!買ってくれてありがとう!」
アルマの乗る小型バイク。白いカウリングの隙間から黄色く魔素散乱をしている。実に可愛らしいものだ。
ふっ、おもちゃみたいだな。丸みを帯びたフォルムのアルマのバイク。俺はあのごつい魔素駆動二輪車に乗る。お前など一撃だ。
昨日、フロラが会社のグラウンドを走らせていた時に見た加速。あれはさすがに振り切れない。さすがはKTS所有の本物だ。女子供が乗るものとは訳が違う。
「おお、可愛いな。よく似合ってるぞ。けど、危ないことするなよ?怪我とかしたらダメだからな」
とりあえず褒めておく。ふふふ、今は調子にのっておくが良い。
「そうでしょ!可愛いよねー!タクナくんは?もうすぐ着くかな。自慢し、ちがう、お礼を言わなきゃ」
アルマはフロントカウリングに表示されたタクナの位置を指差している。
やはり見せびらかしにきただけだな。お礼とかどうでも良いのはわかっていた。まあ俺らもそんなものを望んでないが。
「あと10分ってとこだな。迎えにいってやれよ。タクナだったらワンチャン振り切られないかもよ」
「やっぱり逃げたんじゃない。ばーか!」
そう言ってアルマは周回路へと戻っていった。
馬鹿とはなんだ!振り切られないかもしれんが、タクナは正面からバイクを受け止めるぞ。そのままどっかに放り投げられてこい。
呼吸はすっかり整った。とりあえず風呂に入って出社しよう。
まだ人気のない事務所。雑巾を片手に小上がりのちゃぶ台たちを拭いていた。フロアをくまなく清掃してくれる清掃業者のかたたちと挨拶を交わす。
今日は俺が当番。タクナと二人で決めた朝の日課だ。
そうしていると課長が現れた。
「おはようございます。課長!」
「お、おはよぅ……」
ちっちゃ!声小さすぎ。まぁでもだいぶ慣れてくれている。最初は、ビクビクと頷くだけだった。
席についたラグナ課長へ、用意していたセリフを口にした。
「課長!自分は魔素駆動二輪車に興味があります。免許も取ってきました。今日は一日操縦士たちの元で勉強したいと思います!よろしいでしょうか」
うんうんと頷くだけのラグナ課長。ちょっとビビってる風にさえ見える。大丈夫なのかな、この課。
しかし、入社試験の時のあの戦闘。何度も思い起こしたが、勝てるイメージが湧かない。
と、とりあえず課長の許可は得られた。今日は遊びに行くわけではない。社内にいる予定だ。課長も誰かに怒られたりしないはず。
心配になって課長の顔色を伺う。なぜかニコニコとしている。わからん。この人本当にわからん。頭を下げて、三課を後にした。
朝の格納庫。六課のみなさまは大抵ここにいる。事務所にスペースはあるのだけど、あまり利用していない。
「おはようございますっ!」
大きく挨拶をして格納庫の小さな事務室へ入った。
事務室には操縦士の先輩たちがそろってお茶を飲んでいた。フロラもいた。もう一人同期がいるはずだけど姿がない。
「ん、君は確か今年入社の子だよね」
「はっ!自分はマサトと申します。第三課に配属されました」
「うんうん。そうか元気があって良いね。それでなんの用かな」
ここからが勝負だ。
ゆっくりした動作で端末を取り出す。急な動きは不必要に警戒心を煽る。取り出した端末を操作して取得したばかりの免許証を表示。
「ラド課長!二輪車免許を取得してまいりました。自分もあのごつい魔素駆動二輪車に乗りたいです!どうか許可を与えて下さい」
同時に腰から身体を折り、深く頭を下げる。
決まったな。ここまでされて心動かされない奴はハルモニアにはいない。みんな親切で優しい人だ。
「えっとぉ〜。どうしたものだろうか……」
む、まだ角度が足りなかったか?手のひらが床につくほどに角度を深くする。
「フロラ、同期でしょ?なんとかしてあげなさい」
後ろから声がした。女性操縦士がフロラに声を掛けている。なるほど、そちらが先に響いたか。頭を上げると、ラド課長も頷いている。
「ありがとうございます!」
課長と助力してくれた操縦士の女性にお礼を言ってフロラを連れ出す。ささ、早く行こうぜ。乗り方教えておくれ。
そして例の馬鹿でかい魔素駆動二輪車の前にフロラといる。小さいなこの子。そしてとても可愛い。アルマとタメ張る可愛さ。特筆すべきは、アルマと違ってうるさくない。おとなしいアルマだ。
「昨日、フロラがこいつを手足のように扱うのを見た。実に見事だった。ささ、許可も出たことだし、俺に乗り方教えておくれ」
そう言ったが、なぜか困った顔をしている。何か口ごもっている様子だ。
「えっとですね。マサトさん、免許ないと乗れませんよ」
ん?免許ならあるよ?
再度、端末を取り出して免許証を。
「いや、それ真核機動機の免許証ですからダメです」
「真核機動機?なにそれ」
「えー。真核機動機です。私たちが扱うのは魔素駆動機です」
ふむ、わからん。
「何が違うの?」
「なにもかも違うんです」
フロラはとても困っているようだ。額から汗をかいているようにすら見える。
「えっと、この免許じゃ乗れないの?」
「はい。魔素駆動機取扱免許証が必要です」
謎ワードが飛び出した。
「それどこでどうすると取れるの?」
「育成校の操縦士科で取れます。あとうちでも交付してますね。監査庁から委託されてますから」
なるほど、監査庁と聞いて雲行きが怪しくなってきた。
「取りたいけど誰に言えばいいの?」
「私も交付許可資格はありますけど、そんな簡単には……」
フロラはいよいよ困った顔をしている。
「取るのたいへんなの?」
「一般人は真核制御器の扱いに慣れるのが大変って聞いたことあります」
俺は探査員だよ?一般人枠なのか。
「た、探査員だと、どのくらい掛かるのかな?」
「聞いた話ですが、早くて1〜2年かかるみたいです」
打ちひしがれるとはこのことか。憧れのごつい魔素駆動二輪車の横で、両手と膝を地につけていた。
馬鹿な、苦労して取った免許証じゃなんの役にも立たないとは。
「えっと、えっと、た、試してみますか?もしかすると操縦士の才能あるかもですよ!」
フロラが救いの手を差し伸べてくれる。
「ありがとうフロラ。参考までに操縦士の才能ってどれくらいレアなの?」
「確率とかは私もよくわかりませんけど、KTSに入るのは申請書を提出しただけです。KTSを選んだわけじゃなくて抽選の結果でKTSになりました。そこはラッキーでした」
ずっと困り顔だったフロラ。少しだけ嬉しそうな顔を見せてくれた。
マジかよ、超絶レア能力じゃん。もううずくまってしまいたい。
「ま、マサトさん、とりあえず試してみましょうよ!ささ、跨ってみて下さい!」
フロラはごついそれのシートを叩く。ノーチャンスだとわかっているが、よろよろとシートに跨る。
「駆動機を起動しますね」
そう言って車体のパネルに手をやる。するとヴォンという重音が響き、紫の光が溢れる。やばい感じ……
「ここから制御器を起こしてください」
「制御器を起こすって?」
フロラは少し考えている。なんて説明すればいいのかわからない風だ。
「えっと、制御リングを組み上げてみて下さい」
うん。フロラには悪いが余計わからなくなった。
「これ、降りても大丈夫?」
跨ってわかったけど、触るのも怖い。勝手に降りたりしたら大変なことになりそうまで感じた。
「あ、ちょっと待って下さいね」
そういって左手のクラッチレバーのようなものを操作する。
「降りても大丈夫ですよ」
勝手に降りなくてよかった……
「一回お手本見せますね。言葉じゃわからないですよね」
なぜか少しだけ溌剌としてくるフロラ。ちびっ子のくせに堂々と跨る。
「制御器を起こしますからよく見てて下さいね」
言うや否や、車体を紫の光が包み込む。それは急速に収縮し、駆動機を取り囲む紫のリングを生成した。すげぇ……なにが起こったのかはわからんけど、触るのも怖かった力が静謐さを持っている。
これが制御された魔素駆動機ってものなのか。美しい紫の光を眺めていた。
気がつくと、周囲に操縦士の先輩たちがいた。
「マサトくん、お手本見たでしょ。もう一回試してみなよ」
ラド課長まで野次馬にいて、そう言ってきた。フロラの制御器の扱いを見て、どうにかなるとは思えなかった。けれど、アホ丸出しで乗せて!とか言った手前、勧めてくれたのに諦めるのはダメだと思った。
フロラが降りて代わってくれる。先ほどの手順をもう一度トレース。
「制御リングを組んでみて」
同じことを言われた。フロラの作った静かなリングをイメージする。しかし、なにも変わらなかった。
「ふ〜ん。悪くないわね。センスありそう」
事務室で助け舟を出してくれた女性だ。
「マサトくん、育成校に通うんだよね?操縦士科の授業も受けると良いよ。才能のある子たちの中に入るから、実技は受けなくて良い。絶対についていけないから。とにかく学科を勉強しなさい。そして暇があったらここにおいで。実技は僕たちが教えてあげるから」
腹の下で獰猛な光を放つ魔素駆動機。こいつを制御出来る日がくるとは思えなかった。けど、操縦士の人たちが教えてくれるなら、頑張ろうと思えた。




