第46話 姉アルマ
本日は46話と幕間の2話を投稿しています。
短い幕間ですが、白峰の様子を描いていますので、よろしければどうぞ。
会社の休憩室でぼんやりしていると、端末にパーソナルタグがポップアップされた。誰だろう、端末が鳴るのは今のところ良い話がない。
発信者:アルマ・シロミネ
所属:南西大学[総合博学部]
発信地:SWU内カフェテリア
相対位置:北東方向1348m
ステータス:正常
「アルマじゃん。何の用だろう」
浮かんだタグを弾いて通信に出た。
『マサトくん?アルマです。あのね、相談があるんだけど、いま大丈夫?お仕事してるって出てるけど』
「いや、仕事中だよ。かけてくんな」
『えー。忙しいの?タクナくんは〜』
「ぜんぜん暇。タクナもここに居るよ」
『ちょうど良かった。二人に相談なんだけど、わたしバイク欲しい。買って!」
「なんでだよ」
タクナも思わず突っ込んできた。そりゃそうだ。
「いや、なんで俺らに言うんだよ。お前だってそこそこ金持ってるだろ。いくらするのか知らんけど自分で買えよ」
『えーやだぁ〜。クロさんに無駄遣いしちゃダメよって言われてるもん』
「マサト切っていいぞ」
「アルマ、勉強頑張れよ。なんか困ったことがあったらいつでも相談するんだぞ」
そう言って通信終了させようとした。
『待って!待って!私も半分出すから〜。友達みんな持ってるんだよぉー。私だけなくて寂しいよ〜』
他所は他所!うちはうち!そんなに他所がいいなら、言いかけて思いとどまる。タクナの顔を見た。タクナは少し考えて頷く。だよな、しゃあないか。
「んーわかったよ。出してやる。ただし、条件がある」
『えーほんと!嬉しいっ!なになに条件なんでも聞くよー』
こいつ本当に大学でやっていけるのかな。バイク一台でなんでもとか、俺ら心配なんだけど……
「俺も免許取る。だからどうやって取るのか教えなさい」
というわけでアルマと一緒に免許を取ることにした。俺は魔素駆動二輪車に乗りたいのだ。
聞くところによると警察局に行って所属を示し面談受ければ免許をくれるらしい。手数料もわずかみたいだ。
「タクナは取らないの?一緒に行こうぜ」
「いや、俺は良い。アルマに無茶しないよう言っといてくれ。あと、買うなら良いやつにしようぜ。安全装置てんこ盛りのやつ。あいつ鈍臭いからな」
タクナは興味ないらしい。ふふ、魔素駆動二輪車は俺がもらったな。等級に差があるから技能で差を埋めてやる。
「おっけー。ラグナさんに、抜け出して良いか聞いてくるわ」
白峰探査なら聞くまでもないが、流石にここは大企業。勤務時間内にフラフラ外出が許されるのかわからん。
休憩室を出たら上のフロアに向かう。俺らの事務所は三階にある。無駄に思えるほど広い階段を四段飛ばしで跳ねるように上がる。三階の突き当たり。探査課と書かれた大きな部屋に入った。
受付けカウンターを通りすぎて中に入る。入口から1、2、4、5、6課とゾーンアドレス。外資会社みたい。一課と二課はソファだったり巨大なカフェスペースがあったりと、なかなかに豪勢。パーテーション代わりの個室ブースまである。四課と五課もスペースこそ小さいが同様におしゃれなデスクやソファーが並ぶ。
そんなおしゃれオフィスを横目に進み、最奥が俺らの三課。小上がりになっている。
リバーシブルな天板が乗った長方形の安っぽい炬燵が二卓。布団は外してあるらしい。壁際にはおしゃれで機能的な書棚ではなく、すりガラスの入った食器棚。中は急須や湯呑み、缶に入ったお茶っ葉、あとお煎餅。
あれだな、令和のニューヨークスタイルかと思ってたら、昭和の零細個人事業所になったみたい。
その零細企業のトップたるラグナ課長は、スチールの脚が折れる丸いちゃぶ台にどっかり腰を下ろしている。課長のデスクだ。
「課長、外出してきても良いでしょうか。知人がバイクの免許取りたいから付き合ってと言われました。ついでにお世話になる育成校に挨拶もしてきます」
黙ったまま深く頷くラグナさん。どうやら良いらしい。この小上がりで、ラグナさん以外の人を見たことない。ラナさんは休憩室か四課にいるし、ルナさんも休憩室か五課。
ここを利用しているのは、俺とタクナと課長だけだ。そして、ラグナ課長はほとんど喋らない。今回のように、なにかお伺い立てしても黙って頷くだけだ。
たぶんだけど、却下すると食い下がられるかもしれない。その理由を説明するのが億劫。だから何でもオッケーしてるんだと思う。
今のなんか勤務中に、遊んできますと言ってるようなもんだ。
いずれにせよ、ラグナさんの許可は得られた。放し飼い状態になれたので出掛けよっと。
アルマの通う大学までは都市の中心部へ向かい歩いて20分ほどだ。住宅地に建てられた南西大学は広い敷地を持ち、開放的な作りになっている。ポプラによく似た並木道があったりして、実に落ち着く環境である。
構内は女子大なのかと思うほどに女子率が高い。戦闘服姿で歩くと実に浮いている。心なしかジロジロ見られている気がする。嫌ね、野蛮人がいるわ。とヒソヒソ話まで聴こえてくる気がする。チキショウ!
端末を見ながらアルマを探していた。これ本当に便利だな。悪用する人間がいないってこういうことか。あと数十メートルの距離まで近づくと、アルマのタグが飛び出す。タッチすると。
『出迎えご苦労!目標を視認した!これより迎撃に向かう』
シマの影響だな。シマならいざ知らず、お前ごときに迎撃されてたまるか。KTS舐めんなよ。俺一人でここを制圧できると思う。
「マサトくーん!」
アルマが跳ねるように小走りしてくる。飾らない格好に地味なトートバッグ。着飾っているわけでないのに、人目を引くのはアルマ本人の魅力なのか。
可愛らしい見た目の癖に端末通信一本で、バイク買ってとかいう恐ろしい女だ。怖いのでニコニコ顔で頭を撫でてやった。
大人しく撫でられてて可愛い。小動物感がすごい。
「おお、新しい戦闘服だ!KTSのやつだね。うんうん。胸のKTSマークのせいか、少し貧乏臭さが抜けてる気がするよ〜」
ぶち殺すぞ、このハムスターめ。
「ねぇねぇ、私は私は!」
くるくると回って褒めて欲しそう。
「うんうん。可愛い可愛い。バイク買ってとか言い出さなきゃもっと可愛いのにね」
どれだけ可愛かろうと、良い虫の判別が出来るようになるまでは、全部駆除してやるからな。
「みんな持ってるんだよ。わたしだって欲しいの!はやく行こう!」
そう言って手を握り走り出すアルマ。お前が俺を連れて走るより、俺が抱えた方が早いわ。
「アルマちと待て。おまえ、ここ知っとる?近所だよな」
飛び跳ねるアルマを抑え、端末のホログラムを見せる。
「ん〜。なんか見たことある気が……あっ!わかった探査員育成校だ。すぐ近くにあった気がする」
ホログラムをちょいちょい操作し、目的地を把握したようだ。
「知ってると思う。育成校になんの用事。もう首になっちゃったの?」
これから高価な物を買ってもらう態度とは思えん。アルマ許すまじ!そう思ったが、事情を説明しつつ中央警察局へと向かった。
「ふ〜ん。探査会社でもそんなことあるんだ〜。マサトくんも大変なんだね」
地下鉄に揺られている。いや、まったく揺れないし、ほぼ無音でハルモニア魔法文明が怖い。
アルマはタクナと違い、学校に放り込まれたと言っても笑わなかった。
「探査会社でもってどういうこと?」
「ん、わたしの大学も仕事しながら講義受けてる人たくさんいるよ。むしろ私みたいな学生だけやっているほうが少数派かもしれない」
「そうなの?なんだそれ……凄いなアルカディア」
苦学生だらけなのか?
「ん、みんな中高等学校、マサトくんが通う育成校みたいなのね。それを卒業したら働く人が多いみたい。それで、仕事で必要な知識は大学で働きながら勉強するんだって。凄いよね」
「へぇー。会社側の理解がないと難しいよね」
「ん、会社がお金出してくれるんだよ?コレとコレを修めて来なさい。って送り出されて参った言ってる人いた」
なるほど。俺にはとても理解できない。ハルモニアの常識を学びに行けと言われるわけだ。
アルマの話を聞いているうちに地下鉄は中央駅に、警察局はすぐ近くだ。
手続きは驚くほど簡単に済んだ。アルマは学生証、俺は探査員登録証を受付でかざすだけ。
「KTSの探査員のかたですか?なんでまた……」
警察官は不思議そうに俺を見たあと、アルマに視線をやる。なにか納得したらしく、頷きながら免許証承認手続きを終わらせてくれた。これが面談なのか?
手数料は二人で2400円。厚めの冊子を渡された。交通ルールが書いてあるので、必ず目を通すように言われる。
「妹さんはバイク買ったお店で、運転講習ですからね。ちゃんと初めて乗りますと申告して下さいね。面倒くさいからって言わないで乗ったら処罰されますよ」
ふーん、そんな制度なのか。簡単だな。
「お兄さんは、まあ後は会社の方でですね」
笑いながら言われた。さっきの反応からすると、ひょっとすると会社で免許取れたのか?
警察局を出るとアルマが不満気に言う。
「妹さんだって。失礼しちゃうわね。どうみてもマサトくんが弟さんでしょ!」
こいつ、なに言ってんだ。突っ込みどころがありすぎて、どこから手をつければ良いのかわからん。
「そうだねー失礼な人だったねー」
何も言わないことにした。どうやら本気で思っているらしいから面倒になった。
「育成校で試してみる!わたしがマサトくんの保護者だからね。弟を心配してついてきたお姉ちゃんで行くことにする」
「ああ、試してみると良いよ。とりあえずバイク買いにいこうよ、お姉ちゃん。弟がお金出すから」
ハッとするアルマ。買い物、忘れてたのかよ。もう置いて帰ろうかな。
バイクは買ってやった。店で半分支払って残りは端末から、タクナに払っておくよう指示しておいた。突然の出費だけどまぁしゃあない。
育成校は当然無理だった。姉ですと言い張るアルマ。困惑する校長先生。すいません、うちの子が……。
背筋をしっかり伸ばし校長先生に姉アピールをするアルマの陰に隠れ、片目をつむり首を激しく振る。さすがは校長先生、俺のジェスチャーで全てを理解してくれた。
俺にこっそりと頷くと、気持ちを切り替えたのだろう。アルマを保護者として扱ってくれた。
挨拶しにきたのに、痛い子の相手させてしまって申し訳ないです。これからお世話になります。
あと、この子は通学しないので安心して下さい。こうみえて南西大学の学生なんですよ。信じられないと思いますが。




