第45話 酷い入社式だ
「お前なにしてんだ?」
会議室内は四角にテーブルが配置されている。俺とエイナルはアルダ部長を挟む形で上座にいる。問題は当たり前みたいな顔で、左辺に座っているラナだ。
「通訳ですよ?私がいなくて三課はどうするんですか。ラグナ課長だけで三課が機能しますか。それともガレルさんはもう一課になったから関係ないとでも」
ラグナを見ると文字通り尻尾を巻いて小さくなっている。この姿を見てアルカディア支社の最年少課長記録を塗り替えたとは、誰も思わんだろうな。
もう一度ラナを見る。不思議そうに目をぱちぱちさせて俺を見ている。
お前はまだ9等級だ。そう言いたくもなったが、なんかこいつ相手にそんなこと言うほうが負けた感がある。放置しよう。それにラグナが会議で、ちゃんと使えるのは良いことではある。
「では新人どもの扱いに関して話そうか」
改めて全員に向けて言った。
「それじゃ育成校卒者は例年通り3等級で更新、組合辞めてきた奴は据え置き6等級で。問題の白峰からの二人。こいつら、探査員登録してなかったから現在0扱いになっている。まずは部長、なにかお願いします」
紹介状持ちが混ざっているのを、隠してたのは部長だ。今年の入社試験に都市外の紹介状を持ってきた奴が二名いる。試験当日、サルディからそう聞かされた時の驚きたるや。
「ん。監査庁に確認した白峰での活動報告書見たろ。それと試験結果からお前らで判断すればよいだろ」
んなことはわかっている。そうはいかないから、最後まで取っておいた議題だ。
「報告書だけなら5等級、いや6でもいいくらいですね。さすがは都市外の探査会社に勤務してただけのことはあります。出撃頻度が半端ないです。平均しても週4、時期によってはひと月毎日なんてのもあります」
ラグナがうんうんと頷いている。お前、あいつら気に入ったのか?なら喋れよ。マサトのほうは口が減らないタイプだぞ。試験中に、俺の首を落とす言ってきた奴だ。
「すごいわよね〜都市外で育った探査員って。学校育ちとは目が違ったわ〜。明日からでも一緒に仕事できそう」
ベルレナは眠たげに、実技試験の考察を捲っている。魔術士でも違いがわかるわけか。
「でも、リザードマンの彼はさておき、ヒューマンの子の学科はどうなの?酷すぎて逆に興味でるわ」
そこだ。タクナも酷いが、毎年この程度の酷い奴は来る。KTSは馬鹿ほど受かる。この噂を信じてくる奴は後を絶たない。馬鹿が受かるわけじゃないんだがな。頭のおかしいラナだって、学科試験は満点だ。名前を書き忘れなければだが。ラナをチラッと見る。
「なんですかガレルさん?良い感じじゃないですか。ウチで働くなら、どうせ壊れなきゃいけないんです。最初から壊れてるなら、間違いないです」
ラナの言葉に、ラグナがブンブン音がするほど頷いてる。お前に三課を託したのは正しかったのだろうか。少し不安になる。
「いや、ラナ。ガレルが言いたいのは、そこじゃなくてね。さすがにこのまま放置するわけにはいかないレベルかなと」
「エイナルさんこそ、なに言ってるんですか!マサトくんの採用に、真っ先にサインしましたよね?いまさらそんなこと言ったら可哀想です!私の後輩になるんですよっ!」
ラグナは腕を組んで目を閉じている。そうしていると部長より貫禄あるなお前。あとラナはそういうところだぞ?お前、初めて三課に後輩が来るから嬉しいだけだろ。尻尾振りすぎだ。
「それにしても、このマサトさんはなんでこんなに学科ダメだったんですか?突飛な解答すぎますね。ウケ狙っていたのかしら」
おもしろ解答すぎて、お堅い神官すら口に手をやり笑っている。
「それはですねセルナさん。なんとマサトくんは異世界人なんです!だからこの世界について疎いのです。凄いでしょー!」
もうお前が三課の課長でいい気がしてくる。通訳はどうした。この件について、ラグナはなにも考えてないぞ。
「へぇー。それは凄いわね。うちも遂に世界を跨ぐ大企業へと歩み始めたのかしらね〜。魔術士にならないかしら、ラナちゃん誘ってみてよ」
「えぇー四課に引き抜く気ですね。そうはさせませんから。マサトくんもタクナくんも、ラナ先輩ラナ先輩って懐いてくる予定ですから、あげません!」
「ラナちゃんに懐くのはいいとして、アミカ教の教義をどの程度の理解しているか。カナン様に対してどう思っているのか。そこは問題ですよ」
いかん。女どもが掻き回し始める。とっ散らかってきたぞ。エイナル、頼む。視線を送る。
「いや、三人ともちょっと待って。話を元に戻そう。まず彼を採用したのはここに居る全員だ。三課に入れるのも決定だ、それは動かない。しかし、さすがに常識がなさすぎて等級をどうするかって話だったよ」
そうそう。お前らうるさいぞ!と言いそうになったが、エイナルはそこらへん上手い。というか、部長はもう少し話に参加して下さい。会議ですよ?
「学校に行かせる」
うぉ!ラグナが喋った。ラナたちも驚いてラグナに視線を送る。ラグナはビビって下を向く。しっかりしろ、お前は三課の課長なんだぞ!
「うちで、一から教育をするのは非効率。育成校にでも放り込めば良い。幸い、戦闘技術やメンタルは十分。そのための訓練時間を使い学校に通わせる」
「そう申しております」
ラナが役目を思い出したらしい。ラグナは腕を組んだまま、目を細めこちらを窺っている。黙ってると部長感半端ないな。アルダ部長の後は俺かなと思ったけど、こいつも意外とありなのか。
いや、ダメだ。ラナが居ないと何も発言しない探査部長とかありえん。監査庁に呼び出された時に勝負を決めるのは口先だ。連中の前じゃ貫禄なんか一ミリも役に立たない。
それはさておき学校か。腕を組み考えてみる。
良いんじゃないか?
「部長、ラグナの案はどうでしょう。悪くないと思えます」
椅子の上で行儀悪く胡座をかいてるアルダ部長に声をかける。
「ん〜。確かに良いかもしれないな。けど、問題があるぞ。誰が育成校に話をつけるんだ?」
「いや、部長。さすがにそれくらいやって下さい。卒業証書なんか要らないんです。教育局に知り合いくらいいるでしょ。話をつけて下さいよ」
いいぞエイナル。普段、厄介ごとを押し付けられてばかりだ。こういう時こそ部長に仕事をやらせよう。
「はいっ!育成校じゃなくて幼年学校が良いと思いまーす。マサトくんがちびっ子に囲まれてる姿が見たいです!学力的にもピッタリだと思いまーす」
ラナが手を挙げてる。
後輩はお前のおもちゃじゃないんだぞ。マサトが可哀想とか言ってたのは誰だよ。
だがまぁ、アズール・ホエムはデカくて怖いとか解答するメンタルだ。幼年学校に通うのもアリか。
KTSの一室、入社式が行われている。
社長の長い訓示が続く。正直言って内容がまったく入ってきていない。だが、KTSアルカディア支社のトップだ。想像を絶する強さなのだろう。
俺たちを含めた前衛6名、後衛7名が職制に合わせて前後二列に整列している。
後衛職は俺らの翌日から試験があったらしい。前衛職のうち1名は他の都市の合格者だと。この13名がいわゆる同期入社。これから一緒に長いこと死線を彷徨う仲間たちとの入社式だ。
仲間の手前もある。なんとか欠伸を噛み殺し、視線だけでもと壇上の社長へと集中させた。結局、社長が何を言ってたのかよくわからなかったけど。
「続いて探査第二課のエイナルより挨拶させてもらいます」
狂気の追撃試験アトラクション試験官だ。ここからが本番か。現場の責任者感が凄い。
「あー、エイナルです。前衛職の諸君とは試験で顔を合わせてますね。憶えている人もいるかもしれません。よろしくお願いします」
忘れるわけない。エイナルさんが軽く頭を下げるのに合わせ、俺らも頭を下げる。
「一般的に新人探査員の三年間の死亡率は4〜12パーセントとなっています。KTSに限ると8〜24パーセントです。正直、憂慮すべき数字です。なので、皆さん死なないようにして下さい。私からは以上です」
短っ!社長の百分の一くらいだよ。もう少しお話してよ。
「次に探査四課のベルレナより……え?居ない?」
なんか揉めてるぞ。司会の女性が職員と小声で話をしている。
「失礼しました。探査三課のラナが挨拶します」
急に押し出された狼人の女性魔術士。
「えっと、三課のラナです。四課長のベルレナが遅刻しているようなので、急遽挨拶させてもらいます。ちなみにベルレナとは試験の際、皆さんを丸焦げにしようとした魔術士です」
若くて可愛いクロさんだ。同種族同性同職。否が応にもクロさんを重ねてしまう。というか丸焦げ?後衛職試験も頭おかしいらしい。
「あの、エイナルさんの話が酷いので、私からは希望に溢れる話をします。入社三年の死亡率は確かに高いですけど、その後は安心です。死亡率は一般と比較すると極端に下がります。ほとんど0%です。なので心配しないで働いて下さい。ただ三年勤務後の離職率が高めなので、辞めないで下さいね。私からは以上です」
ニコニコと可愛らしく笑って話した後、誇らしげに壇上から去っていくラナさん。胸元で小さく拳を握り締めている。
「…………。」
同期たちは無言だけど、全員の声がした気がする。俺も同じ意見だ。なんのフォローにもなってない。エイナルさんの話の酷さが増しただけだ。
その後は五課のセルナさんの話があった。神官らしく、そのときカナン様は〜とかアミカ教徒としてやら、ありがたいお説教を長々としてくれた。社長より長かった。
リアルに現場で働く先輩探査員の話だ。傾聴しなければならぬ、そう思って全部聞いた。
要約すると、お前ら戦闘担当はカナン様を馬鹿にしているのか?死に急ぐような真似はやめろ!神官への負担が半端ない。少しは頭を使えと。
シンプルに前の二人の話の裏付けだ。簡単に死にすぎとか、死なせないために自分たちがどれだけ苦労しているか。一見良い話を、よくもまぁ、あそこまで悪し様に語れるものだ。神職者も頭おかしいらしい。
俺とタクナは、死んだ魚のような濁った目をしているだろう。明るい未来がひとつもなかった。
酷い入社式のあと、配属やらの説明を挟みガレルさんが言う。
「次に探査員登録証の更新をするぞ。データを送るから確認してくれ」
よし、これを待っていた!野良探査員0等級の称号を捨てられる。わくわくしながらデータが更新されるのを待つ。
ふむふむ。所属はKTS探査部第三課とな。等級はどうなるのかな、実務経験のある同期のダリルさんは、6等級だと聞いていた。俺らはダリルさんほどキャリアはない。しかし、育成校卒組とは違うはず。期待しながら端末を忙しく傾ける。
浮かんだ数字は1だ。
なんでだよっ!シマと同じかよ。
「あのガレルさん、なんか許容できない更新がされたんですけど……」
手を挙げて遠慮がちに申し出てみた。さすがに納得いかん!
「ああ、それな。おまえ常識なさすぎるから、学校行ってもらうことに決まった。先生に出される常識クイズで成績良かったら等級あげてやることになった」
なに言ってるのこの人?タクナとサイルが俺の端末を覗き込んでいる。うるさい、あっちいけ!
「幼年学校に放り込む予定だったけど、先方から拒否されてな……うちの部長のゴリ推しも通用しなかった。残念だが、アルカディアの教育局がKTS如きには屈しないという良い話でもある」
「幼年学校ですか?そこは一体どのような……」
なんかよくわからない話をされているが、聞いてみた。
「ああ、すまん。知らんよな。幼年学校というのは6歳から12歳くらいの子供たちの初等教育する機関でな。おまえにピッタリだと思ったのだが、ガサツなKTS探査員がきたら子供たちに悪影響があるの一点張りでな……力不足ですまないと思っている」
いや、別に謝って欲しいわけでは……タクナの顔に微笑みが広がる。
「でも、心配するな!探査員育成校は瞬殺してやったぞ。教育局に掛け合う必要すらなかった。最寄りの育成校の学長に電話して一撃だ。明日からでも来て良いと、言質を取ってある。任務以外の時間はそこに通え」
サイルの顔を見た。その表情はなんだ?何を考えているのか読み取れん。
「サイル、育成校ってどんなところ?」
目の前に、そこを卒業した奴がいるので聞いてみた。
「えっとぉ、幼年学校を卒業した12歳から18歳の生徒が勉強するところですね。あっ!でも浪人する生徒も少しはいますから20歳くらいの人も散見できますよ!」
おまえ、こんな時にフォローもできるのな。全然フォローにはなってないけど、ありがとう。
とりあえず腹を抱え爆笑するタクナを蹴り飛ばすために立ち上がった。




