Interlude 4.5
拝啓
陽春の候、貴殿におかれましてはご清祥のことと存じます。ご無沙汰いたしておりますこと、どうかお許しくださいませ。
貴殿が学舎を巣立たれてよりというもの、幾年月の隔たりができてしまいましたことか。折に触れ、あの頃の賑やかな日々を懐かしく思い出しております。
娘がそちらへ参る運びとなりました。これも何かのご縁と存じ、久方ぶりに筆を取った次第です。頑固で不器用なところのある子ですが、どうか折に触れ目をかけてやっていただけますと、母としてこの上ない喜びでございます。
いつかまた旧交を温める機会がございますことを、心より楽しみにしております。
敬具
宛名をもう一度確認する。
アルカディア支局長 テルク・アルガン 様
ふむ。間違っていない。
テルク・アルガンとは私の名前であるし、支局長はひとりだ。いや、まてよ。監査庁とは書かれていない。もしかすると聖護庁あたりに同姓同名の支局長が赴任している可能性が。
しかし、だとするとこの差出人はどう解釈する。セレイナ・カナリスとある。他にない名前だ。それに今どき直筆の手紙とは古風な先輩らしいと言える。それ以上の意味があるとは考えたくない。
セレイナ先輩の姿を思い出す。最後にお会いしたのは、本庁に行った時だ。エントランスホールで偶然出くわした。次官たちを束にして連れ歩いていた。
学生時代から気さくな先輩だった。
「あら、テルクくん。お久しぶりですね」
そんな風に声を掛けられた。
周囲の視線と睨みつける次官たち。正直逃げ出したかった。いや、秘書官を伴っていなかったら走って逃げたかもしれない。
震える指で内線ボタンを押す。
「はい。どうされましたか」
間を置かず秘書官が応える。
「いや、ちょっとね。次年度の入庁予定者のリストが見たいんだ。うんうん。いや、急ぎじゃないよ。まったく急いでない。うん。いや早くても全然大丈夫だ。むしろ早すぎても問題ないと思っている。うん。そうだね。頼んだよ」
椅子から立ち上がる。
座り心地と格調。相反する二つを見事に融合させた椅子。
室内をウロウロと歩き回る。調度品も同じように格調高く機能的。大好きな部屋だ。
これ以上の出世は、自分も周りも不幸にする。自分の席に満足していた。
なのに。
たった一通の手紙で。
この部屋が疎ましくなる日が来るなんて、思ってもいなかった。




