第40話 KTS入社試験
KTSの探査員は馬鹿ばっか。
そう聞いていた。サリアとティーナも口にこそしなかったが、態度がそれを認めていた。
しかし、なんだこの連中。
試験会場はあの広大な社屋ではなく、近くの大学。アルマの通う予定の大学の教室で行われている。まずは学科試験だ。そして、馬鹿そうどころか、周りの連中から漂うエリート感たるや……
おそらく探査員育成校卒業予定の者たちだろう。めちゃくちゃ優秀そうな若者ばかりだ。お勉強が出来そうですね〜。なんて感じではない、精悍さと勇猛さ、知性と教養、なんというか、探査員に必要そうな全てが満ち溢れている。
少しだけ俺らと同じ年頃の人もいるが、そちらは普通に強そう。ベテランとは言わないが、明らかに現場慣れしている。キャリアアップ組だろうか。
試験官がマイクを使って注意事項を話しているが、なんかもう帰りたくなってきた。
少し離れた場所に座るタクナを見ると、たぶん俺もあんな風なんだろう。帰りたそうな顔してる。見ていたら目があった。なに情けない顔してるんだよ!やるしかねぇだろ!自分に言い聞かせるつもりで、発破をかけてやった。
「試験時間は2時間です。退出は50分経過後にお願いします。それでは開始」
…………。
「50分経過です。退出者は静かにお願いします」
試験官の声が静かに響く。
全員静かに椅子を引いたのであろう。しかし、数が多かった。驚くほどの人数の退出者が一斉に立ち上がったので、その音に正直ビビった。
マジかよ。俺はまだ半分も終わってないぞ。おそらく半数以上が退出者になったようだ。大きな音になったことに気がついたのか、退出者はその後、音をたてず静かに出ていった。
「残り時間10分です」
椅子を引く音がする。タクナだな。俺も頃合いだ。あと10分粘ったところで空欄は埋まらない。聞いたことない言葉が並んでいる問題を睨んでも何も出るわけがない。諦めて俺も立ち上がった。
退出する時に会場を見渡す。残っているのは三名ほどか。KTSが噂通りの馬鹿ばっかな会社なら、俺とタクナは合格組に入れそうだな。
そんなわけないけど。
実技試験はKTSで行われるので移動した。移動と昼休憩に二時間くれたので、公園のベンチに座って頭を抱えている。子供を遊ばせているお母さま方の、冷たい視線すら気にならん。
「あーーーっ!絶対に落ちた!100パーセント落ちた!」
「荒れてんなぁ〜。学科は飾りって言ってたろ。実技頑張ろうぜ」
「おまえ、図1は魔素散乱時間と残置物質量の相関を示したものである。以下の設問に答えよってやつの問一わかった?」
「この相関図より読み取れる魔獣の種別を答えよってやつか?乙種Ⅰ類二種だろ。たぶん」
「マジで?乙種Ⅱ類三種じゃないの?」
「んなわけねぇだろ。三種なら散乱時間の曲線はもう少し急になるぞ」
あぁ、これまでデータ管理をタクナに頼り切っていたからこの差が出たのか……
「いや、それより一般教養の、春季における蝕の継続時間が夏季と比較して長くなる理由を、アズール・ホエムの視直径と太陽の軌道の関係から説明せよってやつは答えられたか?」
「あぁそれな。それは異世界人でも答えられる設問だった」
「マジかよ。俺なに言ってるのかわからんかったから、夏は暑いって書いておいた。正解はなんになるんだ?」
「いや、知らんよ?異世界人でも答えられる可能性がある設問ではあったけど、俺が答えられるとは言ってないだろ?アズール・ホエムはデカくて怖いって回答欄に書いといたわ」
タクナがガックリと肩を落とす。だろ?
「タクナー。今までありがとな。俺はなんか別の仕事探すわ。それまでアルマのとこに住ませてもらうことにする」
あいつ、根が優しいからダメな俺を見捨てたりしないだろう。
「あ、アルマ女子寮だから無理だぞ。引っ越しの荷物運びの時に、入寮許可証?書かされたわ」
公園デビューだな。アルマとタクナに朝晩のご飯を運んでもらおう。そして雪解けしたら、フィルに乗って白峰に帰ろう。
「二人とも落ち込んでるようですけど、心配するのは実技がダメだった時で大丈夫と思いますよ」
突然、声をかけられた。
二人で顔を上げてみると、目の前には爽やかな笑顔のイケメンがいる。こいつ斜め前の席にいた奴だ。速攻で退出したエリート感溢れる若者だ。
サイルと名乗ったそいつは見た目通り、探査員育成校の卒業予定者とのことだ。ダメかもしれないが、やはりKTSに入りたいと思い、今回の試験に臨んでいると言った。
「サイルはテストどうだったの?速攻出て行ったよね」
「たぶん満点と思います」
「マジかよ。あれ満点とかあんの?全問正解したつもりが、実は何問か答えがない設問とかあるタイプかと思ってた」
空欄が正しいみたいな。だとしたら、俺にも正答があるかもしれない。
「ははは、天下のKTSがそんな嫌らしい問題だしませんよ。それに満点なら50分経過で退出した連中全員がそうだと思いますよ」
えぇ〜マジでー。何人出て行ったんだよ。
「サイルは実技に自信ないタイプなのか?」
「どちらかと言えば体力のほうが自信ありますね」
なんだよこいつ。あまりにエリートすぎて嫌味な感じがまったくしねぇよ。むしろ友達になりてぇよ。
「文武両道かよ。つよつよだな。そんなサイルが受からなきゃ誰が受かるんだ?」
タクナも同じこと思っているのか、笑いながら言う。
「KTSに選ばれた人が受かるって言われてますね」
「なにそれ」
「なんだそりゃ」
被った。それくらい意味がわからなかった。
「わかりませんよね。僕もわかりません。でも、いや、だからかな?KTSに憧れる人間が多いんです。勉強も超頑張った。剣技や魔術も死ぬ思いで磨き続けた。それでも受からないのがKTSです」
笑顔が眩しいイケメンくん。笑った時に見えた歯が輝いてるようだ。なんか、落ち込んでるのも馬鹿らしくなった。こんな出来た若者ですら受からないかもしれない試験だ。俺が落ち込んで良いわけない。
「サイル、これ食う?」
腰袋から携帯糧食を出して差し出す。
「あ、良いんですか。昼飯食ってなかったんですよ。食欲なくて」
「おお、そりゃダメだ。食っておかんと実技がボロボロになりかねんぞ。こういう時こそ携帯糧食だ。もう一本やる」
タクナも同じこと考えていたらしい。
「お二人ともさすがですね。ありがたく頂戴します」
なにがさすがなのか、わからんけど、学科試験の落ち込みはサイル登場によって解消した。
「よし、時間に余裕はあるがKTSに行くか!歩きながら食べられるのもそいつの魅力だ。お行儀は悪いけどな。いこうぜサイル」
「お供させてもらいます」
終始笑顔のエリートくん。何がそんなに楽しいのか。
「あ、ちなみに魔素散乱時間と残置物質量の相関図、設問1の答えは乙種Ⅱ類二種ですね」
仲良くなれそうな嫌な性格してるわこのイケメン。
3つのグループに分けられて400mトラックを走っている。KTSの探査員だろう。各グループには一名の戦闘服姿の試験官が伴走している。
ピッ!笛が鳴る。
最後尾にいた俺はダッシュで先頭を目指す。先頭に入り、試験官の速度に落として走る。
ピッ!笛が鳴る。
最後尾にいた受験生がダッシュしてきて、俺の前に入る。
これを一時間続けている。他のグループも同じだ。いつまでやるのかは伝えられていない。終わりがあるのかもわからん。
試験官から終了の声と共に笛が長く吹かれたのは2時間後だった。脱落者はいなかったようだ。
10分間の休憩後に次の試験だ。そう言って試験官は去って行く。
「ようマサト。おまえ脱落するんじゃないかヒヤヒヤしたぞ」
タクナがニヤニヤしながら茶化しに来た。
「馬鹿言えよ。こんなんで脱落してたら白峰の東側で100回くらい死んでたわ」
「一回は死んでたけどな」
おまえだって笑える腕になってたろ。言い返してやろうとしたが、周囲がどよめく。
「お二人は白峰探査の方だったんですか?」
こちらへ来ていたのか、サイルが呆然とした顔で聞いてきた。学校の制服なのか、戦闘服はびっしょりと汗で濡れていた。
「おお、そうだったんだけど、首になってなぁ〜。たぶんタクナがひ弱だったからだと思う」
「いや、おまえがウスノロだったからだな。もっとしっかりダッシュしろ」
社長の言葉を使い互いを罵った。
「なるほど、道理で」
なにが道理でなんだ?馬鹿なのは社長のせいじゃないぞ、頭脳はオニゾウさんの管轄だ。いや、それはオニゾウさんに悪いか。
「いや、サイル。俺らがアレなのは別に元白峰探査だからってわけじゃ」
「次の試験開始しまーす」
間延びした試験官の声が響く。どうやら次のお仕事みたいだ。
先ほどのグループ分けのまま、次のお仕事につくらしい。それぞれに数名の試験官が待機している。
「お前らは討伐の試験が最初のグループになる。終わったら次は撤退。最後は追撃だ」
試験官のリザードマンが説明している。戦闘服の胸にはいくつかの徽章と階級章がある。14等級だ……。
「ああ、自己紹介しておこう。俺はガレル。今回の試験の総責任者をやっている」
あからさまにヤバそうな人だ。
「ちと多いから二手に分かれてくれるか。んー、15人ずつに分かれてくれ」
受験者同士、顔を見合わせながら二つに別れる。タクナと並んでいる俺らの隣にサイルは来た。
「あー、そこのKTS印の大剣持ちと、腰にヤバい刀をさげたお前らは分かれてくれ。揃っていると死人が出そうだ」
ヤバい刀って俺のことか?タクナの顔をみた。顎をしゃくって外れろと。俺のことらしい。
出発前、腰に月白を差していたら、タクナに言われた。
「おまえ、KTSに何しに行く気なんだよ。殲滅するつもりか?無理だと思うぞ」
そんなに物騒かな〜。ヴェルナが一晩かけて作ってくれた傑作なんだよ。連れていかないと。
タクナの言うこと聞いておけば良かった。
「討伐試験は一番シンプルだ。二手に分かれてもらったが」
ガレルと名乗ったリザードマンの説明は続く。
「15名全員で俺にかかってきてくれ。俺を討伐できれば終了だ」
自信満々だな。
「討伐試験だからな。殺す気でかかってきてくれ」
えらいことを言うなぁ。
「全員返り討ちにされた時も試験終了だ。致命傷は避けるつもりだから心配はするな」
おっかねぇ。周りを見るが、緊張した様子はない。なるほど単なる坊っちゃん嬢ちゃんではないらしい。
「うちには優秀な神官がいる。ちゃんと待機してるから、死ぬ前になんとかしてやれると思う」
グラウンド際に用意されたでかいテントには複数名のKTS探査員の姿が見える。見ているこちらに気が付き、手を振ってくるやつがいる。なるほど、ぶっ飛んでるなKTSって。
「さて、お前らからみせてもらうか。かかってこい」
腰を落としてハルバートを構えるガレル。
俺を見て言った。




