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第38話 蜘蛛は人です

結局、クロさんへの感謝のプレゼントは、ありきたりのつまらないものになった。


蚊取り線香扱いされた翌日、クロさんは都市在住の息子さん娘さんに会いに行った。アルカディアに来ておいて、顔を見せなかったと知られたら面倒なことになる。そう言って出かけたのがクロさんらしい。


三人で話し合った結果、俺の意見が採用された。アルマは中身を担当すると言う。タクナは飾り付け担当だ。少し無機質に感じたそれ。アルマが、可愛くしよう、タクナくんが担当ね!そう言い出したのだ。


可愛いなんてタクナとは真逆の性質だと思ったが、わかったと頷いていた。


昨日、クロさんの喜びそうなものを探すために来たショッピングモールへ三人で向かう。暖かくなるまでまだほど遠い時期。都市外は真っ白になっている。しかし都市内には積もってない。公園では子どもたちが大きな声を出して遊んでいる。


アルマとタクナは、少し羨ましそうにそれを見ていた。


クラフトワーカーたちのお店に行き、使えそうな小さな飾りを三人で買い込んだ。本来とは異なる使い道を説明すると、それならと少し加工までしてくれた。


買い物袋を持って、アルマとタクナについて歩いていた。アルマは購入したばかりのスマホで俺らを撮影している。


「俺は何するの?役目ないよ」


アルマが不思議そうな顔で俺を見る。タクナに至っては、なに言ってんだこいつ、そんな表情だ。


「お前は総責任者だよ。発案から最終目的まできっちり監督しろよ。役目だろ」


「クロさんが微妙な反応したら、責任取るんだよ。なんにもないとかあり得ないよ」


そうなの?責任は三人で取ろうよ。


買い物を済ませ、帰る途中で中央公園に寄った。他の公園と違い閑散としている。アルカディアを管理する、監査庁の他二つの省庁に囲まれている立地。わざわざ遊びにくる人も少ないようだ。


少しすると蒼の刻を迎える。


蒼に輝く天頂の結界。小さな日蝕みたいなサファイアブルーの輝き。美しい光景だが、都市各所で観測されたデータなどを情報統括局へ送る可視の魔素波長に過ぎない。


わかっていても目を奪われる。


あらかじめ予定していたように、アルマのスマホで自分たちを撮影した。アルマははしゃいでいた。柄じゃないタクナも目を奪われている。


なるほど、ティーナがこれを見せてくれた理由がわかった気がした。


「綺麗だね……マサトくん本当にここでティーナさんとこれ見たの?好きになっちゃったんじゃないの」


アルマの頭に拳をグリグリしておく。口を開きかけたタクナは先回りして、蹴りを入れておいた。


「まだなにも言ってねぇだろ。言わせろよ!」


「却下だ。碌でもないこと言うのはわかってる」


蒼の刻が終わるまでのたった数十秒間。そんな馬鹿なやりとりを録画した。



ホテルに戻り作業中。

夕飯どうするかな〜。そんなことを考えているとクロさんと通話していたアルマが言った。


「クロさん、明後日戻って来るって!時間はあるよー。気合い入れて飾り付けしよう!」


「飯どーする?携帯糧食が山ほどあるけど、それ食うか?」


そう言うタクナは、飾り付けの最中だ。デカい指で器用にアクセサリーを位置決めしている。どんぐりをモチーフにした銀細工だ。


「アルマは中身担当だろ?飾り付けはタクナに任せるって」


「やってるよ。それよりご飯を携帯糧食で済ませるなんてみっともない真似は許しません!」


ミニクロさんじゃねぇか。携帯糧食、割と美味しいんだぞ。


「今から用意するとか面倒だし、食いに行くか?店なんか知らんけど」


ここまで最強シェフクロさんがいたので、気合いの入った外食はしていない。アルマも料理上手だけど、ここは都市の本気を見るのも悪くない。そう思って提案する。


「そうしよう!私行きたいお店あるー」


「飯はそれで良いけど、シマどうした?鳥に喰われたまま行方不明だろ。リディなんか言って来ないのか」


いや、鳥に喰われたと決まったわけじゃないぞ。たぶんそうだけど。


「ねぇー二人とも酷くない?シマちゃん可哀想だよー。リディは探してくれてる。都市に住み着いた光羽鳥を総動員して、捜索してるけど見つからないみたい。光羽鳥は誰も食べてないらしいよ。心配にならないの?」


アルマはシマのことをわかってない。てかリディ有能だな。部下を大量とか、さすがは一種なのかな。


「そりゃ良かった。罪もない光羽鳥の命が失われてなくて。シマなら心配いらないよ。ドラゴンに飲まれでもしない限り、なんの心配もいらない」


ドラゴンはあんなチビ飲まないだろうしな。無敵生物だ。


「それいっつも言ってるけど本当〜?あんなに小さい蜘蛛なんだよー。簡単にプチってなるかもだよ。もっと心配してよ」


なにを馬鹿なことを。心配なんて言葉は自分に使え。少なくとも耳に穴あけられてから言え。


「いや、本当だってば。あいつ、俺の大剣の切っ先を突き立てても、へっちゃらなんだぞ?ムキになって力を加えてやったら、なめてんの?勢いつけて思い切り突き刺せ!言われたわ」


それな。あいつ一匹でパニックホラーの主役張れる。なんせ倒す手段が見つからない。


「なんでそんな酷いことするのよ!可哀想でしょ!」


「馬鹿言うなよ。可哀想なのは俺だぞ。頭にきたから、要望通り思い切り突きを食らわせてやった。けど、あのサイズだ。当たらねぇんだよ。下手くそ言われて涙目になったわ」


「馬鹿だから会社の壁を穴だらけにしやがった。オニゾウさんにめっちゃくちゃ叱られてた。シマと二人で説教されてて笑った」


まぁ俺も叱られたけどな。無関係なのに、連帯責任言われた。納得いかん。


「あ、それ聞いたー。壁を穴だらけって、崩壊させたって聞いたよ。そんなことが理由だったの?ほんと馬鹿ね」


そうだ!いいぞアルマもっと言え。


そんな話をしていたら、俺のスマホにポップアップと着信音が。


発信者:ノルディ・サラルナ

所属:監査庁業務管理課[総務管理官]

発信地:公奉庁警察局北部入出管理所

相対位置:北方向約15km


なにこれ?怖いんだけど。関わりのなさそうな言葉が並ぶタグ。俺らが入ってきたのは西部入出管理所だ。


怯えてタクナとアルマを見る。タクナは顎を上げて出ろと。アルマはゆっくりと首を振って諦めろと。


クソ、いったいなんなんだ!ポップアップしたタグを殴りつけるように通話開始した。


『マサトさんですね。北部管理所担当の監査庁のノルディと申します。現在、シマと名乗る蜘蛛さんがこちらにいるんですが、マサトさんが保護者だと言ってます。相違ないですか?』


「はぁ、確かにシマはうちの蜘蛛ですが……」


『ああ、それは良かった。蒼霧の任務から戻った蒼穹探査の探査員の方がこちらにいます。彼の話によると、いや直接話してもらった方がいいですね。代わります』


『蒼穹探査、6等級探査員ラシルと申します。報告します。蒼霧の任務から帰還する際に〜』


「アルマ、飯行こうぜ。マサトはダメだ」


「うん。なんかね、近くにとっても美味しそうな煮込み料理のお店があるみたいなの!量も多いみたいだし、タクナくん好きでしょ煮込み系」


二人はお食事に行くようだ。タクナが携帯糧食を二本俺に渡してきた。ありがとう。


蒼霧の任務から帰ってきたというソラの探査員。蒼霧ってアルカディア管区でも遠くの都市外街だったはず。


シマの奴なにやってるんだ?


近くで転がって遊んでいたシロを掴み、アルマに向かって投げる。


「アルマ、持ってって。餌頼むわ」


「う、うわぁっ!」


すこしライナー気味だったか、受け取れずシロを弾くアルマ。どんくさいやつだ。そんな雑な扱いしたら大変だぞ、飯屋でシロに怒られてしまえ。弾かれたシロはタクナがキャッチして、アルマへと渡す。


あと、シロは俺を睨むな。お兄ちゃんが警察のお世話になってるらしく大変なんだ。


タクナたちと一緒に部屋を出た。向かう先の性質の違いはこの際置いておこう。



北の入出管理所でのシマの引き取りは大変スムーズだった。連絡をくれたノルディ管理官は終始笑顔だった。受付カウンターに乗ったシマは、当然だが変わりはない。


「ししょう!」


むしろいつも以上に元気そうだ。


「うっかりですかー。確かにこんな小さな蜘蛛さんだと申請忘れるのも無理ないですよね。私も最初は見落としましたから」


笑いながら入都手続きを行ってくれた。シロのように一悶着あるかとビクビクしていたが、なんの問題もなかった。怪訝そうな表情が伝わったのか、人を見た目で判断するなど愚の骨頂と言った。


「人?こいつ人ですか?」


「人でしょう。こうして言葉で意思疎通が可能。悪意も全く感じない。しかし、マサトさんが心配するのも無理はないです。異質な外観ですからね。所属ははっきりさせておいた方が、今後の誤解や混乱を防げるでしょう」


ハルモニアさん懐が深すぎる。監査庁好きかも。


シマを連れて帰ってくれた蒼穹探査のラシルさんは同じ歳くらいの好青年だった。仕事を終え、帰還準備をしていたらシマが目の前に現れた。なんだ?と思ったら。


「のせて!」


「あるかでぃあまで」


そう言われたらしい。まぁ事情は道中で聴けば良いかと、とりあえず乗せてくれたらしい。蒼霧からの500km。だいぶ仲良くなれたと笑った。


申し訳なさに、水飲み鳥のようにペコペコした。


「やめて下さいよ。マサトさんも探査員と聞きましたよ。今後、現場で会うこともあるでしょう。その時はよろしくお願いします」


そう言って逆に頭を下げられた。


魔素駆動二輪車にまたがり、バイザーを下げる。こちらに向かい軽く手を上げた。


「では、自分はこれで。シマさんもまたどこかで。道中楽しかったですよ」


「らしる!」


「またね」


「ありがと」


走り去る二輪車のテールランプを見送った。ラシルさん、見た目も中身もイケメンすぎる。


ひとつハッキリしたことがある。


たとえKTSに入社できなかったとしても、蒼穹探査はもう無理だ。


帰り道、シマを説教しようとしたが逆に怒られた。曰く、弟子の事務手続きをちゃんとしておいてくれないと。入出都申請のことらしい。


まぁそれは悪かった。

けどな半径15kmにも及ぶ大都市で6mmの蜘蛛が、勝手に表に出ていくなんて想像できなかった。それに蒼霧ってなんだよ。俺も行ったことねぇよ。


青い夜をシマを連れて歩く。アズール・ホエムは青黒くぼんやりと光る。


異世界のスケールなめんなよ。そんな風に言われた気がした。

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