表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/106

第28話 豹頭の戦士

結界の外は360度魔獣で埋め尽くされている。人を滅ぼすためにやって来た軍勢だ。バカバカしい程の数。


祭壇で神に祈りを捧げるようなシルフィーナさん。しかし、結界維持は神カナンではなく、精霊シロミネの力を借りて作られている。


それも限界があり、あと15分で乙種は侵入してくる。それから60分程度で強い個体なら丙種も入ってくる。その後は推して知るべし。


「では僕らは退避するね。後は君らだけが頼りだ。厳しいことを言うけど、頑張ってくれ」


セルヴァンさんが言う。戦闘支援をしてくれた街防隊の人たちは、ここでシェルターに退避する。それぞれ頭を下げたり手をあげたり、シェルターへ入っていった。


地上に残されたのは白峰探査の四人。クロさん、ミルド先生、結界を張っているシルフィーナさん。


この七人だ。


と、言いたいところだけど、変なのがいる。


「アルマなにしてんの?」


「わかんない。けど、みんなに教会にいなきゃダメ言われて追い出された」


顔を見合わせる。無事帰ってきてとか、しおらしいこと言ってたくせに何故表にいる?そう口にしようとした。


「マサトこっち来い。社長の訓示あるって。アルマは放っとけ」


タクナに呼び出された。


もう一度アルマを見る。本人も謎らしく、きょとんとしている。まぁいいか。どうせ全員助けるんだ、近くに置いといたほうが分かりやすい。


タクナの言葉通り、アルマを放置して教会を後にした。


「よし、集まったな。これからオニゾウ戻らせるぞ。当然、熊もこっちに来る。相手は俺がする」


「先生はオニゾウの具合見てやってくれ。大丈夫って言うから、うまいこと言って休憩させてくれ。クロは時計塔な。乙種が入ってきたら頼む」


「お前ら二人は教会の外で待機してろ、教会とクロを守れ。迷ったらシルフィーナだ。わかっているな」


社長の視線は有無を言わせるものではなかった。

タクナは黙って頷いた。


「わかってます」


「以上だ、誰か質問は」


声は上がらなかった。


「じゃあ各自持ち場につけ、1分したらオニゾウを戻らせる」


教会へ足を向けたところだった。


「マサト、ちょっと残れ」


みんなその声に反応しないで教会へ戻っていく。社長は俺をまっすぐ見て言った。


「マサト、丙種が結界を破り始めたら。お前とタクナはアルマを抱えて白峰から脱出しろ。どこでもいい、よその街に逃げろ」


「え?社長なにいって」


「命令だ。質問も聞かない。返事は?」


普段の人を食ったような態度もない。笑いながら魔獣を翻弄する社長とも違う。有無を言わせない空気もない。


ただ願いを聞いて欲しい。それだけに見えた。


「……わかりました」


だからアルマがいるのか。きっと白峰全員の願いなんだろう。そう答えるしかなかった。


持ち場に戻るとタクナが声を掛けてきた。


「社長、なんだって?」


「いざって時はおまえと一緒に、アルマ持って逃げろって」


「そっか……俺もか」


「おまえ、わかってたの?」


「都市外街にとって、自分たちの所で生まれた子供ってのはそういうものなんだよ」


タクナを見つめる。


「な、なんだよ」


さらにジッと見てやる。


「わかった。悪かったよ。けど俺だって昔は可愛がられてたんだぞ。あと、言っとくけど、お前も同じくくりだからな」


同じだと?

それは都市外生まれの方か、はたまた素行不良の方か。はっきりさせるべくタクナをさらに見ようとしたが。


「タクナ、来るぞ」


タクナが大剣を構える。オニゾウさんが結界内に後退してくる。それに合わせ巨大な赤黒い甲殻熊が入ってきた。結界なんかないも同然か。


「マサトくん、タクナくん!オニゾウ迎えに行って!」


クロさんの言葉に、二人で駆け出す。近づくにつれてオニゾウさんの姿がはっきりしてきた。よくアレで歩けている。タクナの傷は笑えたけど、この怪我は……。


「早く連れて帰れ。邪魔だ!」


怒鳴るように社長に言われる。


「オニゾウさん!」


崩れかける身体を受け止めた。


「おう、お前ら元気そうだな……」


喋れるのか、この状態で。


「いま連れて帰ります」


オニゾウさんを背負う。


「いや、騒ぐような傷じゃねぇよ。にしても鈍ってたか。熊コロ1匹にこの様とはな」


もう喋らないで、危うく言いかけた。


「そのまま喋らせてろ。意識失ったら死ぬぞ!タクナは残って手伝え!」


「普段、俺らを扱き使ってふんぞり返ってるからじゃないですか」


悲しくもないのに涙が滲む。俺らを休ませるだけのためにこの人は。


「んなこたぁねぇよ……い、いろいろ教えてやったろ。結構、大変なんだぞ?」


飛ぶような感覚で駆ける。


「まだまだ、教わり足りないっすね」


速く、もっと速くだ!すぐにミルド先生のところに。


「いや、けっこう、いい線、行ってた。ひ、東の、防衛は見事だったぞ……」


教会へ飛び込み叫ぶ。


「先生!お願いしますっ!」


ミルド先生が一瞬息を飲む。しかし、次の瞬間には切り替えていた。


「やぁ、オニゾウくん。酷い格好だねー。鈍ってるんじゃないの〜。甲殻熊如きに遊ばれちゃって」


「んなこと、ない、いや、あるんだっけか」


ミルド先生がここに降ろせ、視線で長椅子を指す。しゃがみ込み寝そべるようにオニゾウさんを横たえる。


「アルマちゃん。オニゾウくんが傑作だよー、観においでよ〜」


何が起こっているか、把握していないアルマを呼ぶ。既に治療は始めている。喋りに手が回らなくなるのだろう。


オニゾウさんを見て言葉を失うアルマ。すれ違いざまに肩を掴む。


「ずっと喋らせろ。意識を手放させるな。なんでもいい、とにかくオニゾウさんに考えさせろ」


牙猪ごときに固まってしまう子に無茶を言ってる。でも、出来なきゃオニゾウさんが死ぬ。


掴んだ肩に込めた力でわかってくれたのか。


「あーオニゾウさん、やられてるー」


声が震えてるぞ。でもやれそうだ、頑張れ。掴んだ肩を叩き、外に向かった。


凄惨な帰還の後だというのに、結界の空気は変わらず澄み渡っていた。


殺してやる。


インカムが鳴る。


「くだらない復讐心とかやめなさいよ。あなたが死んだら本当に崩壊するわよ」


「ッ!」


大きく息を吸う。


危なかった。暗い気持ちに囚われていた。こんなものを抱えて戦ったら不味いことになっていた。


「んなわけないでしょ。これをネタにしばらくオニゾウさんをからかえるって思ってましたよ」


最初の頃に何度となく言われた。

魔獣を憎むなんてお門違いも甚だしい。マサトの世界では、自然を憎むのか?立ち向かう方法を考えるんだろ。


ハルモニアの常識に疎い俺に、オニゾウさんは根気よく付き合ってくれた。


「それいいわね。ソラの英雄を小馬鹿に出来るなんて最高だわ。私も参加しなきゃね」


大丈夫かな。クロさん頭悪いから、やり過ぎないといいけど。


飛んでくる光の矢を危なくかわす。


「何考えたかわかるのよ。馬鹿正直なアホ面なんだから、悪口は見えない所でやりなさい」


クソっ!なんでバレるんだ。そしてひどい言いようだ。


「クロさんのそれはいいんですか……」


恨めしげに塔の上を見る。


「えっ、だ、だって……マサトくん馬鹿だから、はっきり言わないとわからないかもって……」


くそ、なんで傷ついてるんだよ。ダメだ。この人に勝てるイメージができない。幸いやることは山のようにある。無視だ。


くすくすと笑っている。インカム切れよ。


社長の元に駆けて行く。

逃げたわけじゃない。勝てない相手に策もなく向かうのは馬鹿のやることだ。それもオニゾウさんから教えてもらったことだ。頑張ってくださいよ。俺らも頑張ります。


「社長、オニゾウさんはミルド先生とアルマに任せました。意識は繋いでます」


「おう、ご苦労さん。まぁアイツはあの程度じゃ死なないから心配すんな」


マジかよ。腹が半分吹き飛んでたぞ。


「それより、人手が足りねぇな。タクナはひ弱だし、マサトはウスノロだからなぁ〜」


じゃれつく熊を片手であやしながら、ひどいことを言いやがる。


なんであんな風に扱えるんだ。目の前で見てても信じられない。制動錨鎖を握りしめタクナが熊を必死に繋ぎ止めている。


「こいつ教会が気に入ったみたいで、俺に構ってくれなくなってるのよ」


そう言って熊の横っ面を蹴り飛ばす。苛立つ熊が社長に向かい、めちゃくちゃに爪を振るう。当たったらミンチになるぞ。


「思ったより賢いみたいで、誤算だったなぁ〜。まぁいいや。ひ弱なタクナと二人で、なんとかここに留めておくよ」


タクナは引き攣った顔で余裕がない。蹴り上げられる後ろ脚は、前脚以上にヤバそうだ。いくらアイツが硬くても貰ったらアウトだろう。


「タクナ〜大丈夫かー」


「お前、馬鹿だろ!大丈夫なわけないだろ!」


「おいおいタクナ。泣き言は 許さんっつったろ。可愛らしい熊ちゃんに酷いことを言うな」


それにしても、錨鎖ひとつでコイツを教会に向かわせない。引き留めている。後ろ脚を避けながらだ。泣きながらとはいえ凄いな。俺にはできそうにない。


「ひ弱なタクナは俺に任せておけ。鍛え直しておくわ。ウスノロなお前はもうすぐ来る乙種をなんとかしろ。ひとりでやるつもりで迎撃しろ。クロと教会守るのも忘れんなよ」


半径100mはあるこの結界に侵入してくる乙種をひとりで?ひ弱係とどっちがいいだろう。俺もタクナと同じ表情になってる気がする。


「は、はい。頑張ってみます」


「それだ!お前、いちいち大袈裟なんだよ。頑張らなくていいんだよ。いいか、見てろよ。お前の真似してやる」


暴れる熊が前脚を社長目掛けて振り回す。それを素早く華麗にかわしていく。残像が見えそうだ。というか分身してるみたいに見える。


「これが、お前の動きだ。ウスノロ言いたくなる気持ちもわかるだろ?」


いえ、俺はそんな動きしてません。いや、出来ません。


「こうやるんだよ。当たらない場所に移動するだけでいいんだ。激しく移動するなんて無駄だろ」


そう言って、小刻みにリズムを取るように動く。移動してないように見える。


「お前はビビりだから、攻撃範囲から3倍も距離を取る。だから次の行動も無理が出る。指一本外れたらそれでいいんだよ」


熊が突進してきた。タクナが支えられなくなったんだ。ビビって俺も大きく逃げた。


「ほら、それだよ。当たらないのに逃げるのをやめろって言ってるの」


社長は熊の脇腹を撫でていた。


「わかったか?少しは無駄な頑張りやめろよな。疲れるだけだぞ。ちゃんと攻撃をよく見て、必要な動きをするんだ」


熊の右腕の振り下ろしを捉え、肩に担いで放り投げた。ドーンっ!地響きが身体をよろめかせた。


社長がにっこりと微笑み手を叩く。


「な、簡単だろ?お前も出来る、だからやれ」


掠った程度で腹を半分持っていかれるんだぞ。頭おかしいのか?


でも、だからこそ。


出来たら最高に格好よいと思った。


あと社長、タクナも吹っ飛んでます。


インカムが鳴る。


「マサトくん来たよー。南南西から角突猪が一頭。大きいよ〜。4mくらいある」


「了解です。すぐに行きます。夜爪豹が出たら最優先で教えて下さい」


アイツは塔の上に到達する。クロさんが襲われたらひとたまりもない。


「よし、じゃあ行ってこい。いいな、頑張りすぎるなよ、指一本で避けるんだ」


口元に引き攣った笑みができていると思う。乙種相手に無茶苦茶言う人だ。


「じゃあ行ってきます。タクナー頑張れよー」


声を掛けておく。


さて広い公園で200mのシャトルラン開始だ。


ミスったら街が滅ぶ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ