第22話 白いトカゲがシロ
「アルマー、卵探しの依頼出さないの?アレ俺ら得意なんだけど」
「それだ!アルマなんかの卵探し行かせろ」
白峰魔獣商、通称卵屋のカウンターで年下の女子に対してだる絡み中。白峰は今日も平和な昼下がり。
「えぇーやだー。うっかり依頼なんか出して伝説の古竜と遭遇されたら目覚め悪いよ」
「おまえ……」
こいつ最近、遠慮ないな。タクナも嫌な顔してる。
「まぁ冗談だけど、依頼なんかないよ。白峰で売れるのなんかマスコットの光羽鳥と実用的な荷運び蜥蜴くらいだよ。大抵行き渡って、新規なんかないし」
光羽鳥ねー。タクナを見ると頭にリディが乗ってる。呼んでも来ないくせに、それはアリなのか。
「それよりマサトさん、卵ちゃんと持ってる。見せて」
「肌身離さず持ってるわい」
そう言ってポケットを叩くが、感触がない。あれ?どっか落としたか?慌てて手を突っ込むが卵がない。代わりになんか変な感触がある。
取り出してみると、白いトカゲが卵の殻を被っている。なんだコイツ。見ていると卵の殻を両手で持って食べ始めた。
「アルマ!大変だ俺の卵が変なトカゲに食べられた!」
「えっ、なにその子、可愛いっ!見せて見せて!」
トカゲを持った手を掴んで、近くに寄せる。いやアルマ、俺の卵が食べられた話をしているのだが。
「それ卵の中身なんじゃね?」
なんだと?
手を掴むアルマを退けて、トカゲを目の高さに。白いトカゲだ。目は黒くて丸い。卵型の頭に太い手足。全体的に丸っこいフォルム。卵の殻を両手にこちらを見ている。
なるほど、確かに可愛い。というか、アルマが騒ぐのも無理はない、実に愛くるしい。
「えーなにこの子、いつ孵ったの!?」
「えっと……今かな?」
今朝は卵だった。やる事なくて会社を追い出された時も卵だったはず。追い出される前にトイレに行った時は卵だった。別に光ってもいなかった。
「お前、いつ孵化したの?」
トカゲに聞くが当然答えはない。不思議そうにでっかい目で見つめてくる。うん、可愛い。
「えぇーマサトさん名前つけよ!名前!」
アルマ、大盛りあがりだな。名前か……。
「そうだな……シロだな。白いし」
全員に嫌な顔をされた。シロ、お前もか。なんで嫌そうな顔するんだよ。可愛いだろ。
シロをカウンターの上に置いてみる。身体を起こして、後ろ脚を前に出して座る。長い尻尾がカウンターに伸びている。
「なんだ、こいつトカゲか?」
俺の知るトカゲはこんな風に座らない。と言うかトカゲが座るってなんだ。
「いや、トカゲだろ。確かに可愛らしいな」
「そんなのどうでも良いよー可愛いもん」
おまえ本気か?魔獣商のプライドとかないの?
「いや、ほんとに、コイツなによ。餌とか、何食べるのかわからないと困るぞ」
「えー知らないけど、可愛いー」
だめだコイツ。可愛いしか言わない。
困っているとシロはこちらに向かってきた。自分が入っていたポケットに手を伸ばす。落ちそうで危ないからやめなさい。
シロをカウンターに戻し、ポケットを探ると卵の殻がまだ入っていた。寄越せと立ち上がるシロ。2つの破片を渡してやると、片手でひとつずつ持って殻を見つめている。
しばらく眺めるとひとつを俺に差し出す。なにそれ。
「くれるんじゃないの?超可愛いー!」
「いや、俺卵の殻なんか食べないぞ」
なんか必死に殻を渡そうとするので受け取っておいた。満足したのか、もうひとつを食べ始める。
「可愛いっ!欲しい!頂戴っ」
いや、やらんわ。おまえペットたくさん居るだろ。
ポンコツと化したアルマを引き剥がして卵屋を出た。シロは胸ポケットに入れてある。前脚でポケットを掴み、顔だけ出している。
「タクナ、こいつなんだかわからんの。餌何やれば良いんだろ」
「わからんな。とりあえず色々与えてみようぜ。そのうち何食べるかわかるだろ」
結論から言うと、シロは何でも食べた。
タクナと二人で白峰食品店に行き、食材にシロを近づける。ノーリアクションだが、嫌がらない反応を見てそれを購入。そんな事を繰り返し、帰ってから与えてみると全て食べた。
あと食品店の爺さんも、可愛いの連れてるな何だそれ。と割とメロメロにされていた。
今は机の上に座って、両手で葉物野菜を持って食べている。さっきまで小さく切った肉を食べていた。お腹が膨れているのが可愛い。
「なんでも食うな」
「うん、餌は大丈夫そうだ。後は様子見てお腹を壊したりしないか気をつけよう」
「飼育場所はどうする?うっかり踏んだりしたら危ない」
「そうだな。飼育ケース買ってこようか」
ピーピーと呼び鈴がなる。珍しくお客さんみたいだ。タクナに視線を送ると頷いて玄関に行った。
「シロちゃんに会いに来ましたー!」
アルマかよ。追いかけてくるとは執念深いな。店はどうした。というかうち知ってるのね。
アルマが来てシロの飼育ケース問題は解決した。
「そしてこれも持ってきました」
【ハルモニア動物図鑑/爬虫類編】
「いや、動物図鑑ならうちにもあるよ」
そう言って会社から借りてる動物図鑑を見せる。
「それ違うからな」
「それなんて書いてあるか読んでみて」
二人揃って突っ込んできた。
「ふむ、白峰地区魔獣生態調査記録と書いてあるね。動物とも図鑑とも書いてないね。何が違うの?」
タクナが悲しそうに説明してくれた。こんな基礎的な事を教えてなかったと、自分を責めている。いや、お前はよくやってるぞ、悪いのはお前ばかりじゃないさ、アルマにも責任がある。そう言ったところ、二人に怒られた。解せない。
勉強にはなった。
「シロちゃんの正体は謎だったけど、もしかしたら魔獣じゃないのかもってね。動物の中には魔獣に寄せて進化したようなのもいるから、それかもって」
「なるほどね〜」
シロを裏返したり逆さまにしたり、あちこち探る。すごく嫌そうな顔しているが、ここでシロの正体を暴く必要がある。
タクナが図鑑を見ながら見解を述べる。俺は行動方針を決める。いつも通りだ。
「尾の付け根付近に半陰茎があればオスらしいぞ。触診でわかるみたいだ。あと総排泄器から尾の距離も〜」
実に頼りになる相棒だ。
触診ね、任せとけ。シロをひっくり返して尾の付け根を〜
「痛ってーーーっ!」
超噛まれた。
「大丈夫。怖がらないで」
痛みに耐えながら語り掛ける。日本人なら誰もが知る、あの国民的アニメのシーンがここで役に立つとは。
「大丈夫じゃなくしたのはお前だけどな」
「ねぇー、二人ともなにしてるの。女の子だって言ったでしょ……」
シロは自分で飼育ケースに入っていった。てか垂直のガラス面を登っていったぞ。ヤモリかな?凄いねシロ。
出入りできるならケースの意味ない気するけど。
すっかり機嫌を損ねたシロ。ケースに敷いておいたフィルの餌。干し草の中に潜り込んで姿を見せない。
現在、アルマが切なげに呼びかけている。リディもケースに入ってピィピィ言ってる。
「ごめんねシロちゃん。この二人馬鹿なの。お姉さんもっと早く止めるべきだった」
馬鹿とはなんだ、失礼極まる。シロは割と凶暴だぞ。あと何でも食う。リディなど丸かじりだ。一種をトカゲに食べられちゃいました、報告してみろカナン様腰抜かすからな。
シロはすっかり拗ねてしまったのか、干し草の中に引き篭もってしまった。とりあえず小鉢に水を入れケースに配置しておく。アルマとリディが、お前のせいだと煩く責めてきたので追い返しておく。
明日、見せにいってやるから帰れ。あとリディは頭を突くのやめろ。おまえ一種の威厳とか1ミリもないな。孵化した時の感動を返せ。
リビングに戻ると、タクナが爬虫類図鑑を読んでいた。
「結局、よくわからんかったな」
「まぁいいよ。わからない事がわかったからな。それに何であれしっかり世話しないとだ」
そういって飼育ケースを抱えて寝室へ。
「なに、連れていくの?」
「そりゃそうよ。生まれたてだぞ。ひとりにしたら可哀想だろ」
タクナは本当にデリカシーに欠けるな、困ったものだ。
「それもそうか、俺もフィルが生まれたての頃は常にそばにいたからな。おやすみー。シロもな」
図鑑に目を落としたまま手を振るタクナ。
「んーおやすみー。明日は仕事あると良いな」
風呂から上がってもシロは姿を見せないでいる。ベッドの脇にテーブルを持ってきて、そこにケースを置いてある。
貰った卵の殻をケースに入れた。
「シロー、ごめんな。なんかお前の正体が気になってさ。乱暴に扱って悪かったよ。お前がなんであれ、大切に育てるから心配するな」
干し草が微かに動いて大きな黒い目が見えた。
「おやすみシロ」
瞼を数回パタパタするのが、返事代わりなのかな。これからよろしくな。ヘッドボードに手をやり灯りを消した。




