第19話 蒼穹探査はサリア
結論から言おう。
謎の卵は弱々のしおしおだ。
あらゆる角度から測定し、推察と想像を働かせた結果ダメダメである。
具体的に言うとC級の荷運び蜥蜴と大して変わらないスペックの中身らしい。
商会長の熱い魂に着火した俺は、3時間に渡って謎の卵の鑑定について語られた。
ただ熱く語るだけなら、拝聴する姿勢を見せれば良い。だが生憎、商会長はとても熱い人だった。これについてマサト君はどう思う?など、ちょいちょい質問をしてくる。
適当に答えると、そうじゃない。コレを見たまえ。など言って例の謎本を持ち出し、該当ページを見せてくるのである。
もう2度と見栄は張るまい。そもそも張った相手はタクナと昼ご飯に行ってしまった。助けなさいよ……
「そうするとベンさん。この卵は大して値段つきませんね」
お陰でちょっと卵について詳しくなってきた。あと、ベンさんと超仲良くなった。
「ところがだよ、マサト君。実は君にまだ見せていない試験結果がある」
ん?まだ見てない試験だと?
「もしかすると、強度測定ですか?」
「その通り!君もわかってきたね」
商会長は満足げに頷く。
「しかし、ベンさん。アレはあまり同定に寄与しないと、魔獣商卵鑑定指南に記載が」
「そうだね、それは正しいとされている。しかし、僕は違った見解を持っている」
なるほど、ココは大切な部分だぞ。
「コレを見たまえ」
むっ!コレは!強度測定器の値が計測不能となっているではないか。
「つまり、これは……」
やはりシマの言う通り、おたか……。
「そう。君の卵はとても頑丈に出来ている」
アルマがこんな人になったら嫌だなぁ。
そのアルマとタクナが帰ってきた。商会長を放置して飯を食いに行った贖罪か、白茎焼きなんか買ってきている。反省しろおまえら、失礼だぞ。
あとタクナは卵図鑑持って出て行ったな。カラー図鑑を片手に、卵の事をアルマに教えてもらっただろ。
俺なんか数字と記号しか見てないんだ。姿も知らん魔獣の名前とデータだけインプットされてる。ふざけんな!
「つまりマサトの卵は、大した魔獣じゃないけど卵自体はめっちゃ丈夫って事か」
「おまえ舐めんなよ。めっちゃ丈夫なんて軽い言葉で済ませるなよ。おまえが大剣で思い切り殴っても傷ひとつ付かねーよ」
白茎焼きの串を突きつけてやる。
「ほうほう、マファト君の、ふっそうな刀でも傷付かはいよ」
いや、それは俺がまだ未熟者なんで。この刀結構、すごいモノなんです。使いこなせたら多分真っ二つに出来ると思います。
あと商会長、行儀悪いです。
「マジかー。でも良かったじゃん頑丈で。おまえガサツだから、乱暴に扱って、大丈夫な卵が合ってるよ」
この野郎。卵投げつけるぞ。
「でも、ベンさん。わたし平凡な魔獣の卵だとは思えないです」
黙っていたアルマが口を挟んできた。
「まぁ、そこは否定しないよ。実際こんな卵、僕も見た事ない。中にどんな子が入っているかは孵化させないとわからないからね」
「そう言えば、それリセットしてないんだよね。やっておくかい?」
商会長の言葉に驚かされた。確かに野生の卵だから、リセットは必要なのか。アルマに視線をやった。考え込むように俯いている。
冷たく美しい光るような水を思い出した。あの泉から魔素を受けとっていた卵。
「いや、こいつはこのまま育てますよ。なんかそうしたい気分です」
「不思議な卵だ。それも良いかもね」
ホッと吐く息が耳に入った。
魔獣商会からの帰り道、丈夫な卵を片手に緑のトンネルを歩く。
「それにしても、3人とも卵持ちになったな」
「アルマの卵が1番に孵るとして、俺らのはいつ孵化するんだろうな」
タクナと二人、卵を片手で投げては捕る。
「ねぇ〜。卵そんな風に扱ったらダメなんだよー。落としたらどうするのよ〜」
「アルマは俺らを何だと思ってるのよ。身体能力が売りの探査員よ?落としたりしないって」
「ほらよっと!」
卵を高く放り投げる。
ガンっ。
あ、枝にぶつかった。
飛び込むように、地面すれすれで卵の下に手を差し入れた。
「あっぶねぇーーー」
「ほらっ!そうなる!いくら落としても大丈夫だからって、中の子はびっくりするんだからね。もう少し大切に扱いなさい!」
イテテ……腕が血だらけだ。タクナの奴、卵ポケットにしまいやがった。狡いぞ。
「了解です。以後、気をつけます」
「二人とも、首からぶら下げておけば?その方が早く孵化するし、卵で遊ばないから良いと思う」
タクナ、呆れられたぞ。
「クロさん、お裁縫も得意だよ」
俺らが卵袋を首から下げてたら、ギャグにしか見えん。アルマと一緒にすんな。それはそうと。
「クロさんにお土産買って帰ろうぜ」
「だな。アルマに金も返せたし、予想外に儲かった。なんかお礼のひとつもしないといかん」
「クロさん、なに買ってくと喜ぶかな?」
「うーん。クロさん何でも出来る人だから、あまり物欲しがる姿が想像できないかも」
アルマがわからんのなら、お手上げだ。
「マジか。どうしよう」
「翠風の社長に聞いてみようぜ」
おお、タクナ素晴らしいぞ。社長はクロさんと旧知の仲らしい。きっと、何か良い話が聞ける。というか、あの豹変ぶりの訳を知りたい。
「翠風探査だな。行くぞ」
白峰とは比較にならない広い事務所はガランとしていた。社長が迎えてくれ、お茶やお菓子と大歓迎状態。なのにアルマは緊張気味か、少し畏まっている。アウェイだから無理もない。商会では俺らも緊張していた。
「いやー、良くやってくれた。さっき、役場から連絡入ってね。卵集め助かったってさ。お礼言われちゃったよ」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ盾もお借り出来ましたし、情報もたくさん頂いて助かりました」
周りを見回し、誰も居ない事を確認。本題に入る。
「社長、お伺いしたい事があって参りました」
社長の反応を待つ。さすが長い時間を探査員として過ごしてきた人だ、なにも言わなくて察したのだろう。居住まいを正し、目線で頷いてくれた。
「社長、クロさんの事です」
続けろ、言葉にせずに促してくる。
「クロさんにお土産を買って帰ろうと思ってますが、何が好きとか知ってますか?」
「いや、知らない」
重々しく社長が言う。
「というか、何故それを俺に聞く」
「すいません。なんか知っていそうに思ったので……」
タクナ、どうするんだよ。お前が聞こう言ったんだぞ。こっち見ろよ。
「ただいま戻りました」
ガヤガヤと翠風探査の方々が戻ってきた。
「おい、サリア。お前に客だ。クローディアについて教えて欲しいんだとさ。任せた」
兎のお姉さんはサリアさんと言うらしい。社長は俺を見て、ため息をひとつ。
「妙に雰囲気作りやがって。何、聞かれるのか構えちまったよ。クロの事なら奴に聞きな」
「俺がクロの事で知ってるのは、気に入らない事があると、すぐに魔法をぶっ放してくる事くらいだ」
「全く、よりによってクローディアの好きな物だって?嫌いな事ならいくらでも知ってるってぇのにな」
クロが街にいるせいで俺は引き篭り状態なんだ……呟いて恨めしそうな目で見てくる。
いや、社長クロさん良い人ですよ。いったい昔なにがあったんですか。
兎人のサリアさんから、クロさんの事が色々聞けた。何が好きかと聞くとそれはわからないけど、と言葉に詰まった。けど、クロさんの格好良い話はたくさん聞けた。逆らってはダメな人にしか聞こえなかったのが残念だったけど。
まぁサリアさんがキラキラと瞳を輝かせて語るのが、なにより雄弁にクロさんを物語っていたと思う。
「なぁタクナ、サリアさんて結構若いよね」
サリアさんは、せめて情報だけでもと、この街の名産品を教えてくれた。サリアさん厳選のおすすめの品々だ。それを買いに商店街を歩いてる。
「そりゃそうだろ。アレは都市の探査員だぞ。爺婆とは違うわ」
都市の探査員……魔素駆動車だったか、あの衝撃がよみがえる。
「なんで、そんなのわかんの?」
「ああ、翠風の徽章の横に違うのついてたろ。アレはソラの。いや、蒼穹探査会社の徽章だよ」
「都市の探査会社?」
翠風所属を示す徽章の横につけられた小さな徽章。何故かわからないけど妙に目に入った。
「おう、しかも大手も大手だ。多分、翠風からの要請で出向してきてる探査員だな」
「ふーん。強い、よな。あの人」
「ソラの探査員だ。子供の頃からガッツリ戦闘の教育を受けてきた連中。その中でも選りすぐりだ、俺らとは違う」
「なるほど、そりゃ強そうだ」
人混みの活気とは逆に、俺らは静かになっていた。
「あ、あったよ!アレがサリアさんの言ってた奴だよ。早く早く!売切れ必至の人気商品なんだって。いけ白峰探査員、ゲットしてこい!」
胸元が微かに輝くアルマは何故か元気いっぱいだ。




