第17話 どくだんせんこうのしま
翠風に帰ってきた。
軽いお仕事のはずが、すっかりくたびれてしまった。
夕陽に黄昏れている間、シマが実況してきた。
「てきはっけん!」
「げいげききょかを!」
やら。
「つかれた」
「しょーとかっとしていい?」
とか。
敵ってなんだよ、怖ぇよ。
ショートカットとか駄目に決まってるだろ。お前は生き物の臓器をなんだと思ってるんだ。
ショートカットした場合の脱出予想時刻とか、現在のルートを利用した場合との所要時間の比較とか必要ないから。無駄に高性能だよな、お前って。
あと敵に関しては、悪影響しかないものは攻撃許可しておいた。
「らじゃー」
「いこうどくだんせんこうする」
とか返事してきた。だれも独断専行とか許可してねぇよ。逐一報告しろ。
「マサト、あれだな。年寄りの言う事は良く聞かなきゃならんな。俺は大切な事を学んだぞ」
「そうだな。俺は安易にチートに頼ってはいけないと学んだよ」
シマ待ち時間は卵集めの倍くらいかかった。
兎にも角にもやっと終わった。
「帰りましたー」
「お帰りなさい。結構掛かったわね。巣あまりなかった?少し心配になってたのよ」
クロさんはリビングでお茶してた。
報告はお前の仕事だろうと、タクナを見ると顔を背ける。
俺らのそんな様子から察してくれたのか。
「それで結果は?」
苦笑しながら、それだけ聞いてくれた。
テーブルに入手した卵を並べる。全部で15個だ。最後のレアはシマを待ってる時間が勿体無くて二人で協力した。
親の模様によっても多少査定が変わるので、卵には規定に則ったマーキングをしてきた。
「へぇー凄いわね〜。初案件でこの成果は誇って良いわよ」
クロさんの褒め言葉に疲れも抜けてくる。
「これ、レアですよ。綺麗な黄色いラインが入ってて〜」
タクナも同じみたいだ。
「あ、おかえりなさーい。卵集めどうだった。えぇー凄ーい!こんなに集められたの!大金持ちだよー」
アルマが2階から降りてきた。
「おはよーアルマ」
「おはようって、もう夜もいいとこだよ……」
お前が朝居なかったのが悪い。
「もう調子は良いのか?」
タクナの言葉に、気恥ずかしそうに頷く。
「たまごたくさん!」
「さてい」
あ、止める間もなく、シマがアルマに飛びつく。いつもの様に、摘んで肩に乗せるアルマ。
「アルマ、そいつばっちいから触らない方が良いよ」
「何それ、なにかあるの?」
二人で目を背ける。
「そうじすみ」
「あんぜん」
クロさんの眉が寄る。流石はクロさん、シマの正体を目撃しているだけある。何かを察したらしい。
「3人ともお風呂に行きなさい!今すぐよ!」
追い出された。
バスルームへ向かう騒がしい3人を見送る。するとアルマがこちらを見ていた。
「ばっちいって何のこと?」
アルマの頭に手を乗せた。知らない方が幸せな事もある。とは流石に言わないでおく。
そして、まさかもう一度子供を育てる事になるとは。可愛らしく首を傾げるアルマ。
都市から出ても案外忙しい。
「アルマ、今のうちに卵の査定しましょう」
ひとつひとつ卵を手に取り、何かわかるとノートに記入している。何回もそれを繰り返し、今度はノートの方をまとめ始めた。
「うん、良い卵ばっかりね。二人とも優秀なのかな?」
査定完了したのだろうペンを置いて顔を上げた。
「けっこう良い感じになるのかしら」
「ベンさん驚くと思うな。これだけ品質の良い物ばかり納品されたら」
「へぇーそんなに凄いのね」
ひとつ脇に避けてある卵が気になり、手にとって聞く。
「これは、なんで避けてるの?」
「あーそれは唯一あまり良くない物かな。ダメなわけじゃないけど他が良すぎ」
「そう」
アルマはダメ卵を指でつついた。
並んだ卵達に目をやる。それぞれ個性ある卵達に、アルマが書き加えた文字が彩りを加えている。
アルマは何を思うだろうか、自然と彼女の頭に手をやっていた。
「なによクロさん。さっきから子供の頃みたいにして」
不満そうな顔をする。
「アルマなんか幾つになっても子供みたいなものよ。私と比べたらね」
「クロさん年寄りだもんね……」
「言ったわね!くすぐりの刑にしてやるわ」
アルマを捕まえて、反省するまでくすぐってやった。
「何してんすか?」
スッキリして降りてくるとアルマが狼女に襲われていた。
「アルマを躾けるにはくすぐりが一番なのよ」
「はぁ。そうなんですね」
アルマを見ると確かにしょぼくれていた。何やらかしたんだろ。
「ひどい!」
「たくなざつ!」
シマの声が降りてきた。
「いや、そんな事言ってもしょうがないだろ」
「なにしたのよ?」
シマがプンスカしているから、タクナへ聞いてみた。
「びんにいれた!」
「しゃかしゃかされた!」
シマが答えた。
どうやら、瓶にお湯と一緒に詰められて、シェーカーの如く振られたらしい。なるほど、そりゃ雑、言われるわ。俺も今度からシマを洗う時にそうしよう。
シマはまだタクナへ抗議している。
騒がしい二人の声を無視してテーブルを見る。
綺麗に並べられた卵は、整理されたコレクションのよう。ひとつ手に取ってみると、文字や数字がアルマらしく丁寧に書かれている。
「おお、すごいな。シマ見てみろよ」
「おたから!」
シマが叫んで卵に飛び乗る。歩脚を挙げて嬉しそうだ。自分で取ってくるとお宝なのかよ。
「で、アルマ。見たところ査定済みみたいだけど、どうだったのよ」
「どうって、お宝の事?」
「おう、高級品あったか。ティオばりの奴」
「あぁ、それならみんな一級品だよ。うちで売るなら80万はもらうかな」
おぉ、二人揃って声をあげた。
「中でもコレは高いよー。流石のレアカラー120万くらいでも買う人いると思う」
最後に獲った卵を見せてくる。
「おお、すごいじゃん。頑張って良かったなタクナ」
「おうよ。欲に駆られるのもありだな」
オニゾウさんに怒られるぞ。そんな事を考えながら、アルマに視線をやると少し悩み顔。
「けど、これはうちでは売れないかな〜」
ん。どうゆうこと?
「珍しい色の子だけど、能力は平凡みたいよ。ウチみたいにあまり人の出入りがない街で、少し珍しい荷運び蜥蜴がいてもね」
クロさんが苦笑しながら説明してくれる。
「そゆこと。能力なら他の卵がみんな優秀だよ。さ、どれにする?今なら私に鑑定させ放題だよ!」
「おぉーー流石アルマさんだ」
「じゃあさ、一番硬いのどれよ。俺の大剣をガッツリ受け止める奴が欲しい」
「そんなの居るわけないでしょ。タクナさん荷運び蜥蜴知ってる?けどまぁ強いて言うなら、この子かな〜」
タクナの無茶振りに悩みながら答えるアルマ。俺の希望も言っておこう。
「いや、アルマ。どれだけ防御が硬くても、攻撃がダメならジリ貧だ。一番攻撃力が高いので頼む」
「えぇー何言ってるのー。荷運び蜥蜴に攻撃力なんかないよ〜」
わかってないなアルマは。タクナをあれだけ見事に跳ね上げるんだ。弱い訳ないだろ。
「いや、良いから強いの探してよ」
「えぇ〜じゃあコレかな」
「何言ってるんだよマサト。お前はもう卵持ってるだろ。俺に選ばせろよ。そうだな、俺に似て知的な奴でも良いぞ。どれだ?」
「一番デリカシーに欠ける奴って事だ。アルマ」
「そんなのわかんないよ〜。タクナさんが孵化させれば、空気読まない子が孵ると思うよ」
うわっ、ひどっ!タクナがガックリ来てる。ダメージがもろ入ったぞ。アルマ攻撃強すぎるだろ。
「アルマ、ちゃんと顧客の要望に応えるのよ。わたしお茶入れてくるわね」
俺たちの姿を見て、笑いながらクロさんが立ち上がる。
クロさんの淹れてくれたお茶も空になり、議論はいよいよ白熱してきた。
「いや、兎に角素早さだろ。蝶のように舞い蜂のように刺す。アルマ、素早さ重視で並べろ」
「えぇ〜。こうかなぁ」
三つほど選んで前に並べる。
「なに言ってるのよ!素早さも力も関係ないわ、負けん気の強さよ。それが最後にものを言うのよ」
クロさん関係ないじゃん。てか、魔術士ですよね貴女。
「確かに!それだ、アルマ。甲殻熊の攻撃を受け続けた時、最後はそれだった!」
「ねぇー。3人とも新人探査員を選んでるんじゃないんだからぁ、荷物を運んだり、畑を耕すお手伝いする蜥蜴を選んでるんだよ。わかってる?」
散々、あれこれ注文をつけられて、その度に卵を並べ換えて疲れたのか、アルマが呆れてる。
呆れ果てたアルマを見ると、視線の先に最初から弾かれた卵がある。
交尾後にオスを食べない子。そんな無茶振りを、知りません!と一蹴されたシマがしょんぼり乗っている卵だ。
「アルマ、その卵は?さっきから、参戦してないよね。何か気になるの?」
問い掛けると視線が合う。少し瞳が揺れている。
「え、いや、べ、別に気にしてないよ」
「この子は平凡な荷運び蜥蜴だよ。普段うちで扱ってるような子だよ……」
「ふ〜ん……。そいつが一番になれそうな事ないの?」
「えっ?この子が?」
弾かれた卵を手に、他の卵たちを眺めるアルマ。しばらく経って、困り顔をあげた。
「強いて言うと優しい子になりそう。かな?」
タクナと顔を見合わせる。
「それだ!」
二人揃って声を上げた。
「アルマ、俺らそれにするわ。優しくなきゃ生きる資格がないって聞いた事あるわ」
「おう。それはそうだな。どれだけ硬くても守るものがなきゃ意味ないからな」
クロさんは笑いを堪えている。
「よし、良い卵が決まった。アルマ、ありがとな」
「お礼は借金返してから考えるわ、サンキュー」
タクナがシマの乗った卵を掴み立ち上がる。
「え、いや、それで良いの?それ一番安い子だよ?」
「良いの良いの。俺らが強い子に育てるからな!俺先に寝るわ」
そう言って卵とシマを連れて寝室へ向かう。
「え、いや、タクナさん卵リセットしなきゃ。と言うか、その子たぶん女の子……」
クロさんは遂に堪え切れなくて決壊した。
今夜もバルコニーでひとりゆっくりしていた。クロさんにお茶をもらって、でかい月を眺めていた。
「マサトさん、いい?」
「おお、座れ座れ。月がデカくて気持ち良いぞ」
アルマは俺と違い、お上品に椅子に腰掛ける。
「マサトさんの居た世界の月は小さいの?」
「比べ物にならないな。コレくらいだ」
シマを摘むくらいの大きさ指で作り、空に合わせてやる。
「ぷっ、全然わかんないよ、それじゃ」
わからんかなー。なんとなく伝わるかと思ったけど。
「マサトさんは、なんであの卵選んだの?」
突然だな。なんで、言われても。
「え、いや、優しいのは良い事だろ」
「他にたくさん良い卵あったよ?」
「いや、どれもピシャリと来なかったからな」
「ふ〜ん。わたしならあの卵は選べなかったな」
アルマはでかい月を見ていた。
「アルマも好きなの選べよ。一個やるよ。あのレアカラーとかどうよ。自慢できるぞ」
「わたしはエルが居るからいいよ」
「白峰に帰ったら卵採取の依頼しよっかな。それで良い……」
なんか話し辛いぞ。アルマの横顔を見ていると、こちらへ向き直る。
「マサトさん、ありがと!タクナさんにも伝えてね。わたし寝る!おやすみなさい」
そう言って出て行ってしまった。なんのありがとう?今夜も全然わからん。




