第16話 たんさいんしま
緑豊かな丘。群青の惑星を背景に、空高く舞い上がるタクナを見ていた。
甲殻熊の突進を受け止めるタクナを、あそこまですっ飛ばすとは……流石だな。
タクナの事は忘れ、視線を指先に戻す。
「いいなシマ。手筈はわかっているな」
「かんぺき」
実に頼りになる。上手く行ったら今朝の件は忘れてやろう。それどころか今度は、タクナの尻尾の先に挑戦させてやっても良い。
「よし、行ってこい!」
シマを思い切り投げる。投げた先は荷運び蜥蜴の巣。卵がたくさんある。卵狩りだ!
街は屋台の出す香りで賑わっていた。
「いやーこれは良い案件だと思うぞマサト!よく目をつけた」
「だろ。俺らなら完璧にこなせる。翠風探査さんに盾も貸してもらえたし、今回は怪我なしでいける」
昨日の白茎焼き屋で串焼きを10本購入した。
「あとはシマを巻き込むだけだな」
「そこは大丈夫。修行言えば簡単よ。今回は嘘じゃないしな」
焼きたての白茎焼きを1本タクナへ渡し、自分も頬張る。行儀悪く歩きながら食べるが、そんなことはどうでも良い。実に素晴らしい気分だった。
「戻りましたー!」
「おやつ買ってきましたよ」
串焼きの袋をテーブルに放り、クロさんの姿を探す。
「お帰りなさい。いい案件あった?」
手を拭きながらキッチンからクロさんが現れる。
「ばっちしですよ、これ見て下さい」
クロさんに案件の写しを見せる。
案件番号 SZK-P-023-0047
発令日 023年7月12日/有効期限 無し
発注 翠風農業組合
案件種別 魔獣卵採取
対象区域 翠風外縁部 南西草原地帯
対象魔獣 丙種III類三種 荷運び蜥蜴
採取目標 卵 10個以上
報酬 1,200,000-卵状態による査定あり
「へぇ〜荷運び蜥蜴の卵集めね。でも、これ普通は3人以上でやるわよ。大丈夫なの?」
「行きますよー、3人で。シマ連れてきます!」
「俺らが蜥蜴を引きつけて、その隙にシマに卵回収させます。完璧でしょ」
二人で得意げに説明する。
首を傾げ、天井を眺めるクロさん。
「んー確かに良いかもしれないわね」
「でしょ!俺ら卵泥棒屋になれますよ」
「やめなさい、そんな悪い言葉を使うのは。カナン様に顔向けできなくなるわよ」
呆れ顔で注意されてしまう。
「そう言えば、荷運び蜥蜴の卵を買うとかなんとか言ってたわよね。これで手に入れるの?」
「そうですそうです。一石二鳥でもあるんですよ」
「借金も返せて卵も手に入る。完璧でしょ」
思案顔でジッと依頼書を見ているクロさん。あれ?とても良い案件だと思ったけど、違うのかな。不安になってくる。
クロさんが上目遣いに俺ら二人に視線を送る。穴が開くほど見てくる。
「あなた達最高ね!こんな素晴らしい案件を持ってくるなんて。とても良い行いよ。さっきの件は私がカナン様に謝っておくわ。ささ、すぐに支度しなさい」
いきなりご機嫌で、俺らを急かす。なにその急変。
とにかく、準備をする。念の為に携帯糧食を何本か背負袋に詰め込む。様子を見に来たクロさんにそれが見つかり。
「また、そんなものー。持って行くのは当然だけど、食べたりしたらダメよ。これ作っておいたから持って行きなさい」
二人分のお弁当を渡された。
「これは私が現役時代に開発した、探査員用のご飯よ。美味しくて長持ち。完璧な探査飯よ」
えっと。終始笑顔なのは何故だろうか。
「ありがとうございます。頂きます」
タクナがシマを持って現れた所で、クロさんにさっさと行ってきなさい。危険が少ないからって油断はダメだからね。そう言って送り出された。
「どうだあの巣は」
「ちょっと待て。ひーふーみー。イケるぞ」
翠風を後ろに、草原を南西に進んだ。この辺りに野生の荷運び蜥蜴が巣を構えている。
手筈はこうだ。
まず、たくさんの卵を持つ巣を探す。そしてタクナが巣の、父蜥蜴を引きつける。巣から遠くまで誘き出す。
その間に俺が巣に近づく。
巣では警戒する母蜥蜴が卵を守っている。その巣にシマを投げ入れる。後は母親の注意を引いている隙に、シマが卵をゲットして回収地点へ運ぶ。
完璧だ。天職かもしれない。
「よっしゃあーーーー」
巣にシマを放り込んだ。意味不明なシマの叫び声。盾を構え母蜥蜴と対面していた。
「でっか。君、大きいねー」
剣は抜いてない。卵採集の際、荷運び蜥蜴を傷付ける事は禁止されている。なので話しかけてみる。後ろ脚で立ち上がり、こちらを警戒する様はでかくて怖い。
「まぁ落ち着いてよ。迫力がエルとは違うね〜」
そりゃそうである。野生の荷運び蜥蜴と飼い慣らされたエルとじゃ、生命力に雲泥の差がある。
こちらを警戒しているその背後で、卵がひとつ跳ねて草むらの奥に消えていった。良いぞシマ、その調子だ。あと二ついけ。そう思った時、空を舞っていた。
「いてて。あの突進、やばいよな。ワープかと思ったよ」
「おう、それな。余裕で引きつけたつもりが、いきなり後ろからドーンよ。気持ちよく空飛べたぜ」
タクナと合流し、シマが卵を回収した地点に集合する。合流地点ではシマが卵に乗って、誇らしげにしていた。
「おおーすげぇ3つもあるじゃん。やるなーシマ」
「ふふん」
ドヤ顔である。
「結構デカいよな、この卵。どうやって運ぶんだ」
タクナに訊かれ、卵から降りて実演するシマ。卵の下に潜り込むと、ひょいと持ち上げる。そのままピョンと跳ねた。
「マジかー。見ても信じられん」
そういって跳ねたタイミングで、卵を掴みひっくり返した。裏にはシマがくっ付いていた。
「そいつ2kg位までは持ち上げるよ。その程度の卵なら鼻歌混じりだよ」
「いや、でも重量バランスとか、持ち上げてる箇所に掛かる負荷とかさ」
ぶつぶつとタクナが言った。卵の上で大きく胸を張るシマ。あんま褒めるな調子に乗るから。そう声を掛けようとしたら落ちた。胸を張りすぎてひっくり返って転げ落ちた。
「ほらな、すぐ調子に乗る。さぁ次行くぞ。夜までに最低10個。出来れば13〜15個集めたい」
タクナは遠くで空を飛ぶ。俺も時々、舞い上がる。巣からは卵がピョンピョンと跳ねて行く。そんな事を4回繰り返した。
目の前には14個の荷運び蜥蜴の卵がある。
「やったな。依頼達成だ」
「おう。かつてない程の出来だ」
「たまごはんたー」
大満足な結果だ。今から戻れば、日が暮れる前には帰れる。
「よし!帰ろう。これで借金も返済できる」
「それに今から帰れば、夕飯豪華にしてもらう余裕まである」
「それだ。返済記念にパーティメニュー作ってもらおうぜ!」
「良いねー。腹減ってきたよ」
「俺もだな。良い仕事した後は、腹が減るって言ってたからな」
「へってない」
「お前は、待ち時間に飯食ってたろ。なに卵以外も狩ってるんだよ。仕事に集中しろ」
「しょぼん」
3人で笑う。しょんぼりなんかしてないシマを拾いあげて頭の上に乗せる。さて帰るとするか。
帰り道に事件は起きた。
「おい、マサト。アレ見てみ」
タクナの視線の先を追う。荷運び蜥蜴の巣があり、メスが卵を守っている。オスは食事に出たのか周りに居ない。
「マジかよ。レア個体だろ、アレ」
レアという言葉にシマがピクッと反応する。メスの目尻から背中に向け、美しい黄色いラインが走っている。
荷運び蜥蜴は模様の個体差が大きく、それが個を判別する手段にもなる。そして中にはとても珍しく美しい模様を持つものが居る。当然、価格も跳ね上がる。
「やるか?」
巣の卵の数は十分だ。それに1つなら、あっという間に回収できる。卵がレア個体なのかは賭けになるが、ベットしなきゃ勝ちはない。
「シマいけるな?」
「とーぜん」
シマもやる気に満ちている。決まりだな。俺たちは顔を見合わせてニンマリ笑った。素早く配置につく。慣れたもんだ。今回はタクナは回収ポイントで待機だ。
シマとゆっくり巣に近づいて、メスの注意を引けた所でシマを投げ込む。同時にメスに話しかける。
「奥さん、聞いて下さい。お得なお話なんですよ。今なら、少し私に注目するだけで〜」
もう慣れたものだ。詐欺行為だが、アミカ教の信徒には真似できまい。異世界からやってきた俺にしか使えない技だ。
レアなお母さん蜥蜴は話を聞いてくれる様だ。よしシマ、チャンスだ。しくじるなよ。シマが卵を掴んでひと跳ねした時、俺の詐術に騙されないレアなお母さんは巣へ振り返った。
「あ、やべぇ。見つかった」
シマが固まると、母蜥蜴は不思議そうに卵に近づく。卵を持ったまま、決死の思いでシマはジャンプした。
パクッと。
卵が跳ねた事に驚く様子も見せず、シマごと卵を口に加え巣に戻す。卵は無事巣に帰った。
「あーーーー!」
「たべられたー」
シマだけが口の中に残された。
その後、タクナと合流してシマの脱出待ちである。得意のレーザー脱出は使えない。シマもそれはわかっている。
「むりーのまれるー」
と、どんどん奥深くに飲まれていってる。しばらくすると口に戻るのを諦めたのか。
「これより」
「こうほうから」
「だっしゅつをはかる」
なんか格好良いなそのセリフ。肛門から出る時があったら、俺も使うわ。
「オニゾウさんが欲はかくなってたけど、こういうことか……」
「そうだな。合ってるけど、違うと思う」
まさかオニゾウさんも、飲まれた仲間を待つような事態を危惧し、教えてくれた訳じゃないだろう。
草食動物の腸って長いんだっけかなぁ。
夕陽が草原を赤く染めていく。
「夕陽綺麗だよな。なんか郷愁に駆られるわ」
「お前のいた世界って、うんこ待ってると帰りたくなるんだ……」




