第14話 緑のトンネルの街
まるで森のような街が視界を覆う。
美しい樹木が囲む道は緑のトンネルのようだ。
「凄いな……。こんなに街ごとで違うのか」
「ねーわたしも初めて来た時はびっくりした」
「ごはんたくさん」
「おなかいっぱい」
やめろシマ。俺は感動に浸っている。虫多そうとか、情緒というモノはないのかお前。
「シマちゃんらしいわ」
笑いながらクロさんが言う。
街への馬車が列をなしている。凄いな、こんなに多くの馬車が入るのか。流通の要ってのがよく理解できる。
馬車は列の最後尾につき停まる。
「アルマちゃん達は順番待ちしてて。わたし役場に行って流出入状況確認してくる」
「あ、俺も行きます。マサト、頼むな」
「中央公園で待ち合せね。多分時間掛かるから、観光してからで良いわよ」
「はーい。お願いします」
「お願いします」
タクナくんが降りる手助けをしてくれる。
なかなか良いわよ、女性に優しくできるのは高評価だわ。
もっとも、年寄りに気を遣えるだけな気がするけど。
私達は車列を横目に役場を目指す。この調子だと、宿泊先確保は交渉が必要かな。
「タクナくんも遊んでくれば良かったのに」
「いや、街育ちなのにこう言う事知らなくて。マサトに教えるにしても、先ずは自分が知らないといけないって」
「あら感心。噴水で水浴びしてた子とは思えないわ」
思わず笑ってしまった。
「すいません……。ホント反省してます」
「有名になれて良かったわよ。リザードマンとヒューマンの男の子が白峰探査に入社したって言えば、あぁ噴水の子達かって」
そう言うと、大きな身体を小さくしている。不良在庫の大剣を、軽々と振るう様にはとても見えない。
「もうしません……」
叱られ坊主みたいで可愛らしい。
巨大な緑のトンネルを抜ける。公園は緑の丘のよう。教会脇を通り、役場に入ると白峰と同じ小さな事務所。あまり変わり映えしない役場。
「こんにちはー。宿欲しいんですけどー」
職員の女性がこちらへ来る。
「ん?クローディアじゃないの!」
「久しぶりね、お変わりないかしら」
旧知の仲を少し温めて、さあ交渉開始だ。タクナくん見てなさいよー。
「で、宿暮らしは嫌なの。空き家あるわよね?ウチのお姫様と私、あとは探査員の男の子ふたりよ」
「長くて1週間から10日ね……。まあいけるかな」
モニターを操作しながら少し思案していた。しかし、意外にもあっさり通った。怪訝に思い訊いておく。
「なに?なんかあったの。来る途中で魔素駆動二輪車に追い抜かれたけど関係ある。魔獣災害で街人に何かあったとか言わないでよ」
「あー違う違う。街人に変わりないわよ。今は流出が多い時期なの。都市の探査員は関係ないわ。蒼霧に向かう途中で、立ち寄りはしたけど」
「気になるなら翠風探査に顔出しなさい。情報交換していってるわ。A-024でどう?」
蒼霧か……なんかあったのかな。まぁ翠風に関係ないなら、わたしの範疇ではないか。
「それどこ?地図見せてよ」
「ここよ、広くて綺麗でおすすめよ」
指し示す場所を確認。そこは嫌すぎる。
「絶対に嫌、そこ翠風探査の裏じゃない。探査員は間に合ってるわ」
苦笑しながら、次の空家を探してくれる。
「普通、探査会社の近くは喜ばれるんだけどなー。じゃあC-256ね、ここよ」
「おっけーそこにする。鍵はポストよね」
「うん。両隣も空いてるから区画番号ちゃんと確認してね」
「ありがとう。助かったわ」
お礼を伝えると、黙っていたタクナくんが口を開く。
「あの、翠風探査さんはまだ開いてますか。顔出ししておきたいんですけど」
「あら、真面目な子ねー。開いてると思うけど、すぐに帰りそうな時間ね。明日にしなさい。後で白峰から2人来てるって、伝えといてあげるわ」
「ありがとうございます。お昼前にお邪魔させてもらうと、伝えて頂きたいです」
「うん、伝えておく」
タクナくんもマサトくんも仕事はちゃんとしてるのね。ガルバン達の教育かしら?
いやあの二人がそんなちゃんとしてるわけない。出立当日に忘れている事に気がつくタイプだ。
「じゃあ私達行くね。滞在中顔出すわ」
「はいよー。待ってるわ」
役場を出ると、タクナくんが神妙な顔をしている。
「勉強になりました。ありがとうございます」
なかなか優秀な子だわ。きっと良い探査員になる。
「それは良かったわ。役場には必ず顔を出しなさい。探査会社では得られない情報も多いわ」
思ったより早く終わった。公園で待ちぼうけも悪くないが、せっかくタクナくんがいる。荷物持ちがいるなら、夕飯を買うとしよう。
「タクナくん。二人はまだ観光客してるはず、探しにいきましょ」
マサトは二人きりになったアルマへ声をかける。
夕暮れに染まる、白峰とは違う街。しかも出店がたくさんあって賑わいが凄い。
「アルマ、まずはどこから見るんだ。とりあえず屋台で売ってる物つまみたいよな」
「まずは病院です!マサトさん、鏡見せようか?出血しながら散策とかあり得ないから」
出鼻を挫かれる。キモい生き物を見るようなアルマの視線が痛い。傷の痛みより視線の方が痛いとは、シマの言うことは正しかった。アルマ強すぎ。
「はい。お願いします。病院連れて行って下さい」
白峰と全く同じ事を聞かれた。魔獣の種類、数、どこでどんな攻撃を〜。真剣な医師の質問に必死に記憶を辿る。正直、受けた傷の事など憶えてなかったが、真剣な視線に真面目になって答えた。
「よし、これで大丈夫だね。探査員にこんな事言うのはアレだけど、あまり無茶しないでね」
終始しどろもどろだった俺に、困った顔で言う。
「はい。ありがとうございました。次から怪我しないよう戦います」
「はい、お疲れさま。翠風は初めてなんだよね。ゆっくり楽しんでいってね」
にこやかに笑い送り出してくれた。白峰同様に料金は掛からなかった。探査員の仕事ってどれだけなんだよ。
「よし、今度こそ遊べるぞアルマ!まずはさっきの美味そうな屋台をだな」
「たまごやさん!」
シマが突然叫ぶ。シマの視線の先には、店頭に卵が山積みになった魔獣商があった。
「おぉー卵屋だ。アルマ卵屋だぞ。あそこがアルマの取引先なのか。先にリセット済ませるか?」
「ん、いいよ。後にする。まずは串焼きなんでしょ。行こっ!」
胸元の卵袋を握りしめながら、アルマは背を向け歩き出した。単身、翠風を目指していた勢いはどこへ。そう思ったが、早く早くと呼ぶ声に足を向けた。
串焼きの匂いが辺りに広がる。刻んだ白茎をまぶして焼かれる肉と野菜、実に食欲を掻き立てる。
「アルマ、どうだ何本くらい買う?俺は今なら10本はいけそう」
「えぇ〜、わたし1本で良いよ。それけっこうお腹いっぱいになるよ」
情けない。そんなんじゃ大きくなれないぞ。口にしたら怒られそうな事を考えつつも、タクナ達の分も考える。よし値段も手頃、夕食にもなるから30本行こう。そう思い声を上げようとしたところに。
「見つけたっ!アルマちゃん、マサトくん」
「あークロさん。タクナさん!宿どうなりました?お家借りられましたか」
「借りれた借りれた。ちょろいものよ。10日は大丈夫よ」
「えぇ〜そんなにお店閉めて大丈夫なの?私は平気だけど、クロさんは帰ったら怒られるよ?」
もっともなアルマの声は軽くスルーするクロさん。
「なに、マサトくん白茎焼き買うの?家借りたから、作ってあげるわよ。白茎もまだ沢山あるし。屋台のなんかより、美味しいわよ」
屋台の前でなに暴言吐いてるんだ、この婆さんは。
「おいおい、婆さんよー。空気読めよ、若い子らが屋台で串焼き。味の問題じゃねぇだろ。てか、うちのは美味いわ!あと商売の邪魔すんな」
串焼き屋の爺さんは、口では怒っているが顔は笑っていた。
「あーごめんごめん。少し滞在するから、その時に味比べしてもらうわ。今夜は私の白茎焼きにする日なの」
屋台の爺さんに苦笑いを浮かべながら、シッシと店先から追い払われた。
「今度改めて来ますね。お邪魔しました」
頭を下げるアルマ。ホントええ子やね。
タクナ達と合流し、クロさんが手配してくれた家に向かい夜の翠風を歩く。
柔らかな夜風がとても心地よい。緑をまとい吹く風を吸い込む。
「マサト、明日昼前に翠風探査さんに顔出すぞ」
「おぉ、いけね。忘れてたわ悪ぃ」
「いや、大丈夫。役場の人が連絡してくれる言ってた。助かったわ。クロさんに、役場には必ず行け教えてもらった」
おぉ流石は冒険者ギルド。伊達に依頼書を貼り出してないぜ。入札とかマジ萎えるけど。
「そうなんだ。役場と探査会社な。了解、気をつけて行こう」
「ここよ!私が役場でゲットした優良物件を見なさい!」
でっか……。お屋敷かな?広い庭は草原の如くだ。荷運び蜥蜴用なのか厩舎まである。クロさんまじ半端ねぇな。
借りた空き家は四人で住むにはありえない大きさ。ひとり二部屋使っても部屋あまる。ダイニングルームなんか、ひとりで食事したら泣いてしまうかもしれない。
「ねぇクロさんどんな交渉したの?こんなのあり得なくない?」
部屋割りも何事もなく終わり。リビングに小ぢんまり集まって白茎焼きを頬張る。一番凄い部屋はアルマとクロさんに取られた。
「ふふふ、私を侮ってはいけないのよ。都市の探査員の経歴は伊達じゃないのよ」
はい。本当におみそれしました。
「と言うのは冗談よ。マサトくん達のおかげなんだけどね」
「どういう意味ですか?」
タクナが問いながら、白茎串焼きを縦に口に入れひと口で串だけにする。お前便利な口してるな。豪快で羨ましいよ。
「探査員は戦力だからね、どこに行っても優遇されるわよ。一般人なら、常識的なお家になるわ。あと運良く流出が多い時期ってのもあるわ」
「その流出入ってなんですか?白峰は入植者を募集してるみたいな事アルマから聞きましたけど」
「街の人口はねー5000人が上限なんだよ。5000超えたら即アウトじゃないけど、遠からず魔獣に襲撃されちゃう。翠風みたいな人の出入りが激しい街はそこの調整が大変なんだよ〜」
アルマがクロさんに代わり答えた。マジか。なにそれ異世界の街怖い。でも、あの大きな都市は?
「え、じゃあさ、都市はどうなってるの?」
「都市?アルカディアはカナン様の防御結界があるからね。人口100万人だよ〜。凄いよね〜」
100万人!?いや、カナンの防御結界とはなんだ!?
「マサト、そこいら辺は俺でもわかってるから、今度ゆっくり教えてやるよ。とりあえず飯時にする話じゃねぇ」
「お、おぅ。確かに楽しい話じゃないか」
あのデリカシーゼロのタクナが言うんだ、相当なんだろう。いかんな反省しよう。タクナを見てゆっくりと頷いた。
「お前、いまなんか俺のこと馬鹿にしたよな」
勘はなかなか冴えているようだ。侮れない奴。
「マサトさんとタクナさんって良いコンビだよね〜」
「そりゃそうよ、公園で寝泊まりして朝には噴水で豪快に水浴びしてるんだもの。家みたいに過ごしてて笑っちゃったわよ」
アルマとクロさんが大笑いしている。これ、一生言われる奴だ。タクナめ許せん。睨みつけたら、目を逸らせやがった。クソがっ!
後片付けの手伝いを申し出たが、クロさんは3人とも今日はもう寝ろと追い返された。3つあるバスルームをそれぞれ使い、火照った身体を冷まそうとバルコニーに出た。
蒼い夜、静かに大きな月が庭を照らしている。こんなに平和なのに、魔獣の襲撃、探査員は戦力か。ぼんやりと考え込んでいた。
「マサトさん、お邪魔して良い?」
「おぅ、アルマ。夜風が気持ち良いぞ。翠風良いところだな。連れてきてくれてありがとう」
空いてる椅子を引き寄せ、アルマへ勧めた。
二人でぼんやりとしばらく月を眺めていた。アルマが、ポツリと口にする。
「マサトさんは卵どうするの?」
「卵?いや換金したいんだけど、シマが怒るからさー。でも、50年も孵化に掛かるとか付き合ってられんよ。正直言って」
笑いながら答えた。
「50年は掛からないと思うけど。そうだよね」
「何が生まれるかもわからんし。怖い魔獣が入ってたら困るわ」
「それも多分大丈夫と思うよ」
アルマがすごく優しい声で言う。
思わず彼女に目をやる。月明かりが彼女を照らしていた。
「あのね、マサトさん」
見上げる月に口を開きかけ飲み込む。
「わたしもう寝るね!ありがとう」
何に対するありがとうなの?まったくわからん。
俺は確かにタクナと良いコンビなのかもしれない。




