第12話 すぷらったーしま
夜通し馬車を走らせる気だった。
しかし、アルマは落ち着きを取り戻したのか、夜はちゃんと休憩する事にしたらしい。
陽が落ち掛ける前に、野営地を作った。いや、野営いうより、高性能馬車のおかげでグランピングだね。
「結構良い物あったねー」
「食事は豪華になりそうで良かったです」
アルマとクロさんが何か採ってきたらしい。タクナと二人で猫爺いの背負袋を開けると、携帯糧食がたくさん詰まっていた。
「これありますけど、食べますか?」
そう提案すると、クロさんが凄く嫌そうな顔をする。
「絶対に嫌」
真顔で言う。
「そんな下品な物、わたし食べないからね」
えぇ〜結構美味いのに。タクナなんかこれ一本で蘇った。美味しくて栄養満点。二人で封を切ろうとした。
「そんな物わたしの前で食べるのは許しません。今夜はコレを食べるのよっ」
美味しそうな匂いをさせた鍋がある。
「えっと、ご馳走になります」
二人で恐縮しながら野草煮込みを頂く。
「うまっ……なにこれ、超美味い」
「マジですか、なにこの鍋。魔法使いましたか?」
二人でクロさんとアルマが作ってくれた煮込み料理を頂く。
クロさん達は面白そうに俺らを眺める。
「二人ともいったい普段何食べてるんですか」
「携帯糧食とか食べてそうね、やめなさいよそんな生活。わたし探査員時代にそれで酷い目みたんだから」
「いやーホント美味いです。この卵が野草と合って最高です」
タクナがそう言うのを聞いて閃いた。
「卵か!これ入れたらもっと美味くなるかな?」
腰袋からお宝を取り出して言う。
「いや、食べられないわよ?魔獣の卵なんだと思ってるの」
「え?食えないんですか。毒とかあるんですか」
「マサトさん。魔獣の卵の中身は真核だよ。そんな物食べられる訳ないでしょ」
マジかよ……。やっぱ換金アイテムじゃねぇか。
「この卵いつ孵化するの?」
「わかんない。中には孵化するのに50年とかかかるのもあるもん」
「おい、シマ。やっぱこれ売ろうぜ」
「だめぜったい」
なんか相変わらずの物言いなのが気になるけど、物分かりの良いシマがこの卵には執着する。
「50年なんかすぐよ。それよりそれどこで手に入れたの?」
「おう、俺もそれ気になるわ。魔獣の卵なんて狙って探さないと手に入らんぞ」
「なんか泉の中に沈んでた。シマが見つけたんだよね。で、拾えってうるさくてさ。水が超冷たかった」
アルマが何やら思案顔。
「ねぇマサトさん。その泉ってどんな場所だった」
「ん?凄く綺麗な泉だったな。真っ白な砂が、ふわっと舞い上がってさ。水が、淡く青に光ってた」
「……もう一度、観に行きたいかな」
「へぇーもしかして一種の卵かもな」
「そりゃ大変だ」
みんなで笑い合う。
遥か先で、都市が白く輝いていた。
エルガディアの鼻息で起こされた。
タクナが表で荷運び蜥蜴達と遊んでいるらしい。
「おはよー。コイツら本当に懐っこいよな。夜番してて和んだわ」
「おはようさん、ホントそれな。賢いし懐くし、力仕事も出来る。俺も欲しいわ」
野営中はエルガディア達を放牧しておいた。遠くに行くなよと伝えておくと、目の届く場所にとどまる。お腹が一杯になると、近くに来て丸くなって眠る。まるでそこが一番安心とでも言うかのようで可愛い。
「金に余裕が出来たら買うか」
「おーありだな。魔獣ってもⅢ類ならこんな懐く奴いるのな」
「アルマ起きてきたら聞こうぜ」
朝露が姿を消す頃、二人は起きてきた。最新馬車の寝室は、桁外れに寝心地が良かったらしい。クソっ、護衛でさえ無ければ。というかクロさんは護衛じゃないか、良いのかそれで。
タクナを後ろで寝かせ、御者席につく。起動スイッチを入れ、エルガディア達に声を掛けると、静かに進む。
お昼近くになっても都市はまだ見えている。どれだけ大きいんだろう。
「クロさん都市ってどんなところなの?」
シマと戦っているらしいクロさんに声をかける。
「都市?そうね〜白峰からみたら未来の街ね。最先端で常に更新され続けてる。あと若い人達がたくさんだから賑やかね」
「良いところなの?」
声に僅かな含みが出たか。
「なに、マサトくん都市嫌いなの」
面白そうに訊いてくる。
「いや、嫌いっていうか……」
「マサトくんは街生まれじゃないけど、街生まれっぽいわね」
クロさんは面白いのか声をあげて笑う。
「街生まれだと都市、苦手なんですか」
「そうね〜アルマは都市好き?」
「憧れるー。格好良いと思ってる」
「だってさ」
くすくすと笑う。
「街生まれの人に共通するのは、都市に特別な感情を持つ事よ」
「でも、そんなに特別じゃないわよ。いつか行ってみなさいよ。白峰よりは刺激に満ちてるわよ」
クロさんはとても楽しそうに言った。
気づけば都市は、丘の向こうに姿を消していた。
起きてきたタクナに御者席を渡した。眠っているとシマの叫び声に起こされた。
「あーーーーっ」
「どうした!シマ!」
「たべられた」
「とり」
なんだと!?
「たすけて」
助けてってお前最強じゃないのかよ。
「タクナ停めろ。シマが鳥に啄まれた、らしい」
「なんだよそれ」
「ちょっと待っててくれ、すぐに探してくるから」
馬車から飛び降り、シマの声がした方に駆ける。
「わたしも行くわ」
「わたしも行く!」
二人が言う、いやアルマはついてくるな。
「アルマはお留守番だ。シマの事はマサトに任せろ」
タクナが助けてくれた。
「おーいシマー。どこだー」
「ずいぶんと呑気ね。大丈夫なの?」
「いや、あいつ最強らしいのでそこは心配いらないですよ」
「だって鳥に食べられちゃったんでしょ」
「アホですよね、なに調子に乗って屋根の上に居たんだか。説教ですね」
シマの声が微かに聴こえる方へ急ぐ。アルマは急いでいるのに、なにやってるんだアイツは。
「ここーたすけてー」
声のする方を見ると、小鳥が落ちている。不幸にもシマなんか口にした奴だ。
「大変この鳥に食べられたのね。どうしましょう!」
「いや、勝手に出てきますから心配いりませんよ」
「おいシマ、得意のレーザー使えよ」
「それだ」
なにが、それだだ。こいつ閉じ込める容器欲しい。魔法文明科学に期待するしかない。
しばらくすると小鳥のお腹の辺りが開口し、中から血塗れのシマが。
「いや、普通にグロいぞお前。動物の腹から血塗れの蜘蛛ってトラウマになるわ」
クロさん見てみろ、泣きそうになってる。
「あぶなかった」
いや、危なくねぇよ。完全にアウトだよ。アルマが見たら悲鳴あげるよ。
血塗れのシマを摘み上げ、クロさんに聞く。
「こいつ洗えませんかね。水魔法的な何かで」
クロさんは顔を背けながら水を出してくれた。シマをガシガシと洗ってやった。
「つめたい」
うるさい黙れ。卵拾いに行った時の俺の方が冷たかったわ。
「ゆだんした」
「まんしん」
回収したシマはアルマに渡しておいた。もうそいつ屋根に上げないでね。
「そっかーシマちゃん油断しちゃったのね。でも反省出来て偉いね」
シマを撫で撫で中のアルマ。さっきのシマの勇姿を見せてやりたい。クロさんなんて食欲無くて昼飯が喉通らなかった。
シマが道中を邪魔した事以外は平和そのもの。
荷運び蜥蜴の、機嫌良さげな声がする。タクナ扱い上手いね。
「そう言えばアルマんとこ、荷運び蜥蜴の卵あるか?俺たち欲しいんだけど」
御者席からタクナの声がする。
「無いわけないよ。1番の売れ筋商品だよ。今日だって持って来てるよ」
そう言って箱を開けてガラガラと卵達を引っ掻き回す。
「それ、そんな乱暴に扱って割れたりしないの?」
「んー大丈夫だよー。卵の形してるけど中身は真核、割れるなんて聞いたことないよ」
「そうなんだ、丈夫なんだね」
腰袋からお宝を取り出して眺めてみる。
「これくらいの高さからなら落としても平気?」
「ん?落としたくらいじゃ絶対割れないよ。マサトさん達が武器で全力で斬ったら割れるかもだけど」
「タクナー、お前なんか言われてるぞ」
「俺が叩き斬ろうとしたのは馬車だー」
いや、それを言ってるんだよ。なんでも大剣で解決しようとしやがって。
「魔獣の卵は種類によって、強度が変わるのよ。丙種だけど、卵のうちはかなり強いのよ。武器で叩いたくらいで魔獣が死んだりしないでしょ?」
クロさんが復活、金物屋とは思えない発言だ。やはり魔術士って博識なのかな。
「じゃあ、どのくらい本気で斬りつけて壊れるかで中身が強いか判別できるって事ですか」
「ダメだよ、そんな事したら。卵のうちから育っているんだよ。恨まれちゃうよ」
「マサトくん、けっこう雑に扱ってるわよね。恨まれてるかもよ」
振り返りもせず、アルマの箱を漁るクロさんが笑う。
「マジか。でも、アルマも結構雑に扱ってるよね。そんな風にガチャガチャやって平気なの?」
「この子達は翠風でリセットするから良いの。魔素を抜けば、また一から育てる事になるから、忘れちゃうよ」
「へーそうなんだ。だから光羽鳥の卵はそんな風に大切にしてるんだ」
「え?」
アルマと目が合う。
「あったー!これ荷運び蜥蜴のでしょ!」
クロさんが卵箱の中から、薄茶色の卵を取り出した。
「おおーそれがエル達みたいな大きくなるのか。すげぇな、見せて見せて」
アルマは首に掛けた卵袋に手をやっていた。
「エルじゃなくて、エルガディアね!ちゃんと呼んであげてよ」
いや、あいつエルって呼ばないと反応しないじゃん。名前付け失敗してるぞアルマ。




