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第103話 KTS総務部二課サルディ

KTSのグラウンド端に置かれた二人掛けのベンチ。幾つかある内のひとつに腰掛けている。秋も深まり、敷地内に植えられた樹木が色付いている。


〈内勤ですか?〉


(そうそう。しばらく内勤しろって言われたんだよ。切った貼ったばかりじゃたいへんだろう。戦士にも休息は必要だって話よ。未記載ダンジョン発見のご褒美だってさ)


戦々恐々で会社に戻った。しかし、思っていたような叱責や罵倒の類はなかった。それどころか、アルダ部長はわざわざ俺のところに足を運んでこう言った。


「おお、マサト!帰ったって聞いて、顔見にきたんだ。おまえ、お手柄だったなぁ〜。紫嶺の黒牙狼発生、夜爪豹が原因だった。それに、銀渓での丙種目撃からの、未記載ダンジョン発見の流れ。実に見事だ。全て解決するとか欲張りすぎだぞー。本当にお前を送り出して良かった」


大絶賛だった。実に誇らしい。


〈それで内勤ですか?〉


そうそう。アルダ部長はかくかたり。


「蝶々のように華やかなウチの事務方女子を眺めてのんびりしろ」


まあ、部長の粋な計らいって奴だな。ちなみにタクナの奴はV-REXを全損させたという事で怒られていた。


休憩室で二人で駄弁っていたところに部長が現れたのだけど、タクナに対しては真顔だった。


「タクナ、おまえは残念だが罰ゲームだ。育成校に行って生徒たちの戦闘訓練の相手してこい。期間はマサトと同じだ」


「いや、部長!なんかおかしくないですか!?マサトだってV-REXぶっ壊してるじゃないですか!功績はあるかもですけど、待遇に違いがありすぎます!」


ふ、愚かな奴よ。日頃の行いというのが、こういう時に出るんだ。というか、グリフォン二頭と遭遇戦とか何に呪われているんだろう。そんな目に遭うのも、お前の素行の悪さゆえよ。


二頭相手に単騎で勝ち切るとか、化け物かな?


騒ぐタクナは、部長の両脇を固めていたガレルさんとエイナルさんに連行された。文字通り両脇を抱えられてだ。プププッ。


「なんにせよ、俺は綺麗な金魚たちの水槽でのんびりだ。フレイアが作ってくれた嘆願書の効果もあったんだろう。しばらくは、フレイアものんびりしてよ!」


〈…………。わかりました。そういう事なら……。でも、突発事項で都市外に出るなら、必ず連絡をして下さいね?〉


「おっけーおっけー。まかしときっ!」


〈なんか信用できません。毎朝定時に感応開きますからね〉


「りょーかいりょーかい。かしこまりっ!」


〈……。では、お疲れさまです。感応を閉じます〉


よし、俺も帰ろう!アルマに奪われたシロを回収して、転がして遊ぼう。寂しい想いさせてしまったから、たくさん可愛がっておかないとだ。


冬の訪れを予感させる秋風が吹いて、グラウンドの落ち葉が舞い上がっていた。


「おはようございます!三課のマサトです。しばらくお世話になります」


翌日、俺は天国に居た。色とりどりの美しい衣装を身に纏う事務方。ほぼ全てが女子である。桃源郷、いや竜宮城かもしれない。


「はい、みなさん。マサトくんです。入社以来、数々の案件をこなし、今回は未記載ダンジョンまで発見するという華々しい活躍をされました。しばらく身体を休めるために、私たちのお手伝いをしてくれる事になりました。みんな仲良くしてあげて下さいね」


総務二課長であるソフィーさんの紹介に拍手と歓声が上がる。素晴らしい。このために、俺は異世界転移したんだ。感無量。


「じゃあサルディ。あとはお願いね」


「はいっ!課長、任せてください。マサトさんは私が立派な総務部の一員に育ててあげてみせます!」


「うんうん頼もしいわ〜。マサトくんはひとまずサルディの指示に従って下さいね」


ソフィーさんは終始笑顔だった。鼻歌混じりでスキップするよう、席に戻って行く。


「それじゃマサトさん。今日は私たち事務の各部署を回りましょう。大きな流れを憶えてもらってからですね!席は私の隣を空けてありますから、そこがマサトさんのデスクですよ。汚くしたらメッですからね」


うんうん。なんというか、ガサツが売りみたいな探査部の部屋と違って、美しいまでに整理整頓された事務所内にいると心洗われる気がする。


席に着いてサルディ先輩に向き直る。


「では、回る前に各部署名称と役割について説明しますね」


用意してきたノートを取り出す。メモ大事。日本企業で社畜してきた経験がここにきて花開く。


「まず総務部は大きく分けて6つの課に分かれます。探査部と同じですね。ひとつずつ言いますよ〜」


「一課、二課、人事課、経理課、調達・資産管理課、安全課の6つです!私とソフィー課長は二課になります。マサトさんが大好きな受付のミレーナは一課になります」


「それと事務レベルの官公庁との渉外は総務部長直下の人間が行います。マサトさんたちのやらかしを最初にごめんなさいする人達ですね」


ふむふむ。なるほどなるほど。サルディの快活な説明が実に素晴らしい。でもミレーナ大好きとは?みんな好きだよ。美人ばっかだし。


「そして私は有能なので、二課でありながら全ての業務を遂行できます。今回のマサトさんの指導者として最適任と自負しています」


おお、それは頼もしい!


「さすがはサルディだ。まるで探査部の六人の課長のパーティに入ったくらいの安心感があるね」


サルディ対応モデルを適用しておく。


「良いですね、マサトさん。ご承知の通り、私はお世辞やお追従が大好きです。サルディポイント5あげちゃいます」


ふっ、サルディ対策はバッチリだね。サルディポイントってなんだろう。貯めない方が良さそう……。


「では続いて各課の業務内容を──」


サルディ先生の解説が続く。頑張ってノートに書いていった。


「というわけです。マサトさんには私の跡を辿るべくエリート育成コースを用意しています。なんでもこなす三課のエースであるマサトさんなら容易くマスターするだろうと、アルダ部長のお墨付きをもらっています。総務部みんなが期待してますからね!一緒に頑張りましょう」


先生のよくわかるKTS事務講座は午前中を潰し、最後に期待しているとの言葉で締められた。


「マサトさん、お昼一緒にいきませんか?」


そんな風にミレーナさんに声を掛けられた。彼女の後ろには一課の面々が溜まっている。


なんとなくサルディを見ると、ニコニコしながらうんうんと頷いていた。なるほど。


受付嬢をしているミレーナさんとエマちゃん以外、名前はわかるけど、あまり会話したことがない。連携が命なのは探査員も事務も変わらない。むしろ、事務方の方が大切なのかもしれない。


「喜んで、ご一緒させていただきます」


一課のお嬢さんたちが、歓声をあげる。実に清々しい気分だ。事務所の大きな窓から見える秋の空のよう。


別棟に作られた社食を利用したのだが、ミレーナさんとエマさん以外は手作り弁当を持参していた。お金は掛からないのに、お弁当を持ってくるとは中々堅実なお嬢さんたちだ。社食に行くのが面倒なんて理由で携帯糧食で済ませるタクナに見せてやりたい。俺もそうだけど。


「ミレーナさんも、たくさん抱えているんですね。受付だけが業務なのかと思っていました」


「ちゃんと働いてるんですよ?受付はごく一部です」


確かに聞く限り多岐にわたる。施設、庶務、備品、福利厚生まで一課の仕事らしい。


「マサトさんたちが大好きな休憩室の携帯糧食の自販機も私たちが管理しています」


「もっとも詰め替えとか補充は業者さんがやってますけどね。発注と管理だけです」


一課の女子が仕事を詳しく教えてくれた。発注は四半期に一度、予測しながらするとのことだ。俺とタクナが入社してから減りが早いと笑われた。


ご迷惑おかけします。


午後からは実際にサルディについて、業務の大筋の流れと各部署のメンバーの担当を説明される。


「彼女が事故や労災による負傷記録を管理してます。マサトさん達は常連ですね」


そんな風にサルディが紹介するたび、小さく手を振ったり、こちらへ愛想を振りまいてくれる。大変可愛らしいのだが少し焦り始めた。


当初、呑気に名前くらいしか知らない女子のデータを集めるくらいのつもりだった。しかし、煌びやかな女子社員たちの、俺への歓迎ぶりに真面目にならざるを得なかった。


「今日はこのくらいにしておきましょう。初日ですし、マサトさんも身体を動かす時間が必要でしょうからね」


サルディの言葉に少し救われた気がした。事務所内を見回すと、端末に向かい淡々と作業する女子たち。とうぜん帰る気配など微塵もない。


「えっとぉ。まだみんな頑張っているけど良いの?」


「大丈夫ですよ。あとラグナさんからお願いされていますから。十分慣れるまでは、少し早目に上がらせてくれって」


か、課長……なんて良い上司なのだろうか。

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