表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/110

第99話 母ちゃん

なぜだろう。喧嘩別れした親父と会うのは、別に緊張しなかった。意外なほど穏やかな再会になったのは驚いたが。親父は元々いつまでも怒りを持続するタイプではない。それに俺も任務という大義があった。


しかし、母ちゃんはそうはいかない。昔から何を考えているのか、どう行動するのか予測出来たことがない。泣くのか笑うのか、はたまた罵倒されるのか。


それに加えて、どうしてこうなったという状況。母の住む家の周囲にはリクさんが触れ回って、集まった爺婆どもが固唾を飲んで見守っている。各々、木や塀の陰に隠れてだ。いや、リクさんさ〜、1番に知らせなきゃならないのは母ちゃんだろ。なんで野次馬集めているのよ。


恨みを込めてリクさんを見る。


何してる!はよ行かんか!声は出してないが、身振り手振り、いや全身でそう言ってる。


リクさんのせいだろー。本当に昔から……。


よし行くか!俺も腐っても世界一の探査会社の探査員だ。たかが、母ちゃんひとりに臆してどうするって話だ。


意を決して、呼び鈴を押す。ポチッと。


リンリンと家の中から涼しげな音がした。変わってないようだ。しかし、母は出てこない。なるほど、留守だな、帰ろう。リイナさん家に行ってシチューをご馳走に。踵を返すと、そこいら中から負のオーラが飛び出す。爺婆共が鬼の形相だ。


はぁ。しゃーない。もっかいだけだぞ。ドアの横の呼び鈴に手を掛けた。


ガチャ。


「はいはーい。どなたですかー」


「あ、タクナです」


俺を見た母ちゃんが固まっている。もうこの展開、何度目だろうか。考えると親父は固まってなかった。少し見直す。


「た、タクナ……」


母ちゃんは、声を詰まらせながら俺の名を呼ぶ。どうなる?泣くのか笑うのか、罵倒なのか!?


「その顔のバッテン印なによっ!せっかくイケメンに産んであげたのに台無しじゃない。いったい誰にダメ出しされてるの。お母さん一緒に謝ってあげるから行きましょ。あなた顔くらいしか取り柄がないんだから!ほらっ!早くっ!」


なんか、母ちゃんには一生勝てない気がした。あと、発想がマサトたちと同じことに情けなくなった。



ひとしきり母ちゃん節を食らった後、今はリビングで話し込んでいる。


「あなた白峰で働いてたんじゃないの?お母さん、あのダメ男が私の息子をダメ息子にしたって悲しんでいたとこに、追い出したとか知って怒り心頭だったわ。会社に乗り込んで尻尾掴んで振り回してやったのよ」


なんかごめん親父……思ってた以上に苦労させたんだな。


「白峰で真面目にやってるって聞いてホッとしてたのよ〜。さすがは豹頭の戦士だって感心しちゃった」


「え?母ちゃん社長のこと知ってるの?なんで?」


母ちゃんは今も昔も一般人だ。アルカディアの酒場で看板娘(自称)をしていたと聞いている。


「あなた、お母さんをなんだと思っているの?酒場で看板娘だったのよ。ハルモニア一と呼ばれた探査員くらい当然知ってるわよ〜」


まだ看板娘言ってるのかよ。歳考えろ。


「そっか、社長ってそんなに有名な人だったのか。まぁ凄い人だったのはそうだけど」


「そうそう、そんな凄い人の下で働いてるなら安心かなって思っていたのに、今はKTSですって。う〜ん……ちゃんとやれてるの?」


なんの、う〜ん、なんだよ。やれてるわ!


「それと、その子は何者なの?」


机の上で大人しくじっと母ちゃんを見ていたシマに気がついたらしい。


「こんにちは!」


「はい、こんにちは。タクナの母です」


手を揃えてシマに頭を下げる母ちゃん。


「あー、こいつはなんというかシマだ。俺の友人のひとりだな」


友人?人なのか?しかし他に言いようがない。


「あら、お友達だったのね。なんか凄くしっかりされているから上司かと思ったわ。うちの子が色々ご迷惑をおかけしてると思いますが、これからも仲良くして下さいねシマさん」


「まかしといて!」


なんだよこの二人。100パーセント善意の会話なのは分かるが、なぜこれほど俺を傷つけるのだろうか……。シマ、お前が荷運び蜥蜴に飲まれた時に洗ってやったのは誰だと思っているんだ。


「ところで、タクナ。真面目な話をしましょう」


急に姿勢を正して、俺に向き直る母。ちょっとビビる。いったい何を言い出すのだろうか。


「お、おう。な、なによ」


「びびりすぎ」


シマが小さく呟く。うるさいっ、母ちゃん本当に何を言い出すのかわからなくて怖いんだよ。


「あなたも都市で立派な職に就いているわ。KTSの探査員ならば、どこに出しても恥ずかしくない息子と言えます。顔のバッテン印を除けば」


「…………」


「久しぶりに帰ってきたのに、手土産はないのかしら?」


「土産……。買ってきてないです。すいません」


「違いますっ!誰が息子にお土産を強請ったりするものですかっ!そういう話ではありませんっ」


えぇ〜。いま手土産を要求しただろ。わけわからん!


「はぁ〜。察しが悪い子ですね。まぁあの父親に育てられたのだからしょうがないのかしら。やはり無理やりでも私が引き取るべきだったかしら……」


その前に離婚なんかすんなよ。と言いたいが流石に飲み込んだ。そもそも追放された親父にくっついて、こんな辺鄙な街にくるほどの恋愛だと聞いたぞ。近所の婆さんどもが情報源だ。


「お母さんはガッカリしています。あなたの父親は碌でなしではありますが、少なくともそういう面では優秀だったと言えます」


「なんの話だよ!わけわからんっ」


「ではハッキリ言いましょう。お嫁さんの当てはありますよね?都市で彼女の一人や二人。いや、ダメね。あなたの甲斐性ならひとりにしなさい。とにかく、彼女くらい作っているんでしょうね。なぜ連れて来ないのかしら?」


もう突っ込みどころが満載で、何から手をつけていいのかわからん。


「いや、母ちゃん。俺は仕事でここに来ているんだぞ。それに俺の彼女うんぬん言うなら姉ちゃんはどうなっているんだよ。いい歳して……てか、姉ちゃんは?」


「リーナのことは心配いりません。去年、あの子は私に告げました。お母様、リーナはそろそろ勝負に打って出ようと思います。都市に行って良い旦那を釣り上げる。そして子供を手に凱旋するわ。そう言って街を出ました」


都市ってアルカディアのことじゃないよな?


「探査員はやめておくように言い付けてます。万が一、探査員を選ぶにしても、KTSか蒼穹探査からにしなさいとも」


探査員に対する低評価が凄い。親父のせいだな。母ちゃんの見る目のなさとも言えるが。


「ブルー・エクリプスかアジュール・ヴェールに勤めなさいと、紹介状を持たせました。リーナなら必ずや目的を果たすでしょう」


アルカディアじゃねぇかっ!よし、ブルエクとアズヴェールは鬼門だ。マサトにも良く言って聞かせないとだ。


「リーナのことは何も心配してません。私が育てましたから。心配なのはあなたです!いい歳してニートをやっていたかと思って心配していました。叩き出されて、KTSに入ったところまでは褒めてあげます。でも、彼女の一人も連れてこないでどの面を下げてお母さんの……。バッテン印をつけられた面を下げて、よくお母さんの前に顔を見せましたね!」


言いなおすなよ。どの面下げてでいいだろ。


「いや、俺だって彼女の一人や二人……」


「いるの!?どこのどんな娘なの?可愛い?綺麗?それとも奥ゆかしくて清楚な感じかしら。それら全部で、お母さんに似てるとか言わないでよ〜。ほんと男の子ってばマザコンなんだからー」


黙れババア!そんなんだから、離婚するんだ。言っておきたいが、過失割合は100:0じゃないからな。俺の見立てじゃ55:45だ。45が親父な。まあ、ぶっちゃけ、どっちもどっちだ。


「何考えてるのかお母さんはお見通しよ。尻尾掴んでぐるぐるするわよ?」


この歳でされてたまるか、糞ババア。探査員舐めんなよ。


「まあ見逃してあげましょう。久しぶりだし大目にみます。それより、どんな娘なの?ちゃんと話しなさい!」


シマ、シマはどこに行った。こんな空気を軽く吹き飛ばすのが奴の特技だ。


「シマさんなら、さっき出て行ったわよ。親子水入らずで楽しんで下さいって言ってたわ。出来た人ね〜。正直、あなたにあんな立派なお友達が出来たのは嬉しいわ」


開けっぱなしになった窓を指差す母ちゃん。ちきしょう。シマの奴、俺を見捨てやがったな。


「いや、あのですね。サファクラの女の子を口説いてまして。あと一歩っで俺の物になるかと思って」


「サファクラ!?サファクラって南西商区のサファイア・クラウンの事じゃないでしょうね!?」


ん。なんだこの過剰反応は……。


「そのサファイア・クラウンです。なにか問題でもありますか?」


母ちゃんは右手で顔を覆い天を仰ぐ。珍しいことするな。こんな母ちゃん見たことない。


「タクナっ!あなた馬鹿なの!?サファイア・クラウンがどんなお店か知ってる?」


いや、そりゃ知ってるよ。都市で一、二を争う高級店だ。探査員の給料だってそうやすやすと通える店ではない。もっとも、8等級になって余裕が出てきて、割と頻繁に通っているが。


「知ってるよ。そこの看板娘のミカちゃんをだな」


自称じゃなくて、本当に看板娘だ。サファクラのミカちゃんと言えば都市のリザードマンで知らない奴はいない。と思う。


「黙らっしゃい!無理に決まってるでしょ!サファクラなんて美貌と品位に溢れるお母さんですら入店出来なかったお店よ。顔くらいしか取り柄のないあなたなんかにどうにかなるわけないでしょ!」


本当にこの人は俺の母親なのであろうか……。


「母ちゃんは性格が悪くて無理だったのか?」


少しは言い返しておかんと。やられっぱなしだ。


「あら、よくわかったわね。見た目と雰囲気は合格ラインなんだけど性根がな〜って支配人に言われたわ」


認めるんだ……


「とにかく、あそこの女の子は見た目だけじゃなくて性格もとても素敵な子ばかりなの。無理だから諦めなさい」


「いや、諦めん!俺は性根の腐った母ちゃんのような女は絶対にお断りだ」


「誰が性根の腐った女よ!お母さんを舐めたら大変なことになるわよ!」


ほう!どうなるのか教えてもらおうじゃないか。


「はいはい。二人ともやめなさい。久しぶりに会って喧嘩しないの。タクナくんシチュー作ってきたわよ。二人ともなんで喧嘩していたのか話しなさい」


リイナさんが現れ、久しぶりの親子喧嘩は回避された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ