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第97話 一端の探査員

「しろみねっ!」


出力モニター上部に乗って、前方を睨んで微動だにしなかったシマが叫ぶ。東西大街道を西へ走って2時間程か。緩い下り坂の果てに白峰の街が見えて……。


「マジかよ。お前、目も良いんだな。まったく見えねぇよ」


「こころのめ」


「すなわちしんがん」


人は見たいものを見る。俺の白峰に対する気持ちが足りない。だから見えない。シマはそう言う。なんだよ、見えてる訳じゃないのか。


「ししょうのおしえ」


マサトの奴はその場の勢いでめちゃくちゃ言うからな。なんだよ心眼って。


「心眼って見たいものが見えるなんてものじゃ無い気がするけど……ん?見えてきたか」


遥か先に街が見えてきた。白峰の街だ。


「おお、白峰だ……」


思わず口にしてしまう。


「ほらみえた」


…………。納得いかん。


久しぶりの白峰だ。思えば、ここでマサトに携帯糧食をもらってから俺も変わったんだな。街外れにV-REXを停めて歩いて役場のある公園へ向かった。


「こんにちは、ご無沙汰しております!」


しっかりと声を張り役場へ入る。奥の机に座った街長。そのセルヴァンさんと何かを話しているシルフィーナさんがいた。


二人ともこちらを見て固まっている。


「お久しぶりです。白峰探査でお世話になっていたタクナです」


まさか忘れられているとは思わなかったが、顔に傷もできたし、俺だとわからないかもしれない。念のために名乗ってみる。


どうしたことか反応がないぞ。


「あ、あの。KTSに就職しまして、今日は都市外探査会社現況巡察任務でこちらにお邪魔させて……」


流石に不安になって尻すぼみになってしまった。


「あらあらあらあら…………」


「おやおやおやおや…………」


二人揃ってフラフラとこちらへ歩み寄ってくる。まるで死人が生き返ったのを見るような表情で少し怖い。思わず後ずさった。


「こんにちはっ!」


シマの声で二人が動きだした。


「立派になって〜。本当に見違えたわ……。あの悪戯坊主がこんな立派な探査員になるなんて……」


シルフィーナさんは涙ぐんでいる。いや、シルフィーナさんの中で、俺らはどんな風に見えていたのだろう。俺もマサトも悪さはしたかもだけど、いい大人ではあった。坊主って……。


「すっかり貫禄がついて。どっからみても歴戦の探査員だ。あのタクナくんが立ってるとはわかったけど、心が追いつかなくてね」


セルヴァンさんが目を細めている。


二人とも大袈裟な。


「もうガルバンのところには顔を見せたの?」


「いや、まだです。まずは役場に顔を出すのが先かと思って」


初めて翠風に行ったとき、クロさんから教わった。


「まぁ、だめよ!ガルバンもオニゾウさんも悲しむわ。いま呼んでくるから待ってなさいっ」


そう言って表に出ようとするシルフィーナさんをセルヴァンさんが止める。


「シルフィーナ。呼ぶなら僕が行ってくる。タクナくんにお茶とお菓子を出しておいてくれ」


今度はセルヴァンさんが。


「いや、お二人とも大袈裟です!これから白峰探査に顔を出しますからっ」


「ぽんこつ」


呆れ切ったシマの台詞に、今度こそ二人も正気に返ってくれた。


結局、役場から白峰探査へ二人と一緒に行くことになった。役場から出るときに、応接間のテーブルに見覚えのあるものが立てられていた。下手くそな装飾をされたフォトフレームだ。なぜクロさんに渡したものがここにあるのだろう。不思議に思い目を止めたのが、セルヴァンさんに伝わったのだろう、苦笑しながら教えてくれた。


クロさんがそれを白峰に持ち帰った日、みんなで鑑賞会を行った。役場に集まり観ていると、話を聞きつけた街人が何人も入れ替わり訪れて再生をしたと。


ひとしきり街人が訪れた後、クロさんがフォトフレームを持ち帰ろうとした所で問題が起こった。


「なんでクローディアがそれを持って帰るの?」


とシルフィーナさん。


「え、私が三人からもらったんだもの。私のでしょ?」


とクロさん。


そこからは、酷い屁理屈の応酬だったらしい。二人とも都市にいる時からの仲だ。遠慮などせずにガンガン相手の欠点を論い。それはもう聞くに耐えないものだったと。


最終的にシルフィーナさんが


「あなた、そんな業突く張りだと、天寿を待つ前にカナン様の神罰を受けるわよ。私が祈るからっ」


の一言で決着がついたらしい。元高級監査官であったシルフィーナさんのその言葉に、さすがのクロさんも膝を屈したらしい。


なにをやっているのだろう二人とも。


「まあ、でもここに三人からのフォトフレームがあるおかげで、普段役所に顔を見せない人も時折訪ねてくるようになったからね。三人には感謝だ」


苦笑いで経緯を説明してくれたセルヴァンさんだが、最後は笑顔でそう言ってくれた。白峰のみんなが笑ってくれるならと、けっこう恥ずかしい動画を撮ったけど喜んでもらえているなら良かった。


そんな話をしながら、クロさんの金物屋の前を通る。シルフィーナさんは、クローディアを呼んでくるわと言って向かいの魔獣商店へ入って行った。アルマの店はクロさんが管理しているらしい。


「タクナくん!あなたどうしたのその顔の傷は!誰にダメ出しされているの?そんなバツ印つけられちゃって……可哀想に。早く謝って消してもらいなさいよ」


安定の罵倒具合でもはや安心感まである。それに、そう言われた時のセリフは考えてあった。


「クロさん。久しぶり。こんなこと言いたくないけど、マサトと同じこと言ってます」


その顔が見たかった。実に気分が良い。マサト!お前のおかげで一矢報いたぞ。


そのまま、クロさんも連れて白峰探査へ。


「こんにちはー!KTSのタクナですっ。御用聞きに伺いました。社長かオニゾウさんは居られますか!」


お茶をしていたオニゾウさんが立ち上がるのが見えた。


「タクナかっ!おまえ、良い面構えになったな……。ウチにいた頃は半人前感があったが、もう一端の探査員だ……」


久しぶりのオニゾウさんだ。一端とか言われて嬉しい気持ちが湧き上がってきた。柄にもなく、言葉に詰まってしまう。


「苦労したか?」


黙っていた俺に、短い問いかけ。


この人は俺らが経験した事を、何十年と重ねてきた人なんだ。今でも現場で、教えてもらったことが役に立ってます。その端的な言葉が、どれだけ多くの経験を含んでいたものだったか。


「いえ、全然大丈夫です。社長とオニゾウさんに叱り飛ばされていた時の方が辛いです」


なんとか答えた。


「そうか。それなら良かった」


なんだ。鼻の奥がツンとするぞ。やるな鬼爺い。まさか泣かせにくると予想してなかった。


「なんだ〜うるさいと思ったら、なんの団体なんだ?」


社長が騒ぎを聞きつけて奥から出てきた。助かった!


「社長!ご無沙汰しています!タクナです。都市外探査会社現況巡察任務でお伺いしました!」


「タクナかっ!おまえ、どうしたんだその面は!?誰にどんな理由でダメ出しされているんだ。早く謝って消してもらえ、ただでさえ人相が悪いんだ。ヤバいことになっているぞ!」


社長、本当に相変わらずで嬉しいです。違う意味で涙が出そうなくらいです。


後ろに隠れていたクロさんを見る。ものすごく嫌そうな顔をしているが、クロさんが始めた物語だ。ちゃんと結末まで描いてもらうとしよう。


クロさんに向かって顎で合図する。ほら、社長に何か言う事ありますよね?と。実に気分が良い。まさか、クロさんにこんな上からな態度を取れる日が来るとは……。帰ったらマサトに報告しよう。


「さすがししょう」


シマは感心しきり。流石は師匠だと、うんうん頷いていたが、たぶんマサトは喜ばないと思うぞ。


KTSの脳筋魔術士と伝説の戦士。その二人と同じ発想。俺は知的が売りの蒼穹探査オニゾウさん派だな。

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