第96話 似たもの同士
V-REXの魔素駆動機を起動する。凶悪な紫の魔素散乱が始まる。制御器を起こし、リングを回し魔素の氾濫を落ち着かせた。
「タクナさーん。課長に、あいつは大丈夫だよな?マサトみたいにアホな真似はしないよな?どうなんだ、お前の同期だろ。答えてくれっ!て言われた」
出発準備をしているとフロラが傍にやってきた。
ふっ。ラドさんも心配性だな。しかしマサトのアホと一緒にされてはかなわん。あいつは非常識ゆえに未だ4等級。俺はすでに8等級だ。探査員としての格が違うというものだ。
「ラド課長に含むところはないが愚問だな。問題など皆無だ」
「うん。タクナさんならそう言うと思った。だから、タクナさんとマサトさんは似たもの同士で、安心材料はひとつもありません。って答えておいた」
フロラの評価が酷いな。そもそも、マサトが魔素駆動機絡みで馬鹿な真似をするのは、大抵フロラが関わっているんだ。そこらへんは自覚しろと言いたい。
「マサトさんは絶対に壊すから、違うというならタクナさんは壊さないでね」
ジッと見つめてやったら、そう言われた。
「当たり前だ。俺とマサトの阿呆を一緒にするな。もう行くぞ」
そう言ってV-REXのギアを叩き込み、クラッチを繋ぐ。制御リングの回転が上がるにつれ紫の輝きが増す。
「じゃあなフロラ!ラドさんに安心して良いと伝えておけ!」
浮き上がるフロントを力尽くで抑え込み、グラウンドを横切り正門に走らせた。
「ちょっとーー!どこ行くのよっ!そっちじゃなーーーい!」
フロラがなんか叫んでいるが、何を言っているやら。俺は西周りでお使いする予定だ。進むべき道はわかっている。
市街地を抜けて都市の中央通りを走る。東西を貫く大通りだ。道ゆく人々の視線を集めている。そこで、気がついた。
あ、やべぇ。
緊急時を除き、市街地で魔素駆動車を走らせるべからず。
もう遅い。いまから外縁周回路に戻る方が市街地を走ることになる。やっちまった。部長が怒られるぞ……監査庁に。
「たくなー」
声が降ってきた。
「どこいくのー」
シマだ。
空から降ってくる声を頼りに姿を探すが、まったくわからない。そうこうしているとハンドルにシマが降りてきた。
「たくなおでかけ?」
「おお、ちょっとな。街を回る仕事に行ってくるわ」
「ふ〜ん」
西方入出都管理所が見えてきた。普段なら、窓口に立ち寄るのだが、こちらを出迎えるべく何人も管理所の外で待ち構えている。
そりゃ市街地を抜けてくる魔素駆動二輪車がいればそうもなるか。そして、ごつい見た目のV-REXともなれば誤魔化しようもない。
「どんくらい?」
入出都管理所の騒ぎなど、関係なく呑気にシマが聞いてくる。
「そうだな〜。10日から2週間ってところかな」
「ふ〜ん」
なにやらシマが考え込んでいる。
そうこうしている内に管理所に着いた。
「KTSさん、緊急出都の連絡は入っていませんが、なぜ市街地を?」
さて、困ったぞ。こういう時の対応はマサトの役目だ。奴に任せておけば、100パーセント。いや120パーセント瑕疵があっても、1パーセントくらいは悪くないと話を持っていける。なんだろうあの技術は。真似できる気がしない。
端末を差し出して、探査員証を見せる。
「えーと。都市外探査会社現況巡察任務に出ます。うっかり市街地を抜けてしまいました。すいません」
マサトの言い訳スキルを持たないので、しょうがなく正直に謝っておく。
管理所の方々の呆れた顔よ。
「タクナさん。それが8等級探査員のやることですか?」
「申し訳ありません……」
初めての単独任務。マサト風に言うと放し飼い状態に浮かれていた。
「反省されている様子ですし、初犯なので見逃してあげます。ですが、市民から監査庁に入る通報はどうにもなりません。ないことを祈っておいて下さいね」
探査員証を調べながら、女性警察官が出都手続きをしてくれた。行先や帰還日等々、あと市街地を魔素駆動二輪車で走行した記録も。
「ほんと、すいませんでした」
「いいえ、道中お気をつけて。行ってらっしゃい」
事務的すぎると思ったのか、警察官が笑顔でひと言付け加えてきた。
「私の母が、黒瀬の役場にいるはずです。もし会う事があったら、偶には顔を見せに来いと娘が怒っていた。そう伝えて下さい」
怒っているというより、淋しいのだろう。笑顔に翳りがある気がした。
「お母様のお名前は?」
軽い社交辞令のつもりで言ったのだろう。まさか名前を訊かれるとは思ってなかったのか驚いている。
「え、いや。冗談で─」
「役場に顔を出して、困り事がないか聞くのが俺の仕事です。都市にいる娘さんを放置して怒らせている問題は、伝えておくべきでしょう。エリーアさん、お母様のお名前は?」
制服の名前で呼び、もう一度訊ねる。
「カルーナ。カルーナ・サラナスです」
「カルーナ・サラナスさんですね。必ず伝えましょう。エリーアさんが寂しがっていたと」
寂しがってなどいない。そう口にしかけた様子だったが、諦めたのだろう。
「ええ、お願いします」
今度は柔らかく良い笑顔だった。
エリーアに挨拶をし、走り出したタイミングでハンドルから声がした。
「まって!」
「あるまつうしん!」
「ああ?あるまに通信ってなによ?」
「るすにする」
何言ってるのかわからん。どういう事だ。詳しく話を聞くために走らせたV-REXを止めた。
「ついてく」
「付いて行くって俺にか?」
「うん」
「あるまつうしんして!」
なんだよ面倒くせぇな。しまった端末をもう一度取り出した。
グダグダな出発になった感はあるが、とにかくまずは白峰だ。そこから朱路、黒瀬、そして碧淵か……。
街道を白峰に向かって走らせていた。白玲峰が遠くに見える。冠雪しているのだろう、山頂付近が真っ白になっているのがわかる。シマは出力モニターにくっ付いている。
「にしても、シマは大丈夫なのか?突然出掛けたりして」
アルマにあれこれ細かく伝えさせられた。俺にはなんの話かよく分からなかったが、アルマは理解している様子だった。
「だいじょぶ」
「たくなこそ」
「だいじょぶ?」
聞き返されてしまうが、何を言ってるのかわからん。
「なんの心配してるんだ。なにも問題ないぞ」
「るすいった?」
アルマとの会話を思い出した。なるほど。言われてみたらシマの言う通り、シマが留守にすることは言った。しかし、俺が留守にすることは全く伝えてない。
「いや、言えよ。なんで今、言うんだよ」
端末が使える距離ではない。
「もどって」
「阿呆言うな。今さらどの面下げて戻るんだ。妹に出かける事を言い忘れたから、帰ってきました。行ってきます言ったら、またすぐに出ますからおかまいなくってか?そんな恥ずかしい真似が出来るか」
「大丈夫、マサトが連絡してるはずだ」
「ぜったいしてない」
マサト、弟子からの信用0だぞ。いや信頼されているという見方もできるか、逆方向に。いずれにせよ、そん時はそん時だ。またマサトの財布で謝罪させることにしよう。




