第77話 だからさ、もうちょっとしてから帰らせてよ。
「けっこうおもしろかったじゃん」
「そうだね」
そう言って、飲み物をいつもと逆の手で取って口を付ける。
なぜ逆の手で取ったのかと言えば、ずっと手首を握られているからだ。
「そろそろ放してもらってもいい?」
「なんで?」
「トイレ行きたいからさ」
「あっそ」
ぱっと手を離された。
確認してみると、手首にくっきりと跡がついていた。
これも実質ホラー演出だなと思いつつ、リビングを出てすぐに戻りソファに座る。
彼女はSNSを見ていた。
こちらに気づき、すぐに口を開く。
「さっきのホラー映画の感想見てるんだけどさ、コレひどくない?」
投稿文を斜め読みしてみると、演出が酷いということがつらつらと書かれていた。
「演出が酷いっていう感じはしなかったかな」
「だよね」
良い作品を悪いって言う自分が好きなタイプだろうね、と言って電源を消した。
「じゃあもう1本ホラー映画見る?」
「連続で見るのは流石にキツイかな」
「それなら別のジャンルにする?」
「映画を連続で見るってのがきついんだけど」
ていうか、そろそろ彼女は家に帰った方が良い時間では?
時計をちらっと確認すると、彼女はすぐ口を開いた。
「なんで今時計見たの?」
時計を見たことよく気づいたね。
「そろそろ帰った方が良いんじゃないかなって」
溜め息を吐いてから彼女は続ける。
「マジでそういうとこあるよね、君って」
「そういうとこって?」
「なんていうのかな、用が済んだらもう帰って欲しいみたいな雰囲気っていうか」
なにそれ、めっちゃ嫌なヤツじゃん。
「私はもっと余韻を楽しみたいわけ」
ホラー映画を見た後の余韻って楽しいの? という言葉は飲み込んで頷いた。
「だからさ、もうちょっとしてから帰らせてよ」
そう言って彼女はテーブルに置いてあった飲み物に口を付けた。




