第74話 言えるヤツだったら、小説とか書いてたかな。
「子どものころ趣味とかあった?」
彼女の実家にお邪魔させてもらうから、色々聞いておこう。
自分は彼女の子ども時代についてほとんど知らない。
というのも当時の彼女は孤立していたらしく、聞いて良いのかわからないからだ。
ひとまず、当たり障りのないトピックから始めてみることにした。
「趣味って言えるほどハマってたことはなかった気がするけどね」
少し上を見ながら彼女は続ける。
「でもまあ、本を読んで時間を潰すことが多かったかな」
「じゃあ読書が趣味だったって感じ?」
「いや、好きってほどじゃなかったね」
あくまでも時間を潰すためだけに読んでいただけらしい。
「どんな本読んでたの?」
「えー普通の作品だよ」
作品に普通ってある?
「有名そうな作品の字面をなんとなく追ってたっていうか」
「高校時代もそういう感じだったの?」
「まあ大体そうだね」
自分は友だちと話してたけど、たしかにそういう生徒も何人かいたかもしれない。
そういう人を見ても当時は何も思わなかったけど、今なら印象変わるかもな。
「家ではなんかしてなかったの?」
家でしていた趣味に話を変えることにした。
「言えるヤツだったら、小説とか書いてたかな」
「それ言えるヤツなんだ」
普通なら言えない趣味に入りそうだけど。
なんでも、休み時間に読んだ作品と似た雰囲気の作品を書いていたらしい。
「それって残ってないの?」
「もう処分したからないね」
立つ鳥跡を濁さずだね。
実家から出るときにすべて処分したらしい。
「ほんとに当時からインドアだったんだね」
「まあね」
「夏休みとか外出することなんて一度もなかったし」と彼女。
「だからさ、9月1日に外出るじゃん」
「うん」
「登校日の朝に外に出て、なんて世界は美しいんだろうって思ったことがあるね」
「幽閉されてたのかな?」
それか左遷された中国の詩人だね。
学生時代の趣味の話を終えると、彼女はコップに入っていた飲み物に口を付けた。




