第7話 どうして1人でも大丈夫な私がわざわざ一緒にいるのかってこと
「あれ、今日は違う香水つけてる?」
「思ったより早く気づいたね」
2時間は気づかないと思ってたらしい。
最初に会ったタイミングが一番重要だから。
そこで気づかなかったら、彼女のテンションが下がるまで分からない。
今日は早めに気づけて良かった。
「それも良い感じだね」
「友だちにオススメされたんだ」
雰囲気に合いそうって言われたみたいだ。
「友だちのこと話すのって珍しくない?」
「聞いてこないから」
そこまで興味ないのかなって思って、と彼女。
「興味はあるけどさ、ほら・・・」
言葉を濁す。
「いや、流石に今は仲の良い友だちくらいいるし」
「そうだよね」
なるべく自然に頷いた。
「なんか気まずい雰囲気出してるけど、私は学生時代エンジョイしてたからね?」
周りからそう見えてなかったかもだけど、と言葉を加える。
まぁ簡潔に言えば彼女は学生時代、特に小学校から高校にかけては周りから距離を置かれていたらしい。
その結果、色々悪口を言われて孤立していたとか。
「なんだろう、私の学生時代を腫れもの扱いするのが気に入らないんだけど」
「別にそういう風には思ってないよ?」
話したくないことがあるんだったら、別に話さなくてもって思ってるだけで、と付け加える。
「じゃあ私の高校生活を聞いても可哀そうだなって思わない?」
「内容にもよるかな」
本当に深刻そうなのは可哀そうって思うかもしれないけど。
「教科書を忘れたときに隣の子が一瞬教室を見回してから苦笑いして『いいよ』って言ってきた話とかは?」
「それって本当の話?」
「うん」
ここで嘘吐くわけないでしょ、と彼女は応えた。
その話だけでなんとなく彼女の高校生活が推し量れるな。
「それをエンジョイしてたの?」
正直、聞いてる感じだと楽しくなさそうだけど。
「それはもちろん」
お手洗いに行くときとか、同じクラスで待ってる子がいれば譲ってくれたからね、と補足する。
対面しているときはよそよそしい態度で距離を取られる感じだったみたいだ。
だからね、と言って彼女は続ける。
「私は孤独耐性が他の人よりも強いわけ」
「そうかも」
経験に裏打ちされた主張ってヤツだ。
「その私が君と付き合ってるのがどういうことか分かってる?」
「どういうこと、と言うと?」
「どうして1人でも大丈夫な私がわざわざ一緒にいるのかってこと」
そう言って彼女は身体を寄せる。
すでに香水の匂いがはっきり感じられる距離に近づいていた。
「楽しいから?」
「確かに、一緒にいて楽しいっていうのも重要だよね」
でもそれじゃない、と首を横に振る。
「シンプルに考えれば、だけどさ」
「うん」
「相手のことが好きだからとかじゃないの?」
自分で言ってて恥ずかしいけど。
「まぁそれもあるよね」
嫌いになったら一瞬で別れるつもりだし、と付け加える。
実際、そういうことをしてもおかしくないとは思ってる。
今のところは大丈夫だけど。
「え、それじゃないの?」
「全部合ってるけど、一番ではないかな」
まさにコレ、っていうのがあるんだけど、と彼女。
「ごめん、本当に分からないかも」
教えてもらうよう頼んだ。
「うーん、それを素直に教えちゃったら君のためにもならないっていうか」
ちゃんと私のことも考えて欲しいし、と言って続ける。
「それを教えてるのはまた今度かな」
聞かれたら合ってるかどうかくらいは教えてあげるよ? と彼女はこちらに視線を向ける。
宿題がまた増えた。
現時点で何個かある。
「じゃあ後で考えとくね」
「その後回し癖も何とかした方が良いと思うよ?」
治そうとは思ってるんだけど。
「じゃあ今考えるべき?」
「いや、一緒にいるのに私のこと無視されても困るし」
行こっか、と言って彼女は手を繋いだ。
特別なあなたへ。
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夏野恵




