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第6話 私はおうちデートでも意識してもらえるように頑張ってるよ?

「別にいいんだけどさ」


唐突に彼女が切り出した。


これは断言できる。

彼女が「別にいいんだけどさ」と言って話始めるときは、大体よくない。


なにか言いたいときの前口上みたいなものだ。


「なんかしたっけ?」

「したっていうか現在進行形でしてるんだけど」


自分でわからない?と尋ねられた。


今は動画サイトで、数百年前の硬貨を綺麗に磨く動画を見ているだけ。

怒られる要素なんてないはず。


「ごめん、わからないかも」


彼女はわかりやすく溜め息を吐いてから続ける。


「君の服装さ、部屋着だからって緩すぎない?」


私はおうちデートのつもりで来たんだけど、と零す。


「外出するわけじゃないし、別に良くない?」


彼女は家に来る過程で外に出るわけだから、ちゃんとした服装にするのは分かるけど。


「私に見られてるわけじゃん」

「うん」

「それならもっとちゃんとした服装して欲しいんだけど」


ヤバい。

これは長くなるときの話し方だ。


動画を停止して、ちゃんとした座り方をする。


「一応ね、今日はデートなわけ」


君の部屋とは言っても、と付け加える。


「その恰好で外出できる?」

「まぁコンビニに行くぐらいなら」


彼女は一瞬、「あれ、行けるの?」みたいな表情になった。

しかしすぐに雰囲気を戻して続ける。


「じゃあ私とデートするときにその恰好で行ける?」

「それは流石に無理だね」


彼女と一緒に出掛けるとき、めちゃめちゃ気合の入った服装で来る。

その横を歩くんだったら、もっとマシな服装にしないとって思うけど。


「ほら言うじゃん、それはあなたを信頼している証です、みたいな」


部屋着なのは相手のこと信頼してないとできないって、と付け加える。


実際そうだし。


彼女は腕を組んでしばらく考え込む。

動画サイトのタブを消してから彼女の様子を眺めた。


確かに今日の彼女の服装はカジュアル寄りだけど部屋着ではない。

いつものデートとは違う系統だった。


「さっき部屋着なのは私を信頼してる証、みたいなの言ったじゃん」

「うん」

「私はおうちデートでも意識してもらえるように頑張ってるよ?」


もちろん君のことは信頼してるけど、と付け加える。


スマホで『おうちデート 服装』って調べてみて、と言われた。

検索すると『彼が喜びそうなおうちデートの・・・』と書かれた記事が。


「いつもとは違う印象を与えるために、こっちも色々考えたりするわけ」

「そうなんだ」


その記事を眺めながら頷く。

『あえて色っぽいコーデをすると彼氏さんも喜びます』って書いてあった。


はい、喜びます。


「もし私の家でおうちデートするとき、ちょっと私がおしゃれな感じだったら『まだ信頼されてないんだな』って思うの?」


流石にそこまでは、と応える。


「だったら今、自分が何するべきか分かるよね?」


そう言ってしっかりこっちの目を見てきた。


「・・・一旦、着替えてきます」


そう言って立ち上がろうとしたとき、彼女に手を掴まれた。


「いや、そっちじゃない」

「でも服装が緩いのが問題なんでしょ?」

「それもそうだけど・・・」


彼女と目が合わない。


「・・・あ、今日のコーデ褒めてなかった」


自分の部屋だったから、完全に失念していた。

言われる前に気づけて良かった。


「ちょっと待って」


私のことを褒めるときってそんな義務的に褒めてたわけ? と聞かれる。


「ちゃんと可愛いなって思ったときに褒めてるよ?」

「じゃあ今日のはそう思わなかったってわけだ」


色々考えておうちデートのコーデ選んだって話したよね? と確認された。


圧が強い圧が。


「いや、別に良いよ?」


褒めてもらえないってことは普通に私が悪いし? と呟く。


マズい。

ひねくれ始めた。


彼女に近づく。


「とりあえず抱きしめて『ごめん』って言うのもナシだから」


それで許してもらえると思ってるのかもしれないけど、と付け加える。


おっと、こちらの行動を先読みされてしまった。

これじゃ打つ手なし。


「なんかもうほんと色々ごめん」

「だからそのごめんがナシなんだって」


そう言って彼女はこれ見よがしに溜め息を吐いた。


「これから気を付けるから」


マジでごめん、と謝る。



しばらく沈黙が生まれた。


スマホを取り出す雰囲気でもなかったので、黙って彼女を見る。


「・・・そのスウェットっていつから着てるの?」


こちらに指を指して尋ねられた。。


「高校生のときからかな」


話を変えてくれたので、その話題にすぐ飛びつく。


「ってことは結構使い込んでるわけか」

「そうだね」


ふーん、と彼女は呟いた。


「そういう感じの服ってどのくらいある?」

「ここにってこと?」

「うん」


ちゃんと数えたことないけど5枚くらいかな、と応える。


「どれか1つ、私にくれない?」

「大分汚れてるよ?」


高校から着てるわけだし、と付け加える。


「それでもいいから」


1枚ちょうだい、と繰り返し頼まれた。


実は彼女がモノを欲しがることは少ない。

意外にって言ったら怒られそうだけど。


だから、彼女がスウェットを欲しがることはとても珍しいことだった。


「・・・じゃあどれか1つ欲しいのがあれば」


部屋着としてローテーションしているものをベッドに並べた。


どれも彼女の趣味には合いそうもないものばかり。


「じゃあこれにしようかな」

「え、コレで良いの?」


高校1年か2年の頭くらいに買った、ヨレヨレのスウェットだった。


「なんか良い感じだし」


そう言って彼女は丁寧にそのスウェットを折りたたんだ。


コレのどこを見て「良い感じ」という言葉が出てくるのか良く分からなかったが、機嫌が戻ったみたいなので良かった。


その後はサブスク配信の映画を見ながら一緒に過ごした。

特別なあなたへ。

ご覧いただきありがとうございます。

リアクションや感想、本当に嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。


夏野恵

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