第5話 私がいるのに気になる子とかできるわけないじゃん
「ピアス、つけてたことあるんだ」
「大学一年のときにちょっと」
髪を耳にかけてピアスの跡を撫でる。
「なんで開けたの?」
「前々から興味があったからかな」
ふーん、と呟く彼女。
嫌な間が流れた。
「嘘、吐いてない?」
「吐いてないけど」
「いや、今の感じ嘘ついてるときのヤツじゃん」
「・・・そういうのわかるの?」
わかるに決まってるでしょ、と腕を組んで応える。
「実際、平日に電話するの面倒くさいからって理由で断ってるの知ってるからね?」
いつも適当な理由で逃げてるみたいだけど、と彼女はぼやいた。
だって電話一本で90分だよ?
映画見れるじゃん。
「で、なんでピアスしてたわけ?」
大学一年生の時って言ってたけど、とこちらを見る。
正直に話すことにした。
「・・・当時、気になってた子がいたんだよね」
「うん」
「バイト先の子だったんだけど、その子が『ピアスを付けてる男の子って良いよね』って話を他の子にしてたんだ」
「うん」
「それならちょっとやってみようかなって」
なるほどね、と彼女は相槌を打つ。
「それで?」
「それでって?」
「その子とはどうなったわけ?」
「言わないといけないヤツ?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「恥ずかしいっていうか・・・」
「それならなおさら聞きたいかも」
少し距離を詰めてから「それで?」と繰り返し尋ねられた。
「・・・『そのピアス、あんまり似合ってないよ』って翌日に言われた」
その子、数日後にバイト辞めたし、と付け加える。
「可哀そうじゃん」
そう言う彼女は口元に手を当てている。
笑う雰囲気じゃないから隠してるんだろうけど、その様子だけでも普通に傷つくからね?
もしかしてさ、と言って彼女は続ける。
「安いピアッサー使った?」
「千円ちょっとだったかな」
バイトの帰りに立ち寄ったドラッグストアで、と補足した。
「店頭販売してる千円前後のピアッサーって正直、あんまりなんだよね」
モノにもよるけど、と付け加える。
「それで心と耳たぶに穴が開いた、と」
「言い方が気になるけど、まぁ合ってるかな」
それ以降、ピアスはつけたことがない。
へぇ、と呟きながら彼女はピアスの跡に何度か触れてきた。
「でもヤバいね」
「何が?」
「なんていうんだろ、君のその行動力って言うの?」
気になってた子の世間話を本気にして、バイト帰りにピアッサー買って、本当にピアスを付けるっていうのがさ、と付け加える。
「今だったらしないよ?」
「当たり前でしょ」
彼女は即答する。
自分の話みたいに反応してきたのでびっくりした。
「私がいるのに気になる子とかできるわけないじゃん」
「いや、そういう話じゃなくって」
あれ、さっきまで普通だったのに。
いきなり機嫌が悪くなったぞ。
彼女の様子を伺う。
「なんで被害者面してるわけ?」
「してないよ?」
「今してるじゃん」
なんか叱られた犬みたいになってるけど、と不名誉な例えをされた。
嵐が過ぎるのは待っている。
流石に大学一年のときの女の子に嫉妬はしないけどさ、と言って彼女は話始めた。
「普通にピアスを付けてるときの君はちょっと見たかったかも」
ていうか、ピアッサーの説明書を熟読してる様子とか見たい、と呟く。
大分ニッチだね。
「取扱説明書とかさ、頭からしっかり読むタイプじゃん」
君って、と言ってこちらを見る。
「もちろん」
何かあったときが怖いし。
「そのあとに震える手で耳にピアッサー近づけた感じ?」
こういう感じで、と架空のピアッサーを耳に近づける。
「それでバチン! と」
彼女は自分の耳たぶに触れた。
その耳には誕生石であるアレキサンドライトのピアスが付いている。
いやぁ本当に高かった。
「その時の写真なり動画なりはないの?」
「自分の写真を撮ったり撮られたりするの、苦手なんだよね」
流石にないと思う、と言いながらアルバムを遡った。
「・・・なんか見られるの恥ずかしいんだけど」
「別にたまたま視界に入ってるだけで、見ようとはしてないから」
早くスクロールして?と彼女は呟く。
めっちゃこっちに身体寄せてるけど。
でもここで何か言ったら『見せたくない理由とかあるの?』って言われそう。
素直にスマホをスクロールした。
特別なあなたへ。
ご覧いただきありがとうございます。
リアクションや感想、本当に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
夏野恵




