第66話 急いでないけど、できるだけ早く教えて。
「そういえばさ、親ってどんな感じなの?」
「私の親ってこと?」
「うん」
皿洗いをしながら、ふと疑問に思ったので彼女に尋ねてみた。
「まあ固い感じかな」
「どういう方向性で固いの?」
マナーとか、と彼女。
「どうりで」
「それ褒めてる?」
「もちろん」
うちの親にも、マナーがしっかりできていると彼女は褒められていた。アレはおそらく、彼女を持ち上げることで相対的に自分を落とすやり方だったのだろう。
実家から帰る電車の中で気が付いた。
「やっぱマナーって重要だからね」
「君が言うんだー」
「貶してる?」
「もちろん」
正直だね。
洗い物を終えて手を洗う。
タオルが少し湿っているので、取り換えることにした。
「替えのタオルってどこ?」
「後ろの引き出しに入ってるよ」
「オッケー」
新しいタオルをフックにかけて、使ったタオルを洗濯機に入れてからリビングに戻る。彼女はソファに座っていたので、その隣に腰を下ろした。
「……次は私の親に会う感じ?」
おもむろに彼女は尋ねてきた。
スマホから顔を上げて、彼女に視線を向ける。
「なんとなく、知りたいなって思って聞いただけだよ」
「ふーん」
小さく呟いて、彼女はスマホに視線を戻した。
「最近は帰省してる?」
「まあそれなりに」
「一番最近はいつ?」
「大晦日に帰省した」
大晦日に帰省かぁ。
今年はどうしよう。
「いま君、『今年どうしようかな』みたいなこと考えてるでしょ」
「よくわかったね」
ご名答。
「……大晦日に私の実家に来るのとかどう?」
彼女の声のトーンが少しだけ落ちた。
「うーん……」
間延びした返事をしつつ、考える時間を稼ぐ。
両方の実家に行って顔合わせをするっていよいよって感じだよなー。
あーどうしよう。
「ちょっと考えさせてくれない?」
「いいよ」
急いでないけど、できるだけ早く教えて、と彼女は呟いてスマホに視線を戻す。
『急がないけど、できるだけ早く』ってどっちだろうと思いながらSNSを開いた。




