第64話 普通のでいいんだよ。
「そのピアス、だいぶ気に入ってるね」
「当たり前でしょ」
ベッドで横になっている彼女はすぐに答えた。
髪を耳にかけてピアスを見えるようにして、赤紫色に光る彼女のピアスを眺める。
「アレキサンドライトってほんとに綺麗だね」
「ピアス似合ってるね、でよくない?」
それもあるけど、それだけじゃないっていうか。
アレキサンドライトは6月の誕生石。
彼女の誕生日に天然石のピアスをプレゼントした。
値下げ中という宣伝文句で自分を納得させて、勇気を振り絞って購入した。
だからこのピアスには思い入れがある。
「これのせいで、誕生日プレゼントのハードルめっちゃ高くなったからね?」
「値段のハードルはこれから下げていくから大丈夫だよ」
「いや、それも困るんだけど」
「普通のでいいんだよ」と呟いて、腕に触れてくる。
普通ってどのくらい? という質問は飲み込む。
また「今はそういう雰囲気じゃなかったじゃん」って言われたくないし。
言葉を交わさずにただ横になる。
リビングから時間を刻む微かな音が聞こえてきた。
ドアに視線を向ける。
数センチだけ、ドアが開いていた。
その隙間がなんとなく気になって、ベッドから起き上がる。
「……なに?」
「いや、ドア閉めようかなって」
「ちゃんと閉まってない?」
「ちょっとだけ開いてる」
パタン、と音を立てて扉を閉めて、すぐにベッドに戻った。
「君、そういうの気にするよねー」
「開けっ放しになってたら怖くない?」
「どういう感じ?」
「人に見られてる感じかな」
いつの間に部屋に入ってきたの? と言って彼女は笑みを零す。
「ていうか、なんだけどさ」
「うん、なに?」
そう言って、彼女に話を促す。
「流石にこのまま寝るとかないよね?」
「さっきのは?」
「あれはノーカンだから」と彼女。
「まだ22時半とかでしょ?」
「そうだけど」
「明日も休みだし、良いじゃん」
そう言って彼女は、隙間を埋めるようにぴったりと身体をくっつけた。




