第62話 もっと皮膚のところ噛んでくれない?
「これでいい?」
「いいよ」
「ありがと」とドライヤーで髪を乾かしたことを感謝された。
延長コードとドライヤーを元の場所に置いてから、再びソファに腰を下ろす。
「君の指さ、やっぱめっちゃいいね」
そう言いながら、指に触れてきた。
詳しいことはよくわからないけど彼女は指フェチらしい。
指を噛むことにハマっていると聞いたことがある。
「今日は噛まなくていいの?」
「え、噛んでもらいたい?」
「噛むのと噛まれるの、どっちが良い?」
「それなら噛んで」
すぐに彼女は手を差し出してきた。
「最近はしてるの?」
「まあ、たまに?」
そう答えながら、彼女は視線を逸らす。
これ、毎日やってるヤツじゃん。
「そんなに気持ちいい?」
「気持ちいいけど」
「そっか」
自分にはどうも理解できない趣味だ。
話をしながら彼女の指を眺める。
容姿の割にはふっくらした手をしているけど、これはギャップ萌えに入るのかな。
そんなことを考えながら、彼女の指を口元に近づける。
「どの指が良いとかある?」
「やっぱ人差し指かな」
「え、人気の指とかあるの?」
「あるある」
「とりあえず、人差し指から」と言われたので、右手の人差し指を甘噛みした。
「はぁーやっば……」
ちらっと見ると、彼女は左手の指を噛んでいた。
ひとりで噛んでるとき、他の人に嚙まれたいって思ってるのかな。
「もっと皮膚のところ噛んでくれない?」
「オッケー」
骨のところじゃなくって、皮膚の部分を噛む。
指を噛んで気持ちよくなるってどういうメカニズムなんだろう、と思いながら、しばらくは彼女の言う通りに噛み続けた。
「ありがと」
こっちにティッシュを寄越してきたので、口元を軽く拭く。
こちらを見ながら、すぐに彼女は口を開いた。
「お返しに君の指、噛んであげようか?」
「噛みたいんじゃなくって?」
「いや、噛んで欲しそうな顔してるじゃん」
指を噛んで欲しそうな顔って、どんな顔なんだろう。
自分の表情を確認したかったけど、空気を読んで控えた。
「じゃあ、お返しに噛んでくれる?」
「もちろん」
そう言ってすぐ、彼女は指を口に含んだ。




