第61話 ……早く髪、乾かしてよ。
「今ヒマ?」
「まあヒマかな」
スマホから顔を上げると、お風呂上りの彼女がドライヤーを手にしていた。
「だったらさ、私の髪乾かしてみない?」
「そんな提案、生まれて初めてされたかも」
「で、どう?」
すぐに話を元に戻された。
彼女は意外と真剣そうだった。
「まあ、してもいいならさせてもらおうかな」
貰えるものは貰っておくというのが自分のポリシー。
すぐ延長コードを引っ張ってプラグを挿しこみ、ドライヤーを手渡してきた。
「いつもやってる感じで良いの?」
「とりあえず、それでやってみてよ」
その言葉を合図に、彼女の髪を乾かし始めた。
少しずつ髪を取って、ドライヤーの風を当てる。
彼女の髪は、少し湿り気を含んでいた。
「毎日、どのくらい髪を乾かすのに時間かかるの?」
「うーん、丁寧に乾かしたら10分くらいかかるかな」
その後しばらくは黙って彼女の髪を乾かしていたが、ふとあることを思い出した。
「ドライヤーとかでさ、マイナスイオンって言葉よく見かけない?」
「あーよくあるね」
彼女が頷いたので、手にする髪がするすると零れる。
「あれ、何が良いのか知ってる?」
「……」
「え、無視?」
ドライヤーを止めて尋ねる。
「……早く髪、乾かしてよ」
自然乾燥しちゃうじゃん、と振り返って彼女は呟いた。
すぐにドライヤーを付けて、髪を手に取る。
「たぶんアレでしょ、髪ツヤが出ます、みたいなヤツ」
「それって科学的な根拠ある?」
「いや、私に聞かれても困るんだけど」
マジレスしないで、みたいな様子だったので、その話題にそっと蓋をした。




