第58話 どうせなら泊まりなよ。
「今からどうする?」
「うーん、どうしよっか」
駅の構内から出てから、スマホで時間を確認してみる。
予定よりも少し早めに戻ってきてしまった。
親の育児が忙しそうだったので、空気を読んで早めに帰ったのだ。
「少し早いけど、夜ごはんとかにしようか」
「いいね」
場所はどこが良い? と立て続けに彼女は聞いてくる。
そのときふと思い立ったので、あることを口にしてみた。
「たまには、自分で料理してみようかなって思ってるんだけど」
「……え、君、今なんて言った?」
「料理してみようかなって」と言葉を繰り返す。
彼女は驚いた表情を見せた。
「君が料理するってことある?」
「ひどい言い草だね」
たまにはしてみようって思うことくらいある。
「最近、料理系の動画とか見てるから、ちょっとやってみたくなって」
「あーそういうことね」
それなら納得かも、と彼女。
どんな料理動画を見ているかという話になり、そこそこ盛り上がった。
「でもさ、君の家って調理器具とかなくない?」
「キッチンの引き出しに埃をかぶったヤツならありそうだけど」
数年以上前に自炊しようと思って買ったけど、一度も使っていないヤツが。
「それならさ、私の家に来る?」
「いいの?」
「いいよいいよ」
新しく調理器具を買うより安くで済むじゃん、と彼女。
それなら、そうさせてもらおう。
彼女の家に行くことに決めた。
「ていうかさ、どうせなら泊まりなよ」
しばらく歩いてから、彼女がおもむろに呟いた。
「あーじゃあそうさせてもらおうかな」
「うん」
「その方が良いと思う」と小さな声で彼女は口にした。
「とりあえず準備するから、一旦解散ってことにしようか」
「そうだね」
「じゃあまた」と彼女に手を振って別れた。




