第57話 黒歴史になりそうなヤツは全部処分してるから
「いやー面白かったね」
「普通に地獄だったけど」
バスに揺られながら、彼女に応える。
彼女が両親に自分の子どもの頃の話を聞いたまでは良かった。
そうなることはある程度想定していたから。
普通に写真を見せるくらいだろうと思っていたら——
「君、小学校の頃からキレッキレな文章書いてたんだね」
「はぁー……」
深い溜め息を吐く。
親が彼女に見せたのは、自分が小学校の頃の日記だった。
詳細は省くけど、彼女が朗読してるのを見て冷や汗が止まらなかった。
「なんであんなことしたの?」
「君が苦しんでる姿が見たいからだね」
なんてひどい。
「明日は我が身って言葉知らない?」
「いや私、流石にあんな文章書いてないから」
君に日記を朗読されても全然大丈夫、と彼女は笑う。
なんか悔しいんだけど。
「中学生の頃に作ったポエムとかないの?」
「ないねー」
絶対、恥ずかしいのありそうだけどな。
「立つ鳥跡を濁さずって言葉知らない?」
「知ってるけど」
「私、黒歴史になりそうなヤツは全部処分してるから」
黒歴史になりそうなものを書いていたことはあるらしい。
やっぱり彼女は彼女だった。
「じゃあもう、最近のヤツしかないじゃん」
「……は? いや、別にアレはそういうのじゃないじゃん」
すぐに何を言ってるのか彼女は理解したようだ。
以前、彼女が動画を見せてきたときに、関連動画が視界に写ったのだ。
こういうタイトルだった。
【女性向け】何でも受け入れてくれる彼氏の、自己肯定感が上がるASMR 120分
そしてそのシークバーは最後まで視聴したことを示していた。
「2時間も見たの?」と聞いたとき、彼女はめちゃくちゃ慌てていた。
「普通にジャンルとしてあるものを見ただけであって、別にやましさとかないし。ていうかそもそも、動画が自動再生で流れてきたわけであって自分から見たわけでは……」
彼女が早口でまくし立てるを聞きながら、バスの中で過ごした。




