第53話 君から話しかけてきた、ってのが一番なんだけど
「やっば、めっちゃ緊張するんだけど」
その言葉を聞いて、ちらっと彼女の顔を見る。
ぱっと見はいつも通りだった。
「そんな感じに見えないけど」
「私、顔に出にくいタイプだからさ」
でも心臓が張り裂けそう、と彼女。
「何回も言ってるけど、挨拶するだけだよ?」
「いや、知ってるって」
知ってるけど、緊張するものは緊張するらしい。
たしかに、自分も彼女の親に挨拶するってなったら緊張するだろう。
今回は自分の親だから助かった。
「なに話す?」
「普通に馴れ初めとか話せばいいんじゃないの?」
「君のアレ、話して良いの?」
そう言って彼女はこちらの顔を覗き込んできた。
元カノが二股をかけてた話だ。
向こうの相手も知らなかったらしい。
それに傷心していたときに、彼女に話しかけられたのがきっかけだ。
「できれば、それはちょっと端折ってもらいたいかも」
自分の失恋談は親に知られたくない。
そもそも親に恋愛の話をしたことがないから恥ずかしい。
「なんとなく付き合うようになりました、とかで良くない?」
「それでもいいけどさぁ……」
彼女は不満そうな表情になる。
「君から話しかけてきた、ってのが一番なんだけど」
いきなり見知らぬ女性に話しかけられるほどの勇気はない。
そしてそれは、自分の親もよく知っている。
「同じ建物に住んでたときに何となく話すようになった、が丸いんじゃない?」
「あーそれが一番良いかも」
とりあえずそれで行こう、と彼女は口にした。




