第52話 私が親なら、服装とかめっちゃ気にするけど。
「いや、たしかに挨拶に行くだけなんだけどさぁ……」
揺れる電車の中、隣に座る彼女は不満そうな顔でこちらを見てきた。
上から下まで、彼女にくまなく観察される。
「その服装で行ったら、私がめっちゃ気合入ってる感じになるじゃん」
もうちょっと気合入れた服装で来ると思ったのに、と彼女は呟いた。
自分はいつも外に出る感じだったのに対して、彼女はまさに完全武装。
めちゃくちゃ気合が入っている。
「でも、挨拶に行くだけだからこんな感じで良いでしょ」
「アレだよ、君の両親もガチガチの服なら君だけおかしいことになるからね?」
「流石にそんなこと起きないでしょ」
うちの親のことなら、彼女よりも詳しい。
自分の見立てでは、うちの親はラフな格好で来ると踏んだ。
だからこその普段着だ。
「私が親なら、服装とかめっちゃ気にするけど」
「あーそういう感じするね」
すぐにイメージが湧く。
「でもうちの親だからさ」
「いや分からないよ?」
「片方がちゃんとした方が良い」って言い出したら、どっちともちゃんとした服装で来る可能性もある、と彼女に説明された。
「4人中3人がちゃんとした服装になったら君だけ浮いてる感じになるかもよ」
「あーたしかに」
それはちょっと嫌だな。
「なら今から着替えた方が良い?」
「今からは流石に難しいでしょ」
電車に乗ってるわけだし、と彼女。
それなら厚顔無恥を押し通すしかない。
「まあ、会うまではどうなるかわからないけどね」
彼女は飲み物を口にしてから呟いた。
それとほぼ同時に、一時停止のアナウンスが流れた。
「降りるのってこの駅であってる?」
「あってるよ」
じゃあ降りようか、という言葉を合図に立ち上がった。




