第50話 なんでいきなり素に戻るわけ?
「最近あったことなんだけど、ちょっと聞いてほしいことがあって」
「なに?」とスマホから顔を上げて、彼女は話を促す。
「隣に住んでる人って社会人の女性なんだよね」
「どっち?」
「奥側」
そう言いながら壁を指した。
その指を見てから、彼女は指の方向に視線を向ける。
「それで?」
「家に入る直前、その人が鍵を開けてるタイミングで自分が来たんだよ」
「うん」
「その時、ドアが自然に閉まるスピードじゃなくって、ちょっと焦ってドアを閉めてる感じがして、普通に傷ついたって話」
一昨日にあった話だ。
悪いこと考えてないのに、そんな警戒されると普通に傷つく。
「それで私はどうすればいいの?」
「どうするって?」
「君を慰めればいいの?」
「慰めてって言って慰められても全然慰められないからいいよ」
「難しいこと言うね」
で、何? と彼女はさらに話を促してきた。
「そういうとき、一般的な女性は何を考えてるのかを知りたい」
「あーそっちね」
どうだろうな、と呟いて彼女は少し上を見ながら口を開いた。
「やっぱ不審者だと思ったら、すぐ扉を締めようとするんじゃない?」
「不審者に見える?」
「全く見えないけど」
やっぱそうだよね。
「『不審者じゃないですよー』って言って近づけばよかったんじゃない?」
彼女は冗談っぽく口にした。
『不審者じゃない』ってわざわざ否定する人は不審な人物だと思うけどね。
「でもやっぱり、夜に男の人とばったり会うって怖いよ」
自分の身を守ろうと思って、扉を早く締めてしまうものらしい。
「だから、あんまり気にしなくていいと思う」
そう言ってこちらに近づいてから、彼女は頭を撫でてきた。
しばらく撫でられてから口を開いた。
「珍しいことするじゃん」
「なんでいきなり素に戻るわけ?」
「せっかく慰めてあげようと思ったのに」と言って、彼女はすぐに手を離した。




