第49話 物は言いようだね
「冷蔵庫ってその人の性格が出るって話聞いたことない?」
「あるね」
テレビで芸能人の冷蔵庫を開ける企画とか見たことがある。
「君の冷蔵庫もかなり性格出てるね」
そういって彼女は冷蔵庫をバタン、と閉めた。
「どんな感じなの?」
「エセ完璧主義者」
思ったよりストレートな暴言が飛び出してきたのでびっくりした。
「完璧主義者が悪い意味だったら誉め言葉じゃん」
マイナス×マイナスはプラスって感じで。
「ちゃんとした完璧主義者の方がまだマシでしょ」
君は仮初の完璧主義者だから、と彼女。
「冷蔵庫のどこを見て偽物だって思ったの?」
「じゃあちょっと来て」
彼女に手招きされて、キッチンに向かう。
「君の冷蔵庫、いろいろ入ってるじゃん」
「入ってるね」
冷蔵庫の中を開けながら答える。
「でもさ、これとか見てよ」
彼女がドアポケットから取り出したのは、切れかけのからしチューブ3本。
「切れかけの調味料は使い切ってから捨てなよ」
これがまさにエセ完璧主義者ね、と言って彼女は冷蔵庫を再び閉めた。
ちなみに冷蔵庫の中には、切れかけの調味料や飲みかけのペットボトルも何本かある。
中身は充実しているけど、よく見たらちゃんと整理されていないところが、彼女にとって『エセ完璧主義者』らしい。
「正直、あえて切れかけのヤツを残してるつもりなんだけどね」
「残して意味あるの?」
「あるある」
どうしてもからしを使いたいけど、買うのはめんどくさいというときに、切れかけの3本で何とか1回分のからしを生み出すことができる。
そういうちょっとしたラッキーを生み出すことができるから、『あえて』切れかけの調味料を残しているのだ。
「飲みかけのペットボトルは?」
「ペットボトルに入っている水の量が少ないと、普通のより冷えてる感じがするからだね」
「絶対そんなことないでしょ」
「試してみたらわかると思うけど」
「飲みかけのペットボトル、放置したら衛生的に良くないって話聞くよ?」
「……マジ?」
これからはなるべく口をつけないで飲むことにしよう。
「ともかく、この冷蔵庫はエセ完璧主義者じゃなくって、日常のささやかな喜びを感じることのできる、遊び心に富んだ性格を表しているわけだよ」
「物は言いようだね」
もうそういうことでいいよ、と彼女は呟いた。
ちなみにその後、彼女の料理で切れかけの調味料はすべて使われてしまった。
うーん、無念。




