第46話 いや、問題ないとかじゃなくって
「ていうか、君の実家に行くのってどうする?」
家から出る直前に彼女が聞いてきた。
「お盆で空いてる日とかある?」
「あるよ」
何日と何日は予定がない、と彼女はスマホを見せながら教えてくれた。
自分のスケジュールも確認しながら2人とも空いている日を探す。
「えーと、じゃあ8月14日にしようか」
「オッケー」
スマホを操作しながら彼女は応えた。
自分もスマホのスケジュールを管理するアプリに『帰省』と入力した。
「そもそもなんだけど、実家に来てどうするの?」
正直、ウチの実家には何もない。
めちゃくちゃ田舎ってほどではないけれど、都会とは言えない。
そんなところに彼女が来ても、することなんてほとんどないと思う。
「普通にご両親に挨拶するけど?」
「まあ実家だからね……」
それはそうなんだけど、そうじゃなくって。
久しぶりに実家に戻るっていうハードルと、親に彼女を紹介するっていうハードルがあるせいで、現時点でもかなり気が重い。
「しかもほら、妹がいるって言ってたじゃん」
その子にもちょっと興味あるかな、と彼女。
「そっちもあったか……」
「忘れてたの?」
「完全に忘れてたね」
たしかに出産前後、親からちょくちょく報告を受けていたが、予定が合わず帰省できなかったのだ。そのため、自分の妹がいるという感覚が未だに持てない。
その子にも会うと思うと、さらにハードルが高く感じてしまう。
「マジでどうしようかな……」
「え、今からやっぱナシって言わないよね?」
「言わないけどさー……」
まさか実家に帰ることにこれほど緊張することになるとは思わなかった。
『実家のような安心感』ってフレーズ、全く当てはまらないんだけど。
「一人で行ってくる?」
「は?」
「いや、何でもないです」
実家に行きたいのであれば彼女だけ行けばいいのでは? という妙案が浮かんだが、彼女の顔色を見て一瞬で撤回した。
流石にそれは無理か。
「なんで君はそんなに実家に帰りたくないわけ?」
「帰りたくないっていうか、腰が重いっていうか……」
いつか帰らないといけないとは思うけど、帰るべきタイミングが本当に今なのかは怪しい。ほら、育児とか忙しいだろうし、今戻ったら邪魔になるかもしれないし……
溜め息を吐いてから彼女は口を開いた。
「私は君の実家に行ってご両親に会いたい」
はっきりと言葉にした。
とても重要なことを彼女が言っていることはわかる。
その雰囲気に押されて、ゆっくり頷いた。
「だから君はそれについてきてもらいたいわけ」
「……うん」
「あくまでも君が良いっていうなら、の話だけど」
そう言って、彼女はまっすぐこちらを見つめてきた。
実家に行くかどうか以上の意味を持っていることは、流石の自分でもわかる。
「実家に帰るとして、だよ?」
「うん」
「親になんていうの?」
「あーどうしようかなー」
その時に考えて答えるかな、と彼女は口にした。
「ていうか、それはまた後ですり合わせればいいじゃん」
「まあそうだけど」
実家に行くときにちょっと作戦会議をすれば大丈夫だろう。
「で、君的には私が実家に行くのってどうなの?」
再び話を元に戻された。
「全然問題ないけど」
「いや、問題ないとかじゃなくって」
良いか悪いかって話、と彼女。
「もちろん良いよ」
「……そっか」
まあ前にも聞いたけど、と呟いて彼女は視線を外す。
「……それなら8月14日に君の実家に行くってことでいい?」
「そうだね」
「じゃあまた詳しい話は連絡して」
「オッケー」
変な空気になる前に、彼女はそそくさと部屋を後にした。
彼女が出て行って1分くらいした後、音を立てないようにゆっくり鍵を締めた。




