第44話 君ってこの会社の回し者なの?
「めっちゃ暑かったね」
「だね」
家に帰ってエアコンをつける。
「ごめん、シャワー借りても良い?」
「もちろん」
そう答えると、彼女はすぐに浴室に向かった。
「よいっしょ……」
ソファを少し右にずらしてエアコンが直接当たる位置に座る。
しばらくはSNSを見て時間を潰した。
数十分後。
「ありがとう」
さっぱりした、と口にして彼女はリビングに戻ってきた。
「君も入る?」
「まあ後ででいいかな」
そこまで汗かかなかったし。
「ていうかさ、この部屋ちょっと寒すぎじゃない?」
「そうかな」
シャワー浴びた後だからかもだけど、かなり寒いよ、と彼女。
自分にとっては適温だったので、妥協で0.5度温度を上げた。
「そうだ、冷たい飲み物とかどう?」
「あるの?」
とっておきのがあるよ、と応えてキッチンに入る。
「流石に今からアルコールは無理だよ?」
「普通に炭酸だから大丈夫」
ならいいけど、と呟いて彼女はソファに座った。
冷蔵庫から炭酸飲料を、そして冷凍庫からは最近買ったアイスキューブを取り出した。
ケースの中に入っていたトングでキューブを掴んでコップの中に入れる。
カラン、と少し大きめの音が鳴った。
「なにそれ?」
「アイスキューブってヤツ知らない?」
知ってるけど、実物は初めて見た、と彼女。
興味があるのかキッチンまで来た。
「めっちゃおしゃれじゃない?」
「うん」
まだ飲み物を入れていない状態だったが、アイスキューブが入っているだけでおいしそうな雰囲気が出ていた。
「ていうか、アイスキューブがとっておきだからね」
「あ、飲み物は普通のヤツなんだ」
そうだよ、と応えてどこにでもある炭酸飲料を注いで彼女に渡す。
「これってステンレス製?」
「うん」
「口当たりとかどうなんだろ」
「そんなに違和感なかったけどね」
少なくとも自分が使ったときは、そこまで気にしなかった。
ソファに戻って話を続ける。
「ほら、タンブラーってあるじゃん」
「あるね」
「私も興味があったから買ったんだよ」
しかしステンレス製だからか口当たりが悪く、一回使ったきりになってしまったみたいだ。
「でもステンレス製じゃないタンブラーもあるよね」
コレとか、とネットショッピングサイトを開いて彼女に見せる。
「ステンレス製とは違って口当たりが良いです、みたいなレビュー結構あるよ」
「なに、君ってこの会社の回し者なの?」
「まさか」
冷たい飲み物を飲むために色々調べる中で、アイスキューブとタンブラーを知って、アイスキューブの方がかっこよかったからそっちを買ったのだ。
「タンブラーって何がすごいんだっけ?」
「水滴がつかないってところかな」
今だとこのコップみたいに水滴がつくけど、タンブラーならそんなことにならないんだよ、と補足する彼女。
「一回しか使ってないわりには流暢な説明だね」
もしかしてタンブラー会社の回し者だったりする? と尋ねてみる。
「そんなわけないでしょ」
そう応えてから彼女はアイスキューブ入りの炭酸飲料に口を付けた。




