第39話 ただ思ったこと話してるだけだから
「ねぇ」
「ん、なに……?」
彼女に肩を叩いて起こされた。
「今から散歩行かない?」
「え、今から?」
スマホを開いて時間を確認する。
現在時刻は午前4時。
夜と朝の中間くらいの時間帯だ。
「目覚めちゃったからさ」
嫌だったら私ひとりで行くけど、と付け加える。
会話をする中で目が覚めてきたので、一緒に行くことにした。
簡単に準備を済ませて家から出る。
「まだ全然暗いね」
「だね」
車のいない道路を歩き続ける。
外気に触れるにつれ、少しずつ頭が回り始めた。
「なに、最近散歩とかしてるの?」
「してないよ」
「じゃあなんでこの時間帯に散歩しようって思ったわけ?」
「せっかく散歩してるんだからさ、この静かな雰囲気を楽しもうよ」
真顔で言われてしまったので彼女の後を静かに追う。
しばらくしてから彼女が口を開いた。
「前からこの時間帯に散歩したいなって思ってたんだけどね?」
「うん」
話始めたので、彼女の隣に並ぶ。
「でも一人で歩くのは怖いなって」
「なるほどね」
それで今回散歩に誘ったらしい。
空を見上げると、まだ星がいくつか残っていた。
「そういえば朝方と夜型ってあるじゃん」
「あるね」
「君って間違いなく夜型でしょ?」
「うん」
子どもの頃から、早起きすることが苦手だった。
だから授業中に寝ることが多かったので、先生に注意された記憶がある。
「でも私、がっつり朝方なのね」
「あーそのイメージあるかも」
泊まりのとき、彼女はかなり早い時間帯に起きる。
リビングから漏れる光と物音で目が覚めることもしばしばだ。
「……」
「え、話の続きは?」
彼女の方に視線を向けて尋ねる。
いきなり話が途切れたのでびっくりした。
「いや、別にオチとかないけど」
ただ思ったこと話してるだけだから、と彼女。
再び黙って歩き続ける。
「そういえば目的地とかってあるの?」
「ないよ」
「帰る時間帯は?」
「全然決めてない」
そろそろ折り返そうかなとは思ってるけど、と彼女は呟いた。
「じゃあそろそろ折り返そうか」
「うん」
そう言いながらしばらく歩き続ける。
「え、折り返さないの?」
「いや折り返すけど」
しかし彼女は前に進む。
自分が立ち止まると、彼女もやっと止まってくれた。
「なんで折り返さなかったの?」
「君が折り返すタイミングで折り返そうかなって」
元来た道を戻る。
「やっぱ目的地とか決めてないと、何となく折り返しにくいね」
「そうかも」
相手が立ち止まるまで自分も歩き続けてしまう。
どっちとも同じことを考えているから、いつまでも歩き続けてしまったのだろう。
「まあ散歩で目的地決めるとその場所に行くことが目的になって、散歩が楽しめなくなりそうだけどね」
「なに、君ってもしかして散歩マスター?」
急に哲学的なこと言うじゃん、と彼女。
散歩にも哲学ってあるのかな?
「朝ごはんどうする?」
「あるものでいいかな」
「冷蔵庫に入ってるの覚えてる?」
「全く」
「自分の家の冷蔵庫なのに?」
基本的に常温で保存できるものしか食べないから、冷蔵庫の中身はよく覚えていない。
「じゃあコンビニで何か買ってから帰ろうか」
「それはいいね」
そう応える頃には、朝焼けで空が赤く染まっていた。
「なんで朝焼けって言うか知ってる?」
「知らない」
君は知ってるの? と聞き返される。
「いや、知らないけど」
「じゃあなんで聞いたの?」
「知ってたら教えてもらおうかなって」
まあ焼けるってことは赤いって意味で朝焼けなんでしょ、と彼女。
そんなくだらない会話をときおりしながらコンビニに向かった。




