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第27話 言わないほうがお互いにとっていいと思うわけ

「ちゃんと従業員に挨拶するんだね」

「一応ね」


ドラッグストアの従業員に「いらっしゃいませ」と言われたので、会釈して「こんにちは」と呟いた。


ただそれだけ。


「それっていつもしてるの?」

「気づいたときはって感じかな」


ワイヤレスイヤフォンを付けているときは、気づかないこともあるはず。


「挨拶を返してくれるってめっちゃ嬉しいよ」

「そうなんだ」


彼女はドラッグストアでアルバイトをしていたことがある。

だから、色々思うところがあるのだろう。


「言ってみればアレだね、心を持たないロボットが涙を流す、みたいな」

「『こんにちは』だけで涙?」


それくらい、返事を返してもらえることは稀だという。


「だからさっきのアルバイトは生理用品あたりのコーナーに行きたいって思ってるだろうね」

「なにそのニッチな例え」


お客さんが滞在しにくいらしい。



買い物を済ませて外に出た。



「あーあ、私もちゃんと挨拶されたかったな」

「バイトの頃に、ってこと?」

「うん」


今更な問題ではあるけど。


「ていうか君、私がバイトしてたときにあのドラッグストア使ってた?」


彼女は場所を説明する。

アパートから右に行って300メートルくらい先の店だった。


「かなり頻繁に使ってたよ」

「でも私、挨拶されたこと一回もなかったんだけど」


そんなこと言われても困る。


まあ、と言って彼女は続ける。


「同じ時間に店内にいても、全然分からないだろうし」


別にいいんだけど、と呟いた。



「そういえば時給いくらだった?」

「え、興味ある?」

「あるある」


めちゃくちゃ興味があるというわけではないけど、それなりにって感じ。


「でもさ、こういうのって自分より高い時給もらってたらイラっとしない?」

「ちょっとするかも」

「だよね」


私もそうだから、と呟いて続ける。


「言わないほうがお互いにとっていいと思うわけ」

「なんか恋愛っぽいね」

「だね」


こんな下世話な話で感じるとは思わなかった。


「だから、あえて言わないでおこうかな」

「そうしよう」


彼女も自分もイヤな気持ちにならないのであれば、そっちの方が良い。


そこでこの話題を終えた。

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