第12話 私との電話、マルチタスクにしないで欲しいんだけど
「もしもし、聞こえてる?」
「聞こえてるよ」
電話越しに返事をする。
時間帯は夜。
事前に『今日の夜、電話できる?』と聞かれていた。
こういうことが週に何回かある。
そして90分以上話すことが多い。
「今日は何してたの?」
「そうだね・・・」
今日の出来事を話した。
さっきから気になってたんだけどさ、と言って彼女は続ける。
「何かしながら電話とかしてないよね?」
「・・・してないよ?」
「なんか間があったけど」
本当にしていない? と繰り返し尋ねられた。
「ごめん、ちょっと片付けしてた」
「この時間に?」
今23時だけど、と付け加える。
「なんか声だけだと落ち着かないんだよね」
「どういうこと?」
いつもワイヤレスイヤホンつけながら歩いてると、それを付けないで外に出るのがソワソワする感じ、と説明した。
言ってることはなんとなく分かるけどさ、といって彼女は続ける。
「私との電話、マルチタスクにしないで欲しいんだけど」
「今はしてないよ」
「でもさっきはしてたわけじゃん」
それは正しい。
「私との電話ってつまらない?」
「そんなことないよ」
声だけって言うのが良くないのかも、と応える。
「うーん、でもこの状態でカメラつけるのはイヤだしな」
彼女は考え始めた。
目覚まし時計の針が動くのを眺めて時間を潰す。
「寝落ち通話とかしてみる?」
「寝落ち通話?」
やったことないから何ともいえない。
「どういう感じでするの?」
「普通に寝る姿勢になって電話を繋げて話すってだけ」
「え、いつまで?」
寝落ち通話なんだから寝落ちするまででしょ、と彼女。
それもそうか。
「最近、寝るときはゲーム実況見ながらじゃないと寝れないんだけど」
「誰?」
ミューっていうゲーム実況者、と応える
「その人のゲーム実況を毎日聞いて寝てる感じ?」
「そうだね」
へぇ、と彼女は呟いた。
「でもとりあえず、今日は私だから」
寝落ち通話するからベッドに入って、と言われたのでベッドに入る。
「・・・話すことなくない?」
「なら私のこと褒めて」
考えようとすると眠気冷めるんだけど。
はやく、と急かされる。
「人を良く見てるなって」
「どういうこと?」
「・・・人を良く見てるなって」
繰り返してるだけじゃん、と呟く。
「いつも頑張ってて偉い」
「なんか全肯定してくるASMR聞いてる気分なんだけど」
「そんなのあるの?」
「・・・あ」
しばらくの間沈黙が生まれた。
「それってどんな時に聞くの?」
「あー・・・」
ごめん、と彼女が言った瞬間に電話が切れた。
すぐに『今の話、全部忘れて』と送られてきた。
彼女から電話を切られることは珍しいことだったので、動画サイトで『ASMR 褒める 女性向け』と検索して動画をいくつか見てみた。
この動画のリンクとか送ったらもっと恥ずかしがりそうだな、と思ったけど、それは直接会ったときに言おうと思い、動画サイトでミューのゲーム実況動画を開いた。
特別なあなたへ。
ご覧いただきありがとうございます。
リアクションや感想、本当に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
夏野恵




