モッツアレラチーズたーっぷりピザ
その日の夜遅く。
「大変だ!魔物に襲われたパーティが、助けを求めている」
料理人の1人が、厨房へ飛び込んできて告げた。
部屋へ戻ってくつろごうとしていた私とアイリーだけれど、お屋敷の入り口へと急いだ。
額から血を流し、うめいている剣士らしき男に、メイドがタオルを渡している。
汚れた長いローブに身を包んだ女は、剣士に回復魔法を詠唱しかけて……
「これ以上は、やめておきなさい。貴方は十分頑張ったわ」
と、リネンさんに止められ、目をうるませていた。
リネンさんにも、魔法の力があるのかな?
少なくとも、人を見る目はかなりのものだと思う。
別のメイドが持ってきた回復薬らしきものを使ったところ、剣士の額にあった傷が少しは癒えたのか、表情がやわらいだ。
他にも、うずくまって傷のある足を抱える者など、数名いるようだ。
1人だけ、パーティから少し離れたところに佇む、杖を手にした男。
落ち着きようからして、リーダーだろうか。
足元に、犬がいる。ミニチュアシュナウザーそっくりだ。
おじいさんみたいな眉と、ヒゲをたくわえた顔で、少しガンコそう。
彼の使い魔、なのだろうか。
カイ様の声がして、見るとテキパキと執事たちに指示を出している。
今日も麗しいな、なんてつい考えてしまった。
水を運ぶよう言われて、手伝いに入った。さらに、温かい食事も提供するようだ。
支度を整えるため、厨房へ戻る。
「チッ、今ごろベッドの中だったってのに。人づかい荒いよな!」
とアイリーが毒づいたので、私も一応はうなづいておいた。
そこで、石窯から煙がでていないことに目ざとく気づいたアイリー。
「ああー、誰だよ!管理してたの。消えてるじゃん、火が」
「そうなの?」
私ものぞき込んで確認した。これじゃあ、ピザが焼けない。
見回すと、赤みのさした顔でパン生地をこねる、ブルノさんの姿が。
美味しいパンが食べられるようになって以来、彼はスープとパン生地を兼任している。
あ、ピザも新メニューとして試作を重ね、そろそろお出しできるレベルになっている。
チーズなし版もやってみて、好評だったんだけど、やっぱり物足りなかった。
ふと思いつき、農園管理官の女性に、牛さんの具合はどうかと確認してみた。
「ミルダの調子が、ずいぶん良くなってね!」
とウキウキで言われたので、試作に必要とお願いすると、けっこうな量のミルクを持たされた。
ただし、交換条件よろしく、
「毎日、いーや、1日3回だ。よーしよし、しに来ておくれよね!」
としっかり約束を取り付けられてしまったけど。ほんとうに、抜け目のない人だ。
これでいいのか、私は獣医ではないんだけど……。
さらに、リネンさんから許可を得て、お屋敷の図書室でレンネットをつくる方法を調べ、モッツアレラチーズを作った。
本は古そうだったけど、ページがとても綺麗なことに気づき、リネンさんに確認してみた。
すると、文字が読めるのはお屋敷の管理をしている一部の人だけとのこと。
そういえば、この世界の文字が読めて、幸運だったなと思う。
レンネットの素材に欠かせない、アザミ(に似た)花のありかは、アイリーが知っていて、とても助かった。
はじめて作ったモッツアレラチーズ、けっこういい出来だったな。
試作の『チーズたーっぷりピザ』を食べた日は、料理人全員がルンルンで作業した。
そのためか、料理が美味しかったという理由で、ご褒美のコインを執事のリッドさんから頂いた。
しかも全員に行き渡ったから、厨房はさらにご機嫌ムードに。
……カイさまって、もしかしてグルメなの?あんなに喜ぶなんて。
いやいや、きっと何か深いお考えがあるのよ。うん。
「なあ、やってみようぜ」
と、アイリーに肩をつつかれた。
「何を?」
「火だよ、ナガメの火魔法!起こしてたら、時間がかかるし」
「ああー、でもいいのかな」
「誰も見てないって!」
そうだ。このままだと、無言でパン生地を手にして怒る、ブルノさんのイメージが見える。
石窯の管理を任されていた料理人は、あとで探し出そう。多分、見習いの誰かだ。
心の中で、パチパチと楽しげにはじける小さな炎をイメージしてから、人差し指でクルクルと宙に描き、石窯の奥に向けて放った。
1度目で見事に炎が燃え上がり、アイリーが手を叩いた。
便利って、こういうことね。確かに便利だ。
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