魔法使いザリウス、使い魔フェルナ
急ごしらえだったけれど、温かい食事を取ったパーティメンバーの表情は、だいぶ明るくなった。
皆の様子に安心したのか、魔法使いの男がこちらへ来て、口を開いた。
「俺たちは、旅の途中で何度も思わぬ強敵に襲われ、やっとのことで逃げてきました。助けて下さった上に、こうして受け入れてくれて、感謝しています」
自己紹介によると、男はザリウスというらしい。
話によると、領地の巡回中、知らせをうけたカイ様も駆けつけ、応戦したようだ。
カイ様は本当に、困った人を見捨てない。自ら赴く行動力も相当なものだ。ただでさえ多忙なのに。
すかさず、執事のリッドさんが応えた。
「気になさらないで、大変でしたね。
ところで、魔物はどんな様子でしたか?」
「お恥ずかしい話、全員が逃げ切ることに精いっぱいで。……ただ、大きな黒い羽のある、人型の魔物でした」
「奴ら、空から襲ってきた!不意打ちだったんだ。ザリウスが大魔法を使わなかったら、全滅してたよ」
偵察役らしい女が、憎らしそうな顔で口をはさんだ。
こんな時だけど、大魔法というワードにすごく興味をひかれた。やっぱり、スケールが大きい、派手な魔法なのかな。すごく見てみたい。……今は不謹慎か。
「運が、よかったのです。ヤツの闇属性との相性がよかった。いち早く、フェルナも知らせてくれましたし。何より、カイ様が駆けつけてくださったことが大きいです。あのまま深追いされていたら、今ごろは……」
フェルナというのは、いまも足元にくっついている、犬のことのようだ。ザリウスさんは、急に黙り込んでしまった。
「闇属性……そうですか。貴重な情報、ありがとうございます」
リッドさんの表情が険しい。
と、ザリウスさんが、急にその場で倒れこんだ。
「……!」「ザリウス、大丈夫!?」
すぐに仲間が駆け寄り、介抱している。
フェルナもくるくると近くを歩き回り、不安そうに鳴く。
「気にしないで、大魔法の副作用みたいなものです」
と、白魔法使いの女が言う。ザリウスさんは、ベッドのある部屋へ連れていかれた。
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私は厨房へ戻り、即席で鹿(っぽい動物の)お肉でジャーキーを作った。そして、お手柄だったというフェルナに差し出す。
「フェルナ、お腹空いてなーい?」
「ウォン、ウォン!」
しっぽを振りながら、嬉しそうに食べてくれる。こうして見ていると、可愛いワンちゃんという感じ。
「あっ、可愛いなぁ!」
アイリーも駆けつけ、フェルナが食べ終わるのを見計らって、背中のあたりをなでなでしていた。犬が珍しいのか、メイドさんも何人か近くへきたので、手招きをする。
「わぁ、いい子だね!」
代わる代わる、ジャーキーを少しずつあげていた。
「あのぉ、この、ジャーキー?どうやって作るんでしょう」
おずおずと聞いてきたので
「これは、フライパンでできるよ!お肉を細長く切って、乾燥するまで焼くの。ワンちゃん用は、お塩なしでいいんだ」
と、簡単にコメントした。アイリーがそわそわしている。自分用を作ってみたくて仕方ないんだろう。
しばらく後。別室で食事を取ったらしいザリウスさんが、戻ってきてこんなことを言い出した。
「先ほどは、驚かせてすみません。……お恥ずかしいです。とても、美味しいお食事でした。おかげで生き返ったようだ!特にあの、パンにとろーりとした白い……」
「チーズののった、ピザでしょうか?おほめに預かり、光栄です」
ズイッと前に進み出る料理長ルーヴァン。得意げな顔をしている。
本当にお調子者なんだから。憎めないけど。
それから、執事リッドはザリウスと話し込んでいるようだった。
お皿を洗いながら聞き耳をたてていたところ、ザリウスのパーティ一同は、しばらくこのお屋敷に滞在するようだ。
これも、カイ様の計らいなんだと思うと、ますます信頼感が高まる。
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「ううっ……」
お皿を片付けていると、かすかにすすり泣きが聞こえてくる。何だろう?
声のする方へ行ってみると、貯蔵庫だ。そこには、ひょろっとした男の子がいた。私が声をかけようとすると
「ごめんなさい!僕……窯の火を見てなくって。居眠りしてて」
なるほど。この子が火を絶やしちゃったらしい。もう夜も遅いし、疲れていたんだろう。ムリもない。
私は、ニッコリと笑顔を作った。
「いいんだよ。誰でも失敗はするの。もちろん私も」
「お姉さんも……?」
「そうだよ。そうやって、少しずつ上手くなっていくんだから。次からは、気を付けようね」
お姉さん、という言葉が乾きぎみな心にちょっとしみた。
しばらくの間、鼻をすする男の子のそばにしゃがんで、おしゃべりした。
「思いついちゃったんだけど……時間がある時に火をおこす練習をするのはどう?」
「えっ、ボクにはまだ任せてもらえません。危ないって」
「できると思うなあ」
「……やってみたいです」
「うんうん。ルーヴァンさんに聞いてみるね」
男の子は次第にスッキリとした顔になると、何度か頭を下げてから戻っていった。
うーん、少し疲れた。
お皿洗いの途中、ボーッとしていたらカップを落としてしまった。ガシャーン!とハデな音が響く。近くにいたブルノさんに、ギロリとにらまれた。おっと、気を付けよう。
さっきの男の子もまだいたようで、私がカップを落とすのをバッチリみられた。大きな目をパチパチとさせている。
「何やってんだよ!」
駆け寄ってきたアイリーが、苦笑しつつ箒を渡してくれた。
私は箒でその場を手早く掃いて、破片をかき集める。頭をかいてから、再び洗い物に集中した。
翌日。朝イチで料理長のところへ、火おこしの件を話にいった。ルーヴァンさんはしばらく考えている風だったけど
「ナガメ、貴方がちゃんとついていてあげるなら。それと、他の子にも同じことをしてあげてください」
と言われた。早速、今日から教えよう。すぐに知らせに行く。先に厨房にきていた男の子は、私の話を聞くと笑顔を見せた。他の火おこしできない子も加わり、ちょっとしたイベントっぽくなった。
黒く硬い石に、火打ち石を打ち付けて、火口になる麻の繊維に、火花を飛ばす。アイリーも、途中参加で手伝ってくれた。
赤くなった火口に息を吹きかけていき、パッと火が燃え上がると、ワッと歓声が沸いた。
いつの間にかやってきていたルーヴァンさんが、料理人を集めて言う。
「慣れていない子の火おこしは、忙しくない時だけです。それと、経験のある者が手伝うか、見守るように。もし、万が一何かあった時は……」
そこでルーヴァンさんはためた。
皆が静かに息をのむのが分かる。
「全力で、火を消すことっ!その場にいる、全員で!」
うーん、さすが。ただ、ルーヴァンさんが張り切ってお手本を示そうと、近くの桶の水をバシャアァァン!とぶちまけた。おかげで、お昼まで拭き掃除に泣かされた。
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