歌の女神ミュリスティアと、火の魔法
らんらら~~、ふっふふ~~。
どこか調子はずれな歌声?で、ナガメは目を覚ました。
夢の続きだろうか?
まだぼんやりとした頭で、キョロキョロとあたりを見回す。
ちょっと間の抜けた歌だけど、声はとってもキレイだ。
ん……?この声。聞き覚えが、ある。
「あの!!」
思わず声に出してしまい、口をおさえる。
幸い、アイリーは早起きして厨房に行ったようで、聞かれなかった。
『へ?えーっと……』
と、クリアな声がさらに大きく響いた。
声の主、相当慌てているようだ。
上の方から、光の粒が降るようにおりてくる声。
『コホン。あー、もしかして、私の歌、聞えちゃってます?』
「はい!すっごく、綺麗な声ですね」
『そう?エッヘぇ。嬉しい!……でもでも、こんなはずじゃなかったのよ。ハッ、音量、間違えちゃってるっ?さ……さっきの歌はナシだよ!ね!?ちょっとした発声練習』
音量を間違えた?どういうことだろう。
「あの……。貴方は誰ですか?どこにいます?」
疑問をおさえられなくて、聞いてしまった。
『はーい、私ね、ミュリスティアっていうの』
「ミュリ、スティアさんですか」
『この世界の、神様的なソンザイなのです!歌の』
「な、なるほど」
『実を言うと、ナガメちゃんのこと見ていたの』
「え……」
何でだろう、すっごく嬉しい。顔がニヤけてしまう。
『いつも、この世界の沢山の人たちのこと、見てるんだけどね。
転生してきた人のことは、とても注目!しているから。
ナガメちゃんはすごいよねー!
イティをあんなに美味しくって綺麗なルチェにしちゃった。それに、小麦畑とお野菜と』
「……?はぁ」
何のことだか、さっぱりだ。
けれど、褒められてることは分かる。やっぱり嬉しい。
『あ、ルチェって、果物のことだよ。
それはそうと……気づかれちゃったついでに、これど~ぞ!』
ほわほわわ~~~ん!
一瞬、まばゆい光と吹き上げるオレンジ色の風に、身体を包まれた。
「えっ、え……?」
ワケが分からない。
『あ、ソレね。魔法だよ!火の魔法♪それに、オマケも』
火の魔法!?私は魔力を授かったの?驚いて言葉が出ない私の心を読んだかのように、ミュリスティアは続けた。
『火の素養があったから、ちょっぴり仕上げをしただけなんだけどねっ』
と言いつつ、声の感じがどこか得意げだ。
『これで、ナイショにしておいてくれる……よね?』
「え、さっきの歌のことをですか?」
『う、うん。……コホン、早速だけど、試してみようか』
いま、話をそらしたよね?
そんなに、気にすることなんだ。
「やってみたいです。どうすればいいですか?」
『えー、まずは、心の中で炎をイメージしまーす。
そして、人差し指を上に向けて、クルクル、ひょーいだよ!』
この人……いや、女神サマは多分、感覚型の天才なんだろう。
「で、できたぁ!」
人通りのない、お屋敷の裏庭。私は思わず歓声をあげた。
ミュリスティアの言った通り、クルクル、ひょーいをやってみたのだ。
オレンジの丸い炎がパチパチと火花を散らし、空中をただよって、消えた。煙の残り香が、鼻をくすぐる。
『上手い、上手ーい!すっごく綺麗!いい炎ね』
ミュリスティアにおだてられ、というかあおられ?
何度か炎を出してみる。
そして分かったけれど、熱い感覚はまったくない。
ただ、ちょっと疲れてきて、地面に向けて放出したら、草が勢いよく燃えあがった。
地面までブスブス!と音を立てて焦げ付く。
慌てて近くの桶の水をバシャン、とかける。
自分にも少し水がかかった。
冷静になった頭にこんな考えが浮かぶ。
……魔法って、こんな軽く習得できちゃっていいの?
子どものころから毎日修行。
それに、杖とか、最低でも木の棒とか、いるんじゃ……
「あーーっ!こんなところにいた」
大きな声。アイリーだ。
私がいつもの時間になっても厨房にいないので、探しに来てくれたらしい。
「お、もしかして魔法の鍛錬……か?」
珍しいのか、覗き込んでくる。
「使えるなら言えよ、何かと便利だからさ」
アイリーの言う『便利』って、何のことだろう。
深くは考えないようにしよ。
「うん、さっき使えるようになったの」
「へぇ~、って、冗談だろ。血筋が絶対で、10年は修行がフツー……」
あ、やっぱそうなんだ、と思っていると。
『ワタシのおかげ、なのです』
「……ん?いまの声は??」
不審そうに顔をしかめるアイリー。
ミュリスティアは、スラスラと自己紹介している。
ものすごく慌てるだろう、と思ったアイリー。
わりとあっさり受け入れている。
「ふーん。いい声してるなー。ミュリさまって呼んでいい?
あと……わ、私にも何かない……ですか!?」
おお、アイリーにしては奇跡的に、敬語使えてる。
でもでも、そんな飲み物の注文みたいには……
『ミュリって呼んでいいよ。お近づきのしるしに、はい!』
いいんだ!?もらえちゃうんだ。
『あ、といってもちょっとだけ。
小刀のスキル、威力の調整と、命中率をあげておきましたよ』
「おおー、どうも……」
アイリーなりに、女神のオーラを感じているのか、反応が控えめだ。
すぐに、近くの的に向かって、全力で小刀を投げ始める。
「うっひょーー!めっちゃ当たるー!さすがミュリさま」
アイリーにそんな特技があったなんて。
くノ一みたいで、カッコいい。
……ただ、悪用はしないことを願う。
『エッヘヘぇ♪その調子で、どんどん頑張ってね。
あっ、そろそろ歌いに行く時間。またね♪』
軽めのノリとともに、ミュリスティアの声は消えた。
歌かぁ、すっごく聞いてみたい。
だって、あの声とそっくりだから。
……でも、誰の声だったか、思い出せない。
気になるといえば、オマケの能力って何だったんだろう。
火の魔法がすごすぎて、聞くのを忘れた。
ただ……イティのことを知っていたし、実りにも関係している気がする。
歌にそういう力があるとしたら、自然なことだ。
「あーーーー!もう昼食の時間」
アイリーが叫んだのを合図に、我に返る。厨房へ競うように走った。
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