小麦畑、メイド達のお茶会
「今日はのんびりだなー」
アイリーが椅子にもたれ、足をブラブラさせて言う。
「うん、王国任務でいらっしゃらないんだよね、カイ様」
厨房の窓から見える景色は、日が高い時間だというのに薄曇り。
あの日みたいに、まぶしい太陽を見上げたい。
とか思っているところへ、2人が息を切らせて駆け込んできた。
確か、農園の管理をしている人だ。
「料理長はどこだい?」
料理長、部屋でグー、ガー、グーと大いびきで昼寝中……。
100%機嫌が悪くなるから、なるべく起こしたくない。
「いねぇよ。アタシでよければ、聞いておくけど?」
と、アイリー。いつもながら反応が素早い。
「む……そ、それが……」
男性が口ごもる。と、隣にいた女性のほうが、すっとんきょうな声をあげた。
「あ、アンタ、確か……ナガァメ!」
「ナガメです」
きっぱりめに言ったけど、スルーされた。
「ちょい、こっちきてくれよ」
隣の男性が、困惑した顔で女性の袖を引っ張るが。
「なーに、みりゃあ誰にでも分かっちまうことだから。話も早いし」
ここは大人しくついていくことにした。
アイリーも好奇心なのか、一緒に来てくれるらしい。
「おおおー!」
アイリーと2人でハモった。
何ということか、一面にゆれる小麦色。広大な農地に、小麦が実っていたのだ。
周囲にも、青々とした野菜が実っている。
「わあ、豊作ですね!お世話が良かったんでし……」
と言いかけたのを、さえぎられた。
「そーんなわけあるかいって!植えて、たったの5日なんだよ!
水や肥料だって、たいしてやってないし」
と、ブンブン手を振りながら女性が言う。すると男性のほうは
「なぁ、やっぱりこれって……魔法」
「はぁ、それ以外にあり得ないもんねぇ、こんな奇跡」
とか言いながら、2人してジーッとこちらを見てくる。
ん?私?……あれ、アイリーはどこだろう。
見回すと、笑顔のアイリーが、トマトやズッキーニみたいな野菜を手にして、こちらへ手を振っている。
早速、獲っちゃったのね……。言い訳はもう考えてあるんだろうか。
農園管理官のほうを振り向くと、したり顔の女性がこんなことを言ってくる。
「ナガァメさん、私は知ってるんだよ。アンタなんだろ」
「……ナガメです」
「えーい、どっちでもいいんだよそんなことぁ。
この奇跡、アンタが起こしてるんだろ?」
「え?いいえ。そんな力、ないですよ」
「……いいや、それしか考えられないっ」
と、今度は男性のほうが言ってくる。
「頼むからさ、もっとやってくれ!」
「はぁ……?」
人の話を聞かない人たちだ。色々と違うって言ってるのに。
ルーヴァンといい、ここの人たちといい、押しの強さ選手権にでも出たらいい。
私が困っていると、しびれを切らしたっぽい女性にグイッと手を引かれた。
「ほら、こっちだよ!」
「えぇ?!」
連れていかれた先は、家畜小屋のようだ。
この、かぐわしいにおい。
田舎の香水という例えが頭をよぎる。
『ウモォ~~』
この声は、もしかして。あ、やっぱり牛。いや牛っぽい生き物、か。
全身、こげ茶色の牛が目の前にいた。
ただ、だいぶ痩せている。汚れてあちこち毛が固まっているし、毛づやもよくない。
「あら、汚れているね、元気なさそうだね……」
「そうなんだよ!もうずーっと、こうさ」
「さ、やってやって!」
……?何をだろう。
「ほら、こう、つんつんってさ」
「この子の名前は、ミルダだよ!」
……?つんつん?ミルダ?でも、その前に……。
急かしてくる管理官2人に、私は手を洗える場所を聞いた。
「手を、洗う?十分キレイな手だ。気にすることないよ!」
と言いながらも、教えてくれた水場で、私は手を洗う。
そして、とりあえずやってみた。このままじゃ、日が暮れても帰れなさそうだし。
「いい子だねー、ミルダ。よしよーし」
やらされてる感がハンパないけど。
「よっしゃ!」
ひとしきり私がなでると、なぜか飛び跳ねて盛り上がる2人。
私は洗い場へ行き、泥の色が移った手を、再び洗い、ポケットに入れていた布で拭いた。
「ちょっと、何してるんだい?また、手を洗ったのかい」
「そうですよ。洗わないんですか?畑の土や動物をさわったら、綺麗にするんですよ」
「へえ、ま、まあたまーには……」
管理官の女性が、何か感じ取ったようで目を泳がせる。
私は、温かい日や牛が少し元気なタイミングで、水をかけながら身体を洗い、綺麗な布で拭いてあげるよう、アドバイス……お願いをした。
2人は神妙に話を聞いてくれ、次に天気になった日に必ず、と言う。義理堅そうな人達だし、これなら大丈夫だろう。
「おっし、次はこっちだ!!」
…………!?
またしても先導され、仕方なくついていく。
そうやって、アヒルやニワトリのところへも行き、同じことを繰り返した。
というか、やらされた。
何羽もいたのでさすがに慣れてきて、というか投げやりになり、ちょっとだけ楽しんでしまった。
農園管理官の2人は、お礼もそこそこに、ニッコニコで戻っていった。
なんだったんだろう。
厨房へ戻ると、アイリーが獲れたての野菜を両手に抱えて食べている。
「うめ~ぞ。ナガメのもとっといた♪」
もう……。軽くにらんでおいた。でも、本当に美味しそうだ。
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同じ日。
「ねえねえ、このジャム、もう食べた?」
「ジャム?何それ……」
「ずいぶん美味しそうだけど、初めて見るわね」
メイド6人が、休憩室で賑やかに話している。
好奇心の塊という感じのメイド1人が、サッとスプーンですくい、食べた。
「わわ、何これ!甘酸っぱくて、すっごく美味しい」
続いて、他のメイドたちも次々にジャムを口に運んだ。
「あっま~~い!」
「これって、イティだよね?」
「似ているけど、こんなに美味しかった?」
「はいはい、私、もっと食べる!」
そこで、1人のメイドがニヤリと笑った。
「私はこうよ!」
テーブルに載っていたいれたて熱々のお茶に、ジャムをたっぷりとインしたのだ。
「ああー、それズルい!私もやる」
「ハッ……待って、もうひと瓶なくなってる?」
「あーーあ!」
6人で綺麗にハモった。
しばらくして、顔をあげた年長のメイドが言う。
「リネンさまに褒められて、またご褒美がもらえるように、お仕事頑張りましょう」
「そ、そうね……賛成」
「ジャムが食べられるなら私、もっと頑張る!」
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