嵐のあと
黒い影はまだ集まってくるけれど、早々に浄化し、手分けして非難させている。
柄に収めたままの小刀を両手に持ったアイリーが、後ろから黒い影をハグして、浄化させた。
「それいいね、アイリー」
「ふふん。誰かさんお得意の思い付きをやってみたんだ!」
「……締めすぎないであげてね~」
「どういう意味だよ!」
皆もそれぞれが死角から手をかざすとか、2~3人で連携して……など、工夫して対処しているみたい。
私の召喚したフライパンの力が皆にも宿り、こうして手分けをして沢山の人を正気にかえすことができている。こんなことができるなんて!不思議だけれど、嬉しい。
ほっこりしていたら、少し遠くにいたカイ様から声がかかった。
いつの間にか、中央付近へ移動している。
「ナガメさん、こちらへ。手を貸してください!!」
どういうことか、ひと目で分かる。カイ様が向き合っている黒い影は、何もかもが異質だった。
180㎝近くあるカイ様よりも大きい。しかもその影は、走っていた。
___いけない、油断していた。ここまで距離を詰められていたんだ。
しかも、攻撃的。誰かが近づこうとすると、すぐに察知して長い槍状のものを勢いよく振り回す。
「ウッ。またか!これじゃ全ッ然近づけねえ!」
「まったくだ。こいつ、人間か?魔物にも見える」
たまりかねたドワーフ族の男が不満をもらし、それに元Tさんも同調している。
今や、この場にいる味方のほぼ全員が、チラチラと視線を投げかけてきている。気になるよね、早くどうにかしないと!
急いで駆け寄ったものの、私も次の手を考えあぐねてしまう。
「わたくしが、おさえますのでそのスキに」
セラフィさんが声をかけてくださった。この場面でも冷静を失わないなんて、本当に頼りになる。一気に落ち着きが戻った。
幸いというか、影の動きは今やそう速くはない。
カタリーナさんによる専属の強化効果がついたカイ様の魔法がすでに対象の攻撃力を削いでいた。よくよく見ると、影の動きにはブレや無駄がある。
「……今です!」
抑えた声、でもしっかりと私の耳に届く。
「ルミナ・クレンズ!」
間髪を入れず、私は影の背後から銀のフライパンを振りかざした。
出力は大きめに。でも、影に直接は触れない線をねらう。
無念そうな、低いうなり声。
とともに、影は徐々に崩れおち、ついにはベタリと手足をついた。
同時に黒い影が消え、ひと回り小さくなったようにも見える。
現れたのは、全身が黒づくめの男だった。やっぱり背が高く、体格もいい。
……だいぶ痩せているようだけど。
「OK、もう大丈夫ですね」
「助かったよナガメさん。ありがとう」
律儀な言葉の数々。私は思わず笑顔になる。
「皆さんのお力があってこそです」
影をまとっていた大男は、白い装備の兵士にホールドされてテントへ……ところが。
「うわっ、おい待て」「ぐっ」
脇を固められていたハズが、振り切って逃げだされてしまったようだ。
大男の前に立ちはだかったのは、リオネル様だった。
「なっ、いけません……!」
周囲から、口々に声がかかる。緊迫した空気。
リオネル様は大男を真っ直ぐに見据えている。……それだけに思えた。
しかし、次の瞬間、大男がピタリと歩を止めた。
「リオネル様!」「王子!!」
すかさず、白装束の面々が割って入り、杖や武器を構える。
大男はもはや無抵抗にも見えるけれど、槍は手放していない。
殺気だった白装束の魔法使いが、ブツブツと詠唱を唱え、終えた。
「お願い、お願いです、待ってください!」
必死な呼びかけ。アイリーが息を切らして駆け寄ってきていた。
「ルク、ルク兄!!……そう、だよね?」
アイリーが、大男の手を取った。彼女の頬を、涙が伝う。
「……!」
危険、と判断した私はアイリーの腕をとっさに掴む。
炭酸の泡みたいな細かい光の粒が、空間に舞う。そして、スローモーションみたいに静止した。
大男は、しばらくの間うめきながら顔をしかめる。
でも、陰っていた目に少しだけ……光が戻った?
リオネル様が、白装束の面々に警戒を解くよう指示を出すのが聞こえる。
先ほどから、鑑定士の男の片目が青く光っていたから、多分その結果も踏まえてのことだ。
大男は今度こそ、テントへと向かった。アイリーがそばを離れないでいる。
あの気丈な彼女が、あの慌てよう。それに、泣くなんて……。
「あっ……もしかして、6年前の」
後ろ姿を見送っていて、ハッとした。
2度目の新月の後、アイリーが話してくれた生き別れの親友。あれは、彼のことかも。
そのあとも定期的に集まって、強化と浄化の効果をかけ直す。
目を合わせたり、お互いの声を聞くと勇気がわいてくる。
そうするうち、高い木々の間から一筋の光が差し込んできて、わあっと歓声が上がった。
ようやく、長い長い夜が明けた瞬間。
この光景をしっかり覚えておこう、と思った。
「ああ、あれはリオネル様にしかできないでしょうね。一言で表すと、ご威光を示されたのです」
私が聞きに行くと、セラフィさんが解説してくれた。
なるほど、リオネル様は小柄で華奢。だけれど、あの時のオーラには凄まじいものがあった。
相対する大男の人物をとっさに見極め、あの行動を取った。
あの場にいた全員が、リスクよりも周囲を気遣う勇気のある方、という認識を持っただろう。
より忠誠心を高めることになるといいな。
さて、今度は避難をして貰っている人たちの食事の支度をする番。
といっても大きなケガや病気の人々は、時空魔法などでいち早く搬送された。
留まっている人たちに、パンや焼き菓子、それに温かいスパイスティーは行き渡っている。
「こんな、美味しいパンが食べられるなんて……」
「生き返るみたいだ」
泣きながら、言葉を無くす人々。
お茶のカップの温もりを感じていたいのか、飲んだあと手放さない人も。
「あの、お身体にさわるといけないのでどうか少しずつ召し上がってください」
声を掛けつつ思う。うーん、やっぱり、もっと元気が出そうな温かいものを口にしてほしい。
「ああーどうしよう、食材が足りない。もっと持ってくればよかった。今から、ロヴェナクへ戻って調達する?」
「そうしましょうか。手に入る食材は限られそうですけど……」
王宮の料理人さんと話していると、おもむろにやってきたカイ様に手招きをされた。
「じつは知らせを受けたので、持ってきてある。フリクトンさんが協力してくれたんだ。確認してくれるかな」
アイテムボックスには、新鮮な野菜と果物。それに、丸々としたウッド・ターキの肉まであった。
「わあ、すごい。これなら美味しいスープが作れます!」
それからは、王宮から派遣された戦士兼料理人にも手伝ってもらい、お昼前にはたっぷり人数分の料理を仕上げることができた。
意外なことに、フリクトンさんも手伝ってくれた。アイリーが足しげく通って、いつの間にか料理を教えていたんだと思う。
「フリク?もともと器用だからな。ほとんど教えてないけど出来るようになってた」
と、アイリーは言っていた。
フリク、かぁ。並んで料理をする2人、何だかいい雰囲気だったけどな。
少しでも面白いと思って頂けたら、ぜひブックマークお願いします。
⇩にある『☆』タップで評価をもらうと励みになります。




