嵐の前の……
道中、2度目の休憩。開けた場所を探し当ててくれたのは、メルさんとフェルナだ。
王都でも一緒だったメイドさんのアイテムボックスからタープ風に張れる厚布や長机、イスを出し、セッティングしていく。
砂糖がけのナッツ、チーズと干したルチェに、干し肉。そしてハチミツ入りのビスケット。
街で調達した、スティック状にカットした野菜もある。
「携行食のレパートリー、作っておいてよかったね」
「ホント、苦戦しただけある」
こんな時だけど、私は遥か上空に向かうイメージで、そっと手を合わせた。
ここしばらくミュリからの反応がないけど……やっぱりないみたい。今は、気にしないようにしよう。
温かいお茶を注いだカップを並べていると、次々になじみの顔が訪れる。
「かたじけない、頂いていくよ……しかしこんなに。見事だ」
最初にカップに手を伸ばしたのは、マレオンさん。カイ様のご友人で、ここ最近は行商の護衛もしてくださっている。
今日は、王国任務に備えてフル装備。銀の甲冑を身に着け、背中側に大剣を携帯している。
甲冑の着用感は想像できないけど、温かくはなさそう。
「温か~い!助かる~」
「これは何?へえ、ナッツ?」
ザリウスさん、メルさんもやってきた。
ザリウスさんは黙々と砂糖がけのナッツを食べている。……一瞬だけリスにみえたくらい。
執事長セラフィさんは、魔石の管理をしてくださっているからか、一番後にやってきた。
「この老体でどれほどのお役に立てるか、分かりませんが……」
と謙遜しながら、そっと上品にカップを傾けていた。王都行きの時と同じく、リッドさんが執事長代理を務めるみたい。お2人の信頼関係が見て取れる。
ちょっと騒がしいのは元Tの皆さん達。交戦した当時が遠い昔に思えるほど、顔つきや雰囲気がやわらかい。お屋敷が支給した護衛服で、古傷が見えないからかもしれないけど。
「これは?チーズか?こっちは何だ」
「うおおお、どれも美味いッ……!!」
多めに並べたつもりだったけど、すんごい速さでキレイになくなった。
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翌日のお昼過ぎ、現地に到着した。
メルさんの報告を受けて、セラフィさんが
「この辺りにベル・テントを張りましょう」
と言う。厚手の帆布と木材でできていて、完成すると釣り鐘のような見た目で、何だか少しホッとする。中央部分で焚火もできるから、ただ温まるのにも、料理にも便利そう。
「ナガメ、こっちこっち」
アイリーに手招きされたので行くと、テント内にゲートがあり、くぐり抜けると別の空間に通じていた。
「うわぁ~、これは広いね。それに明るくて寛げそう」
「外のイヤな感じを忘れそうだよな」
足が、やわらかい青々とした芝を感じる。空が青く、日差しが眩しい。
こんこんと小川まで流れていて、まるで庭園みたいだ。足元には小さな白い花が可愛らしい。
背の高い木の根元辺りには、座り心地のよさそうなベンチやテーブルもある。
少し探索してみたけど、見えない壁があった。遠景の山は映像か何かかな?それでもだいぶ広いとは思う。
「けっこう希少な、王都でのみ作られる魔道具だって。王都が管理しているから、おいそれとは持ち出せないらしい」
「へえ、そうなんだ?でも……こんなに広い空間、何に使うんだろう?」
「んー、言われてみれば。ベル・テント3つあるし、4~5人用だから足りてる気はするよな」
2人で考察していたら、意外な人物に声をかけられた。
「ケーコ、アイリーさん」
「リオネル様……!どうしてこんなところに」
裾に銀糸の刺繍のあるローブに、革のロングブーツ。冒険者風の服装が何だか新鮮。
「僕も同じ、王国任務だよ。正式に派遣されてきた。なかなか希望が通らなくて、今になってしまったんだ。今晩がヤマになるけど宜しくね」
第一王子が、派遣されてきた?ずいぶんと思い切った選択だ。
リオネル様の話からして、進んで手をあげたようだし。
「ああ、今しがた向こうのテントで軽食を頂いたよ。とても美味しかった。アッポのジュースと、ジャムクッキーがとくに」
「それはよかったです」
「ナガメさん、この間の任務以来ですね」
あとからカタリーナさんも現れた。丈の長いローブを着けた冒険者風の装い。程よい緊張のためか、この間に増して輝いている感じがする。
重要な任務、しかも第一王子にお供しているところからも、彼女のチカラが相当に評価されていると分かる。
「カタリーナさん!お元気でしたか?……今回の任務、不安はありませんか?私、昨日はよく眠れなくて」
「お気遣い、感謝します。そうですね、正直なところ不安です」
「要請も、急でしたよね。女性には色々と身支度があると、訴え出ようかなって」
「あ、それはいいですね。私も訴えようかしら。この頃の不満をまとめて!」
意外にノリのいいカタリーナさんに、ほっこりした。
「……それでケーコ、ちょっとだけ耳を貸してもらえるかな」
リオネル様だ。いつからそばで聞かれていたのかちょっと不安になる。
「もちろんです」
耳元でささやかれ、私は驚きで目を見開いた。
「なに話してたんだ?」
「すぐわかるよ」
「え?教えろよ」
「はーい……」
私の話を聞いたアイリーは、そんなことが上手くいくのか?と頭をかしげていた。
戦斧持ちで、見るからに頑丈な革の装備を身に着けたドワーフ族や、S級冒険者でクロスボウの名手。腕の立つ王宮づき治癒魔法の使い手も、7名ほどが派遣されてきている。
心強さが一気に増した。……不安は消えないけど。
その日、『予行演習』のあとは、日暮れ前に王宮付きの料理人さんと私やアイリーが中心になり用意した温かいシチューの鍋を囲み、お屋敷で焼かれたパンを思うさま食べた。アイテムボックスにいれてきたからか、焼き立てのような香ばしさが嬉しい。
アイリーとドワーフさん、そして元Tの方で腕に覚えのある数人が的あての点数を競っている。
温かい白湯やスパイスのきいたミルダティーを飲みつつ、話が尽きなかった。
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「そろそろだね。それでは皆、行くよ」
リオネル様が促したのを合図に、私たちは移動した。
といっても、そう遠い場所ではない。数十メートルほど先の、開けた空間だ。
「えっ……!」
驚いて、思わず歩みを止めてしまった。
昼間のうちに何度か下見に来たときと、まるで違ったから。
上空は、漆黒の闇に覆われていて、中央部分を見ていると吸い込まれそうな気がしてくる。
___そして、地面。いや地面だった部分というべきか。
広範囲に切り取られたような円形の鏡面に、星々が映り込んでいる。瞬きを繰り返し、流れ星もあって神秘的。モノクロの霧がオーロラみたいにたなびいている。この光景、どこかで……?それにしても。
「綺麗……」
思わずつぶやいた、その時。
「魔物です!」
メルさんが報せてくれた。フェルナの鳴き声も聞こえる。敵の来る方向へ向かって吠えてくれているようだ。
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