2度目の新月
「ミュリさん、いますか……!」
空を仰いで、呼びかけてみる。明度の高い青空が綺麗。
『はいはーい?』
ダメかなと思ったころ、鳥のさえずりのように可憐な声が注がれた。
『見ていたよ、行商!うまくいったね。それに、新しい使用人さんたちを迎えたなんて、ホント素晴らしい』
「魔法と、アイアンスキルのおかげですよ。1番は仲間の活躍ですケド」
『あらあら、ナガメちゃんったらケンソンしちゃって!』
ミュリが元気そうで、ホッとしてる。
ザザッ……ザザ……
あれ、何の音?初めて聞く。
『ナガメちゃ 。ちょっと聞いてほしいの』
「あ、何でしょう」
『今から20日後、2度目の新月が来ます。だからね、闇が濃くな の。
ナガメちゃ 達ならきっと大丈夫!でも、気 け てね』
「新月……ですか。分かりました」
ミュリの声が途切れ途切れだ。こんなこと初めて。
もしかして、闇の影響……?
その夜はなかなか眠れなかった。
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ブラヴァートさんの行商に護衛として同行した街で、思わぬ人に会った。リオネル様だ。
「偶然だね、ケーコ!」
王都でお会いして以来だ。白いローブが似合う。……どこか吹っ切れたような感じもする。
ただ、相変わらずお供がほとんど見当たらないので少し心配になってしまう。
「リオネル様、ご機嫌いかがでしょうか。……こちらへはどのような目的で?」
「元気だよ。父の命で、市場を視察して回っているんだ。商品の売れ行きや不正がないか……ところで、せっかくだから一緒にお昼を食べない?」
「嬉しいです。ブラヴァートさんに美味しいお店を聞いてみましょうか」
「それはいいね」
店番を他の方にお願いして、同行した。
ブラヴァートさんも一緒に来ることになり、3人でテーブルにつく。
話題を振るのが上手なブラヴァートさんのおかげで、楽しいひと時を過ごす。
お酒に強いらしいリオネル様。何杯か空にしているけど、まだまだいけそうだ。
「お願いがあるんだけど。僕、店番をしてみたい」
急に、リオネル様が申し出て驚かされた。
ブラヴァートさんは少し考えていたけれど、ほとんど快諾だった。
リオネル様、意外にもお客様と接するのが上手い。それに、計算もお手の物。
お客様のほうも笑顔になり、帰っていく。
しかし、雑貨や衣類といった商品の取り扱いには大苦戦していたので、お手伝いをする。
「なるほど、こうするのか……今後はきちんと使用人を労うとしよう」
おお真面目に言うので、クスッとしてしまった。
リオネル様御一行は他の街へも行くらしく、翌日の朝には出発していった。
一緒に来ていたアイリーに話をしたら
「ナガメ……年下アリなの?」
とからかわれたから、そこはきっぱり否定しておいた。
年齢差もだけれど、王子様と自分では釣り合わないとさすがに分かる。
ところで行商の道中だけれど、初回と比べるとかなり楽になった。
盗賊に襲われる回数がグッと減ったし。それに、対処に慣れてきたからかな。
少なくとも、私の負担が減ったと思う。
「どうぞお助け下さい……!私たち、この荷物をさるお方のところへお運びしなければならないのです」
ブラヴァートさんの盗賊とのやり取りもテンプレ化してきて、どこか余裕を持って聞いていられる。
さるお方、というのは孤児院のブラザーやシスターでもあり、グリーントロ商会のマグナさんでもある。ぼやかせることで、柔軟に選択できる。
一応、アドバイスはさせて貰ったけど、採用したのはブラヴァートさんだ。
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「いいね、上手いよ。ああ、ポテはいま洗っただろ?これはまかない用だし、皮が綺麗なところは残したほうがうまい。ちょい貸して、やってみせるし」
アイリーが、新米たちの野菜の洗い方や包丁さばきを見て声をかけている。
私も可愛い声で呼ばれて、喜んで教えに向かう。
窓の外は、どんよりと灰色。ギフォが払いきれていない。
皆で魔力と願いを込めた、守護の魔石をもってしても。
2度目の新月。ミュリの言葉が思い出されて、小さく身震いした。
ひと仕事終え、それぞれのタイミングでまかないを食べたところだ。
新しく考えたラザニアも、ミートソースの味と幅広パスタ麺の組み合わせがよく、なかなか美味しかった。これなら定番入りできるかも。
数回目の行商から戻ったらしいブラヴァートさんからもリクエストが来ていて、ターキのハーブソテーとビーツ風の野菜でスープを作った。
ちょっと淡泊すぎる?と思っていたけど、綺麗に食べてくれて嬉しい。
その後。料理人がまばらになった厨房の片隅で、私は両手にフライパンを持ち、立っていた。息を吐いてから、2つを重ね合わせる。そして……
「お、おい、それは何をしてるんだ?」
アイリーに肩を叩かれた。
「フライパンの調子がおかしいとか?」
「ううん、そうじゃないよ。ちょっとね、思いついたの」
「またか、……それで?」
あることをやって見せる。思っていたより上手くいき、私も驚く。
アイリーはこれまでで1番、ウワーッと驚いた顔になった。
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深夜。
ギャ、ギャー、ガ、ギャーー!
低音の不気味な鳴き声と、生物が羽ばたく音で、目が覚めた。
立って行き、窓の外を見る。星一つない。月あかりもない。どこまでも漆黒がつづいている。
いつも通り、それなりにバタついて過ごして忘れていた。今夜は、2度目の新月だ。
あれから、執事長セラフィさんのところへ行き、話を聞いた。
セラフィさんが教えてくれたところによると、新月の夜は通常より2時間ほど長いらしい。
すべての魔法の制御が利かなくなり、あらゆる魔物たちが力を増す。
「いいですね、何があっても外に出ないように。特に、屋敷の外へは」
セラフィさんが柔らかさを排した態度で忠告してくださった。
ゴォーーーー! バシン!ドサ……!!
何かがぶち当たるような音がして思わず、身をすくめる。
窓の外で、赤い光がいくつもいくつもうごめいている感じ。
「起きてたんだ?アタシちょっと様子見に行くけど、ナガメはどうする?」
おもむろに、アイリーが話しかけてきた。
「え、どこに?」
「見習い料理人と、メイドたちだよ。絶対、怖がってる」
「分かった」
壁のフックにかけてあった緑色のローブを羽織り、ランタンを手にする。
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