元Tの皆さんとのご対面
アイリーに引っぱられるようにしてやってきた、屋敷の裏庭。
イヤイヤ散歩に駆り出される犬か、何かになった気分。
私は、ガラの悪……よくない人々と対面し、肝を冷やしていた。
んー、何て呼ぶべき?元盗賊だから、頭文字を取って元Tとか?
元ヤンみたいな感じで……?なんてことを考えていると。
「あ、アンタあの時の!」
「その細腕で、うちのボスを一撃で仕留めたってか!しびれるぜ」
「ハハ、どうも……」
……これって、褒めて……る?
「姉ちゃん!いや、お師匠!あの技教えろ……いや、教えてください」
「俺ら……いや、私たち改心したんだ。信じてくれ!」
胡散くさ…………いやいや、何だか可愛げが……ある気がしてきた。
お師匠って。まさか慕われてる?私が?イヤイヤイヤイヤ。
「ナガメさん」
振り返ると、カイ様がこちらへ来ていた。すごくホッとする。
「ナガメさんのいない間に、話が進んでしまって。……すまない」
‟この人たちまでやってくるとは、私にも予想外だったけどね” と、耳元でささやかれる。
「ハハハ……いえ、いいんです。私も、同意していたと思いますし」
私がそう言うと、カイ様は安心したのか慌ただしく戻っていった。
残された私は、元盗賊の皆さんの超キラキラな視線に晒され……じゃなく、浴びた。
そろそろおいとましたいな~、と思っていると。
「なあ、あのフライパンは鉄か?」
「俺も気になる!1回でいいから見せてくれ」
「1日何時間鍛錬したら、アンタみたいになれる?」
「好きな食いもんは?趣味は」
「出身は?俺、炭鉱町ガルド」
うーーーん。同時に10人の話を聞き分けられたっていう、聖徳太子サマになりたい。
「ナガメさん、少し宜しいですか?」
困っていると察してくれたらしく、執事のリッドさんが声をかけてくれて助かった。
それにしてもこの人たち、好奇心旺盛。質問力もある。
学習能力も、思うより高いんじゃないかって気がしてきた。
「俺、あんとき後ろから誰かに叩かれたおかげで目が覚めた。もう卑怯なことしねえ。娘に胸はって言える仕事をする!」
「ああ、2度とごめんだぜ。切り捨てられる人形にだけは戻らねえ」
「最近で一番、よく寝た!……しかも起きたら前と変わってたよな、俺ら」
あー……。ずいぶん盛り上がっていらっしゃる。
後ろから叩かれ……それって、私のしたことだけど。
フライパンの浄化のせい?闇属性や魔人だけでなく、人にまで効果が?
気づかれてないみたいだし、ここは黙ってよう。心の中で大汗かきつつ、ピュー!と口笛を吹いた。
それから数日。カイ様は、リッドさんの鑑定報告とセラフィー様の助言も受けつつ、やってきた人々を入念に審査していった。
私やアイリー、ザリウスさんにブラヴァートさんも時折呼ばれ、意見を聞かれる。
結果。今回はほとんど断らず、総勢20名近くを受け入れることになった。
年齢が低いか、体力のなさそうな子ども・女性はメイド見習いや、農地・飼育小屋での軽作業。
……メイドさんたち、見ちがえるように優しいし、忍耐力もついてきてるから大丈夫だろう。管理官の人たちも、押しが強いだけで優秀。面倒見もいいし。
元盗賊……元Tさんたちは農地管理や、屋敷の警備隊として雇われるようだ。
早速聞こえてきた話、口と態度は悪いし空回りぎみだけど、とても張り切っていらっしゃる……らしい。
屋敷の隣の区画では、住宅の建設もだいぶ進んでいる様子。
「また大所帯になったね」
「ふぉうらなぁー」
何かをパクパクと食べていたアイリーが、振り向いて首をタテに振った。
「あっそれ……!いいけど食べ過ぎないでよね、お供えするつもりだったんだから」
「あー、ミュリ様にか?お元気かなあ」
「そうだといいよね」
私は白いお皿にジャムパンを載せて、祈った。
『キャ、ありがとーっ♡』
満開の桜を連想する、淡い桃色のささやき声。
「ほぇっ!?」
アイリーはしばらくの間、声を追うようにキョロキョロしていた。
____________
厨房で昼の支度を終えたタイミングで、聞き覚えしかない野太い声が響いてきた。
しかも、ビブラートがかかりまくっている。
「アナタまで、ギルドに行ってしまうんですかぁぁ?
お願いですぅ!ほんの少しでいいから、残ってえぇ」
何だか久々の、料理長ルーヴァンさん。ヤケに情けないような……。
ワケ知り顔の料理人に聞いたら、どうやら厨房のメンバーからも攻撃魔法の使い手がでたらしい。
その青年、もともと野菜を洗い皮をむくなどの魔法が使えて、重宝されてたんだとか。
そういえば、私が初めて厨房に来た日に見た魔法。
毎日見るうち、普通に捉えていたけど……。
「お給料でしたら、ワタシが!いまの1,5倍、いや倍!出しますからぁ……」
半泣きで、自分の年齢の半分も行かない青年にすがっている。
お金に目のないあのルーヴァンさんが、自腹?よほどのことだ。
青年のほうはメイワク大半、引き留められる嬉しさ1割ってところかな……。
私は、アイリーにささやく。
「確か……ギルドからの要請は、国家からの要請に等しいんだよね」
「そそ。ほとんど決定だな」
「……でも、どうして魔法が使える人が増えてるんだろう」
「さあ、そんなのさっぱり……あ、思い出した!」
「?」
「ミルヴァンがさ、屋敷の環境とか?あと食事がいいからだって。……んなワケないのにな」
「へえ、どうなんだろうね」
案外、その線アリかも。ミルヴァンさんの言うことだし。
背後に、並々ならない圧を感じてゾワワッときた。反射で振り向く。
「ナ~ガ~メさーん、アイリーさ~ん」
「はいい?!」「何だよ」
不意を突かれた。ルーヴァンさんだ。いつも以上に圧がすごい。
「アナタたちぃ、頼りにしてますよ!ね?!」
「わ、分かってます……!」「何とかなるって」
「じゃ早速、今から!!」
「ウッソだぁ!」
幸か不幸か、大量に玉ねぎっぽい野菜をカットするタイミングで、泣けた。
……とにかく、新入りさんはイチから優しく育てよう!と思った。
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